第19話 一泊

佐藤栞先輩の最大の標的は華凛だった。

華凛は沈黙しながら歩く。

俺達は佐藤栞先輩と東野先生と別れてからファミレスを後にした。

そしてあまりに複雑な事だったのでそのまま帰る事にした。

それから俺達はアパートの階段を歩く。


「...華凛は知っていたのか?」


つい最後になってそんな言葉がポロリと出た。

すると華凛は無言のまま俺の背中に倒れかかって来た。

俺はその姿を背中で受け止めながら話を聞く。


「ねえ。とうちゃん」

「...ああ」

「今日、泊まっても良い?」

「え?い、いや。それは!?」

「...お話する代わりだよ」

「...!」


俺は何も言えず数秒考える。

オレンジ色の夕日を感じながら俺は外を見る。

そして俺は考え込むのを止めてから口をゆっくり開いた。


「分かった」


という感じで答える。

すると華凛は涙声で返事をした。



華凛が泊まる。

というか隣同士なのに泊まるとかあまり意味無い様な。

俺は考えながら華凛を待っているとドアが開いた。

それから華凛が入って来る。

既に寝巻き姿だった。


「えへへ。お待たせ」

「...あ、ああ」

「何だか緊張して。楽しみで」

「...そうか」

「...こ、これ似合う?」

「あ、ああ。可愛いよ」

「...そっか。良かった」


ピンクの寝巻きだった。

俺はその姿に心臓をバクバクさせながら華凛を迎え入れる。

流石に年頃の男女が、と思ったが。

だけど了承してしまった以上は。

そう思いながら心臓をバクバクさせているとそれとは裏腹に華凛は正座した。


「私は...佐藤先輩の計画は知っていた」

「な...何でそれを言わなかったんだ」

「...言ってどうなるの?犯罪も犯してないのに警察とか?」

「...」

「...一応、警察には行ったよ。そして相談した。杉山さんっていう刑事さんだった」

「そうだったんだな」

「彼は...ずっと犯罪を追っていたから今回、相談に乗ってくれた。髪の毛に白髪の混じった中年のおじさんだった。...そのおじさんは言ったよ。...何かが起きないと動けないって」

「...そうだったんだな」

「だけど捜査しているって話。...それも用場和彦の事も上がっているみたい」

「...」


俺は考え込んでから和彦の事を思い浮かべる。

そして俺は華凛を見る。

華凛の手は震えてながら膝の辺りを握り締めていた。

服がシワになりそうなぐらい握り締めている。

俺はその姿を見つつ窓から外を見る。


「...なあ。華凛」

「...?」

「外の三日月。綺麗だな」

「...そうだね。どうしたの?」

「...俺な。お前と一緒に外の三日月を見れて良かった」

「...それはどういう意味?」

「お前がどんな形であってもとてもこういう三日月の様に良い子だって意味だよ」


そして俺は華凛を見つめる。

華凛は俺を見ながら涙を流した。

それから歯を食いしばる。


「貴方を裏切ったみたいで申し訳ない」


そう言いながら歯を食いしばる。

俺はその言葉に華凛を少しだけ見開いてから見る。

そして言葉を発した。


「お前の行動は間違ってない」

「...うん」

「だけどお前のそのおばさんの事が非道だったとかそんなの分かる訳がない。...無理だったんだ。思い詰めるな」

「...そうだね。だけど私のせいで全てが終わっているんだよね」

「それは違う」

「え?」

「お前は思い込みすぎている。世界はそんなに終わってない。大体、終わっているなら俺の人格は成り立ってない」

「...とうちゃん...」

「お前は俺が好きなんだろ?それは自信にすべきだ」

「...あはは。相変わらずとうちゃんは」


言いながら華凛は泣き始めた。

俺はその姿を見ながら「...」となる。

それから華凛を見る。

そして華凛を抱きしめる。


「華凛。お前の思い。これから俺が半分引き受ける」

「そんなの無理だよ。...とうちゃんも忙しいでしょ」

「いや。...お前が死ぬよりかはマシだ」

「...本当にとうちゃんは優しいね」


そして華凛は肩をすくめるのを止めた。

それから顔を上げる。

俺を真っ直ぐに見据えた。

そうしてからニコッとする。


「...ああそっか。私...とうちゃんが居るから生きていけるんだね」

「...」

「清水さんととうちゃんとお姉ちゃん。そう。この3人が居たから」

「...ああ」

「だけどまだまだ未熟だね。私。...貴方にもう少しだけ甘えても良いかな」

「...勿論だ」


俺は華凛を抱きしめる。

それから横になった。

華凛は横で笑みを浮かべる。

その顔を見てから俺は天井を見上げる。

そして笑みを浮かべる。


「なあ。華凛」

「...うん。何。とうちゃん」

「佐藤栞先輩をどうにか説得したい。そして...」

「うん」

「...彼の才能は...捨てちゃダメだと思う」

「...」

「彼は操られている。絶対に」

「そうだね」

「お前の許可が得られる必要はあると思う。だけど佐藤栞先輩のこの暴走は必ず止められると思うから。そう信じてる」

「...うん。任せる。そこら辺のとうちゃんの思いは」

「また話してみる。有難うな」

「うん」


そして俺達はそのまま楽しい1日を泊まりあってから過ごした。

夕食は焼きそば。

それから餃子を作ったりした。

夜は別れたが2人で寝あったりした。

楽しかった。

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