第18話 闇に墜つ

正直に言って今、佐藤栞先輩に会うとは思わなかった。

だからこそ警戒してしまう。

佐藤栞先輩が本当に全てが計画的だったら...本当に警戒しなければならない。

この人の巧みな感じはもう見て取れるから。


「...さて」


佐藤栞先輩は俺をそして華凛をそれぞれ見る。

その姿に俺はジッと佐藤栞先輩を見る。

佐藤栞先輩は苦笑しながら肩をすくめた。


「そう警戒しないでくれ。実は君達に会いに来たのは...案件もあるからだ」

「案件って何ですか」

「...そうだね。...内藤智さんについてかな」

「...何で智の名前が出るんですか」

「彼女の事は知らないのかい?」

「知らないって何をですか?」

「...彼女は...君のお兄さんと付き合っている可能性があるよ」


俺はまさかの言葉に凍りつく。

それから...静かに反応する。

時が止まった様な感じがしたが。


「待って下さい。冗談も程々にして下さい」

「これを信じるか信じないかは別にして。俺は決して嘘は吐いてないよ」

「大体そんな情報をどっから調べ...」

「一言、言うとするなら俺は言った様にあれこれ調べているんだ。たまたまだった。これを知ったのは」

「そ、それでまさか。嘘でしょう」

「嘘か本当かは君が考えてくれ。...俺はヒントを与えた。俺はヒントを与える為にこの場所に来たんだ」


それから俺を見据える佐藤栞先輩。

俺はその言葉に汗をかく。

そして俺から視線を離してからこう言った。


「おかしな点とか無かったかな。無かったのなら...多分隠すのが上手いだけだろうけど...いずれにせよ多分、君の情報も漏らしている。彼女はね」

「そんな馬鹿な...」

「...まあ信じるか信じないかは君次第だ。...俺の事は信頼できない様だしね」


そして店員さんにドリンクバーとか注文する佐藤栞先輩。

すると横に居た華凛が佐藤栞先輩に聞いた。


「あの。それが事実だとして。何で私達に教えるんですか?」

「...そうだな。...俺は言った様に君達に興味があるから。だからこそ...こうして情報を提供したくなるのかもな」

「そうですか」

「...ああ。...だからまあ内藤さんには気を付けろとしか言いようがない」

「...」


俺は絶句しながら唖然とする。

それから考え込む。

それを全て事実にしたとしても...証拠を集めないと事実にならないだろう。

俺はスマホをチラ見してから佐藤栞先輩を見る。

佐藤栞先輩は俺を見ながら目線を目の前のお茶に移す。

そうしてからそのお茶が入っているコップを揺らす。


「...俺はあくまで真実しか話してない。...だけどこれを信じるかは君達次第だ」

「分かりました...」

「ああ。...だけど手を打つなら早めに打つほうが良いと思う。あくまで君は...甘い点があるからね」

「...そうですね」

「心を鬼にするのも大切だ。...全てにおいてね」

「...」


反論が出来ない。

そう思いながら俺はメラメラと何かが黒く燃え上がる感じがした。

俺を...裏切った。

智が裏切ったのか?

考えながら俺は自らの心の歪む感じがした。


「...佐藤先輩はどう思うんですか」

「俺は...そうだね。...まあ結果で言うなら...そうなのか、って感じだね」

「そうなんですね」

「ああ。...大体は怪しいって思っていたけど」

「...貴方は本当に嘘は吐いてないんですか?」

「俺は...まあ嘘だけは嫌いだから嘘は吐かない。...だから事実だと思う」


佐藤栞先輩はそう言う。

それから目の前の俺を見据えてくる。

俺はその視線の奥を見る。

佐藤栞先輩は嘘は吐かないだろう。

と言うかこんな場所で嘘を吐ける根性を持つ奴は居ないと思う。


じゃあ何か。

アイツ...智が嘘を吐いて迫って来ていたのか。

どうしてそんな事に。

そう思いながら俺は青ざめる。

するとそんな俺達に声をかけてくる奴が居た。


「よお」


それは...東野先生だった。

俺は衝撃を受けながら目の前を見る。

佐藤栞先輩も東野先生を見て驚いている。

そんな東野先生は俺達を見ながら肩をすくめた。


「...たまたま通りかかって話を聞いたらこれか」

「...先生。どういう...」

「実はな。用場。あの部活を立てたのは私なんだ」

「...え...」


俺は固まる。

そして東野先生を見る。

どうなっている!?

俺はそう思いながら東野先生を見る。

すると東野先生は俺を見る。


「あの中。つまり復讐部の存在意義は佐藤自らが自由に使う為じゃないんだよ。あくまで...コイツらの更生の為に存在している。...筈だったんだが」

「...佐藤先輩がそれを破綻させた。破壊したって事ですか?それは...つまり佐藤忍さんに復讐する為に?」

「途中からは違う」

「...え?」


俺達は東野先輩を見る。

東野先輩は怒り混じりに佐藤栞先輩を見る。

佐藤栞先輩は苦笑していた。

そして俺達を見る。

言い逃れ出来ない感じの囚人の様に。


「...佐藤栞は分かってきているんだよな。住永の中で起きている闇を」

「...それはどういう...」

「建設会社は...住永建設という。...その住永建設の社長。...佐藤の復讐相手の1人なんだが」

「...?」

「彼女の親戚は長友という」

「...まさか」


戦慄した。

それから俺はバッと華凛を見る。

華凛は絶句していた。

そして俺は佐藤栞先輩を見る。

まさか復讐って。


「...言い過ぎですよ。東野先生」

「...それは無いだろう。全てを利用して全てを地に落とそうとしているのは君だ。...あくまで君は長友華凛を許せないんだろう」

「...」


まさか。

そんな馬鹿な事が。

そう思いながら俺は佐藤栞先輩を見る。

佐藤栞先輩は苦笑いを浮かべた。


「...そう。途中で知って計画が変わってね。...それで今に至っている」

「...まさか。そんな事って。じゃあ最終的には華凛に...」

「同じ目に遭わせるつもりだったって事かな。住永建設は佐藤忍の被害者、事件に関して全てを揉み消そうとしている。全てを短絡的にしようとしている。じゃないと内部事件。会社の失墜に繋がるしな」

「佐藤先輩。...貴方は...」

「あくまで俺は兄貴の事が大切だ。だからこそ君が平然と学校に行って。ADLなどを保っているのが...悔しくてね」

「途中から逆恨みじゃないですか。智は何の為に教えてくれたんですか?」

「...わからない」


そして俺は唖然としながら佐藤栞先輩を見る。

佐藤栞先輩は東野先生を見る。

東野先生はジッと佐藤栞先輩を見ていた。


「...佐藤。お前の計画は全てが地に落ちる。上手くはいかない」

「それはどうですかね?」

「君が本当にやりたいのか?そういうのを」

「...」


俺は佐藤栞先輩を見る。

それから考え込む。

数秒がかなりの時間に感じた。

そして佐藤栞先輩が口を開いた。

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