第16話 長友帝(ながともみかど)
佐藤栞先輩の過去の話を聞いた。
その話とは佐藤栞先輩の生い立ちから始まる。
実の所、佐藤栞先輩と忍さんは交通事故でご両親が亡くなったそうだ。
それから忍さんが頑張って育てたらしい。
だがその最中で忍さんは誰かから鉛。
つまり毒を盛られた。
「...正直、彼のやっているのは傷害や殺人に近い。許せないのは...本当に分かるが栞には犯罪者になってほしくないんだ」
「...そういう事なんですね」
「そうだな。...だからこそ君達に改めてお願いするよ。...栞を止めてくれるかな」
お茶を飲み少しだけ話をしてからの30分後。
玄関で靴を履きながら忍さんは俺達を見る。
そして頭を下げてきた。
俺はその姿に戸惑ったが返事をした。
「はい」
という感じで、だ。
すると横に立っていた華凛が声を掛ける。
「あの。忍さんは本当に恨まないんですか?そのやられっぱなしで」
「...君も確か栞の協力を求めてから復讐する予定なんだろう?」
「はい。だって許せないですから」
「あくまで先輩からアドバイスしておこうかな。...俺も復讐はしたいよ」
「...え?」
「でもハッとして大人ってそういうもんなのかなって思ったんだ」
忍さんは胸に手を添える。
そして酸素ボンベを撫でる。
それから顔を上げてから神妙な顔つきの俺達を見つめた。
そうしてから笑みを浮かべる。
「これは運命だったって考えると。少しは気が楽なんだ」
「...ですけど」
「...うん。分かる。怒りたい気持ちは。だけど一度落ち着いてごらん。それから考えていくんだ。...先走りで攻撃したらそれこそ奴らと同じ目に遭う」
「はい」
「...計画性を持って。栞みたく復讐の鬼にならない様に復讐しないとね。俺はそう思うから」
そして忍さんはドアを開けた。
それから俺達に頭を下げる。
そうしてからドアがゆっくり閉じた。
俺はその光景を見てから踵を返す。
「...ねえ。とうちゃん」
「ああ。どうしたんだ」
「私、間違っているのかな」
「...間違ってない。だけど今の華凛の考え方は急ぎ過ぎているんだよ。俺は必ず用場和彦と里島めぐるには復讐する。だけどお前は血走り過ぎだとは思う」
「...そうなんだね」
「ああ。だから少しだけ頭を冷やしてから行動しよう。それってどうかな」
「...うん。分かった。とうちゃんがそう言うなら私、少しだけ考え直してみるよ」
「...華凛?」
「今日...忍さんに出会って良かった」
そう言いながら華凛は布巾でちゃぶ台を拭く。
それからお茶の入っていたコップなどを次々に片していく。
俺はその姿に声をかけた。
☆
佐藤忍という人に出会った。
その人は私が出会った佐藤栞先輩のお兄さんに当たる存在の方だった。
だけどその人は鉛の事件をきっかけに呼吸器が必要になっていた。
私はその人の考えを聞いてから驚いた。
そして改めて私は...自らの事をまた再考した。
それから私は隣の部屋に帰ってから...そのまま考えに考え込む。
だけど頭の中では復讐の事ばかりだ。
憎悪が浮かぶ。
考えがそっちの方にしか進まない。
あくまでも。
許せない...が。
間違っているのは私だという事だ。
だからどうにかしなければならないだろう。
「...どうしたら良い?清水さん」
私はそう呟きながら写真立てを見る。
それから私は写真立てを持った。
そうしてから私は写真立てを置いた。
「何にせよ。私は...」
それから私は立ち上がる。
私はこのままでは駄目だと思う。
だからこそ私は。
私は。
「...失ったものを嘆くより前に進まないと」
そして私は写真立てを見る。
するとスマホが鳴った。
それから私はビクッとしながらスマホを見る。
そこには080から始まる番号の記載。
「...もしもし」
「やあ。久々だね。...華凛」
「...何の用事ですか。帝さん」
「華凛。それは無いだろう?実の父親に対して。名前で呼ぶとはな」
「そもそも電話番号をどこで入手したんですか?ありえないぐらい汚らわしいです」
そう私は言い放つ。
長友帝(ながともみかど)。
コイツの名前だが。
私の実の父親であるが父親と思った事は無い。
「用件は何ですか?帝さん」
「端的に言うとお前も参加してくれるか。就任式に」
「会社の、ですか。断ります」
「言うとは思ったが。だがそんな権限が君にあると思うかね?華凛」
「...」
「参加。命令だ」
参加、命令。
笑わせてくれる。
所詮は上っ面だけの関係なのに何でそんな事をしなくてはならない。
そう考えながら私は彼の事を思い出す。
優しいとうちゃんを、だ。
私は死んだ様な顔をしながら真顔で言い放つ。
「お断りします。私の人生は私のものですから。貴方がたに関わっている暇は無い」
「そうか。然るべき対応を行う。これからお前に何が起こっても知らないからな」
それから私は脅しを聞きながらそのままスマホの通話を切った。
そして私は思いっきりベッドにスマホをそのまま叩きつけた。
クソッタレ忌々しい。
「今更。今更...娘がどんな感じで居たかも知らない癖にこの屑が」
私は呆れながらそのままスマホを一瞥した。
クソッタレすぎる。
本当にクソッタレすぎる。
そう考えながら私はイライラしながら想像を切り替える。
それから私はとうちゃんの顔を思い浮かべる。
それだけで胸が暖かくなる。
「私は...不幸だけど乗り越えれば」
そう考えながらまた私はとうちゃんの姿を思い浮かべてから顔を綻ばした。
それからまた横になってからそのまま鼻歌混じりでスマホを観た。
因みにだが帝のかかってきた電話番号、アカウントとかは全てブロックした。
当たり前の事だが忌々しいと思う。
本当の本当に。
これが親だとしたら計り知れないぐらい最低であろう。
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