第17話 焦り


佐藤忍さんの話を伺った。

その佐藤忍さんは鉛中毒を受けボロボロの身体になっていた。

俺はそんな佐藤忍さんの姿を見て必死の思いを受け止める。

彼は本気で苦悩していた。

まるで...俺の姿を鏡とかに写している様な感じがした。


「...」


翌日になり起き上がる。

それから考え込んだ。

応える事がこれほど難しいなんて思わなかったなって思う。

俺はしっかり考えながら後頭部を掻いた。

そして目の前を見る。


「...どうするか、だな」


そして起き上がる。

それからスマホを持ち充電コードを外して文章をタカタカと打った。

その相手は華凛である。


(華凛。おはよう。起きているか)

(はい。起きていますよ)

(...昨日の話を聞いてどう思った?)

(...一言で纏めると考えが変わりました)

(具体的には?)

(佐藤先輩もその。被害者だなって)


そう華凛は書いてきた。

俺はそんな文章を見ながら壁の時計を見る。

それから立ち上がる。

そして文章を打つ。


(なあ。華凛)

(はい?)

(一緒にどこか今から外に出ないか)

(え?どこにですか?)

(まあ具体的にはショッピングモールとか気晴らしに出かけないか)

(あ、成程ですね。それ良いかもしれません。まあその。内心...ボロボロですから)


そう話す華凛。

俺はその言葉に複雑な顔をする。

それから...準備を始めた。

そして華凛に文章を打って聞いてみる。


(具体的にどこに行きたい?)

(私ですか?...私、可愛いものが見たいですね)

(...そうか。それじゃあ犬とか猫とか見ようか)

(とうちゃんが行きたい場所で良いです。大丈夫ですよ)

(ああ。動物観るのはいずれにせよ癒しになるしな)

(じゃあとうちゃんの言う通り動物を観ましょう)


それから俺は上着を着てから表に出る。

少しだけ待ってから華凛の、と思って居たらドアが開いた。

そしてとても可憐な感じの...彼女が出て来た。

俺はついうっかりと見惚れてしまった。


「えへへ。どうですか」

「...その服、どうしたんだ?」

「はい。いつか。いつか大切な人との想い出を作りたい。そう思って買っていたんです」

「なら結構前に購入したっていう事か?」

「それでも2年前ですけどね」


華凛は苦笑いを浮かべながら少しだけ頬を朱に染める。

それから俺を見上げてきた。


「それこそ貴方に再会したらなって思って」

「...い、いちいち恥ずかしいな」

「いや。本心ですから」


そして華凛は鞄を見てから俺を見てくる。

それからこう言ってきた。


「とうちゃんも格好良いです」

「...俺はマイナー過ぎて少しだけ恥ずかしい気分だ」

「マイナーじゃないです。格好良いです」

「...有難うな。そう言ってくれて感謝だよ」


俺はそう苦笑しながら華凛を見る。

頬を掻きながら空を見上げた。

すると華凛は空を見た。


「晴れ渡りましたね」

「それは確かにな。晴れたな」

「...絶好日和です」

「確かに。...じゃあ行くか」


それから俺は華凛の手を握る。

そしてそのまま歩き出した。

すると華凛は俺の手を優しく握り返した。

そうしてから笑みを浮かべる。


「ねえ。とうちゃん」

「...ああ。どうした」

「...昨日、ずっと考えていました」

「...もしかして佐藤栞先輩の事か」

「はい。...彼は...その。先輩ですけど先輩って感じがしないんですよね」

「同級生って事か」

「そうですね」

「...確かにな」


俺は顎を撫でる。

それから前を見ながら歩く。

そしてショッピングモールまでやって来た。

この街の要と言っても過言じゃない場所であるが。

そう思って前を見る。


「え」


唖然とした。

何故ならそこに佐藤栞先輩が女性と歩いて入店していた。

確か横に居る女性は長住さんだ。


「...デートですかね?」

「知らないな。分からない...が」


俺は考え込む。

だけど腕を組んでない。

それに距離も少しあった。

だけど長住さんは...あれは。


「...少しだけ遅めに行こう。華凛」

「...そうですね」


それから俺達はその2人を見てから5分後に入店した。

そして早速、ペットショップに向かった。



佐藤栞先輩に...付いて行く、か。

そう思いながら俺は生き物達を見つめる。

そこには純粋無垢な性格そうな感じの動物たちが居る。

華凛は楽しそうにはしゃいでいた。


「楽しいです」

「...そうか。うん。良かった」

「とうちゃんは楽しいですか?」

「ああ。楽しいよ。有難うな。全部お前のお陰だよ」

「...ですね」


それから俺はつぶらな瞳のその子達を見ながら沈黙する。

そしてずっと考えていると店員さんに声を掛けられた。


「カップルさんですか?」


という感じで、だ。

華凛は赤面しながら大慌てになる。

そして華凛は否定をした。


「い、今は違います」


という様な感じで、だ。

俺はその姿を見ながら笑みを浮かべる。

すると店員さんは笑みを浮べながら驚きを見せる。


「そうなんですね。その。カップル限定の特典がありましたが...」


すると華凛は思いっきり性格が変わった。

大慌てになりながら手をグルグル回してから目を回す。

俺はその姿に店員さんに向く。


「すいません。やっぱりカップルです」

「あ。でしたら...その。こちらに。カップルボードの前で好きな子と写真を撮って私達が印刷するサービスがあります」

「そ、そうなんですか」


俺達はモジモジしながら写真を撮ってもらった。

ミニチュアピンシャーを選んだ。



「えへへ...えへへ」

「嬉しそうだな。華凛」

「こんなサービスって1000円ぐらい掛かりますから。...有難いです」


そして胸にビニール袋に入った写真を押し当てる。

俺はその姿を柔和に見ながら歩いていると。

背後から声がした。


「やあ」


という感じで。

俺達はビクッとなって!となりながらその人物を見る。

それは...佐藤栞先輩だった。

横に長住さんが居ない。

華凛が直接聞いた。


「...長住さんは何処に行ったんですか?」

「あ。やっぱり気が付いていたんだね。俺も2分前ぐらいに気が付いてね」

「...」

「ああ。そんな顔をしなくても。帰った。...お断りしたんだ」

「...お断りって?」

「...俺の復讐に巻き添えにするつもりは無いから。好きって言われたから断ったんだ」

「...」


俺達は困惑しながら佐藤栞先輩を見る。

すると佐藤栞先輩は笑みを浮かべる。

それから一言呟いた。


「変な妄想に人を巻き添えに出来ない」


小さくその様に、だ。

あまりに小さく。

人込みの中に声が消えそうだったが俺には時が止まった様に鮮明に聞こえた。

間違いなくそう呟いたと思う。


「...佐藤先輩...」

「ん?どうしたの?」

「...いえ」


そして佐藤先輩は肩をすくめた。

まるで自分自身を嘲ている様に見える。

それから2階部分を見上げる。

そこにはファミレスがある。


「お茶しない?ここで出会ったのも何かの縁だから」

「...はい」


断れない気がした。

というか今断るとマズい気がする。

何がマズいか分からないがとにかくマズい。


そうだな例えるなら。

4つの角の柱のどれかが折れて全てが崩れ落ちるぐらいには。

つまり何が言いたいかというと。


佐藤栞先輩は本当はかなり追い詰められているんじゃないかなと。

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