侯爵様の溺愛奮闘日誌~絶対に彼女を振り向かせる~
藤芽りあ
侯爵様は出会ってしまった
第1話 気になる令嬢【フレン】SIDE
「ユリアーナが女官試験に合格した?! そうか!! 無事に合格したのか!!」
私、フレン・キュライルは、執務机に座って落ち着かない気持ちで仕事をしていた。
そんな私に、側近のガイが最愛の女性ユリアーナ・ガイルド。ガイルド子爵家ユリアーナの女官試験の合格を伝えてくれた。
「お館様が裏から支援した甲斐がありましたね~~」
ガイが、嬉しそうに声を上げた。
私は、執務机からガイを見ながら言った。
「よし、ユリアーナの好きなライラックの花を、屋敷を埋め尽くすほど贈ろう!!」
「お館様、香りの強いあの花をそんなにたくさん贈ったら、迷惑行為なのでやめましょう」
「では、菓子にするか? 王都中の菓子屋から菓子を買い占めて……」
「それも迷惑なのでやめましょう。そもそも、名前も知らない、面識もない男性からの贈り物など、非常識極まりありません。気味悪いと嫌われて……終わりです」
「気味悪いと嫌われて……終わり……」
私は、頭を抱えた。
そう、私はユリアーナを良く知っているが、ユリアーナは私のことは知らないのだ。
私がユリアーナと出会ったのは、一年ほど前のことだった。
◆
「ああ、懐かしいな。変っていない」
私は、陛下から教育の環境の向上を命じられ、出身学校でもある王立学術院に向かった。ここは、身分も関係なく優秀な人材が通う場所だ。だが実情は幼い頃から家庭教師などを付けて勉強することのできる貴族ばかりが通っているので、貴族院と呼ばれている。
私の隣で、ガイが楽しそうに頷きながら言った。
「そうですね~~さぁ、学長がお待ちですよ。行きましょう」
ガイは元は男爵家の三男でこの王立学術院の同級生だった。ガイは文武両道で優秀だったが家が貧しくて、途中で学院を退学することになった。そこで私は、卒業したら、私の側近になることを条件に、ガイの学費を出したのだ。
「そうだな」
私たちは学長に会いに学院内に入った。
「フレン様ではありませんか?」
「本日はどうされたのですか?」
「フレン様、一緒にお話しして下さいませんか?」
学院内に入った途端に、女子生徒に囲まれた。初めは珍しいのだろうと対応していたが、彼女たちは始業のベルが鳴っても教室に向かおうとはしなかった。
「授業が始まりましたよ」
そう言ってやんわり注意すると、「もう卒業単位は取っているので問題ありません。それより、フレン様とお話したいですわ」と言って絡んで来た。学院に通っていた時も、よくこのようなことを言われたが、ガイのように学びたくとも学べない者もいるのに、学ぶ機会を自ら捨てるような人間に共感することが出来なかった。
――いくら教育環境を整えても、学ぶ気がなければ意味がない……。
私は、すでにこの仕事に対してやる気を失っていた。
◆
「相変わらずモテますね~~お館様」
「ガイ、嫌味はやめろ……本気でうんざりしている」
学院長と話をした後、私は歩く度に生徒に絡まれて、図書館に到着するまでかなりの時間を要してしまった。
図書館に来れば、絡まれることもないだろうと思っていたが、図書館に入っても視線が突き刺さる。中には私の近くまで来て小声で話かけて来るものもいて、私はそろそろ限界だった。
すると目の前に本棚から本を取ろうとしている女子生徒がいた。私は女子生徒の取ろうとしていた本を代わりに取ってやった。
「これだろうか?」
またしても赤い顔をして、『お礼だ』と言って、お茶などに誘われるのだろうかと少々うんざりしていると、女子生徒は私を見てにっこりと社交辞令だと思われる笑顔を浮かべて「ありがとうございます」と言って、あっさり本を受け取るとこれまで座っていたであろう近くの席に戻って一心不乱に勉強を再開した。
他の女子生徒が熱い視線を、男子生徒が取り入りたいという野心を秘めた視線を私に視線を送る中、彼女は私に見向きもしなかった。
自惚れのようだが、私よりも勉強を選ぶという女性と初めて出会い、私はなぜか彼女のことが気になってしょうがなかったのだった。
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