第13話 再びのお仕事(3)【ユリアーナSIDE】


「おはようございます。……元気ないですね~~」


 次の日、私が諜報部に向かうと、ジルが心配そうに声をかけてきた。

 私は溜息をつきながら言った。


「ええ……落し物をしてしまったせいで、尾行に失敗したの……夜会に潜入するの大変なのに……」


 実は夜会に潜入するのはかなり大変だ。

 根回しもいるし、調査費だって普段よりも多くかかっている。それなのに、全く成果なしだったのだ。

 ジルは、私の話を聞いて慰めるように言った。


「なるほど……確かに誰かに声をかけられた場合は、尾行は難しいですね。でも……ユリアーナさんは、怪しい行動は目撃したんでしょ? 何も成果がないわけではないですよ。夜会が終わるまで戻らずに3人で消えるって……完全に黒ですよ。ただ、3人ってところが謎ですね」

「そうね……」


 確かに浮気というのなら、令嬢と子爵と二人で消えるはずだ。

 それに……。


「これは確証があるってわけじゃないんだけど……令嬢の目当ては、子爵じゃなくて、秘書の男性だったように思うのよね……すごくキレイな方だったから」

「へぇ~~そんなに美形なんですか?」

「ええ。かなり」


 ジルが楽しそうに言った。


「……俺よりも?」


 ジルも確かに顔が整っているが……。


「そうね……タイプが全く違うからなんとも言えないわ。ジルは健康的で明るい雰囲気の男性だけど、あちらは穏やかで優しそうな雰囲気だったから」


 ジルは、困ったように呟いた。


「はは……顔が整っていることは否定はしないんだ。(もしかして、俺……脈あり?)」


 私は、再び書類を手にしながら言った。


「とにかく、次は成功させるわ!!」


 するとジルが目を細めて笑った後に言った。


「じゃあ、次の夜会潜入の次に日、あけときます!! 飲みに行きましょうね」


 私はジルの気遣いに感謝しながら言った。


「ふふふ。ええ。行けるようにするわ」


 こうして、私は再び夜会潜入の機会を待ったのだった。





「今回は、これなんかどう?」

「そうね。これでお願い」

「ええ。すぐに用意するわ」


 数日後、次の夜会潜入を目前にして、私は再び衣装部を訪れて衣装を選んでいた。


「あ、そうだ。この前、公爵家のシャルロッテ様から大量にドレスをもらい受けたと

きににね、面白い噂を聞いたの」

「どんな噂?」


 噂というのは、私の今後の仕事に繋がる可能性もあるので、必ず確認するようにしていた。


「シャルロッテ様、フレン様と婚約されるそうよ。それを聞いて、フレン様を狙っていた方々は肩を落としているそうよ」

「フレン様ってキュライル侯爵家の?」

「そうよ」


 フレン様は陛下からの覚えもめでたく、国外からのお客様も多く、社交界でも大変人気のある方だ。

 シャルロッテ様も公爵家の次女で、彼女の姉は王太子妃だ。

 そんな高貴な方々の婚約話は、何かの時に使えるかもしれない。

 私は、頭の中に二人が婚約するという噂を入れ込んだ。


「まぁ、公爵家と侯爵家の婚姻のお話なんて、雲の上のお話過ぎて、私たちには全く関係のない世界のお話なんだけね~~私なんて、噂で聞くだけで、実際にフレン様のお姿を見たことないもの」


 これは、ハンカチを拾ってもらったという話はしない方がよさそうだ。


「確かに私たちとは違う世界のお話よね~~あ、私そろそろ戻るわ。あとよろしくね」

「ああ、本当だ。後は任せて」


 時計を見ると随分と時間が経っていたので、私は後を任せて急いで諜報部に戻ったのだった。




「ああ、ユリアーナ。戻ってきたか!! よかった入れ違いになるとこだった」

「室長? どうされたのですか?」


 諜報部に戻ると焦った様子で、室長が話かけて来た。


「ユリアーナ。私は調査中に抜けて来たので現場に戻る必要がある。すぐに中身を確認してくれ」

「はい」


 私は、書類を受け取ると中身を確認した。


「――え?」


 私は、思わず書類を見ながら手が震えた。


  依頼取下げ願


 ドラン子爵の浮気調査依頼を取下げ願います。


  マルガ・ドラン


 私が受け取ったのは、またしても調査依頼の取下げ願いだったのだ。


 

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