第7話 犠牲の心
☆
私は...彼が用場和彦を殴る所を見ていた。
彼は私の為に犠牲になってくれた。
私...なんかの為に。
というかその正義深い感じを見て...私は。
やはりかつてを思い出す。
彼はきっと。
☆
「付き合ってくれてありがとう」
「いえ。...用場さんが買いたい物が買えて良かったです」
「...それで...その」
「...はい?」
「...さっきは変なもん見せてしまったね」
そう言いながら沈黙する用場さん。
私はその姿に「いえ」と頬を赤く染める。
それから「滅茶苦茶、格好良かったです」と話した。
その言葉に用場さんは「!」となる。
「...私、ヒーローだって思いました」
「...そんな大げさなもんじゃない。...ただの落ち武者だよ」
「私、落ち武者でも何でも良いです。貴方は格好良かった」
「...」
「...有難う御座います。私を救ってくれて」
言いながら私は用場さんの手を握る。
すると用場さんは「あ、あの?」と慌てる。
私は握ったその手を見てから用場さんに疑問符を浮かべる。
「どうしたんですか?」と。
用場さんは「な、何で手を握っているのか」と聞いてきた。
「ああ。これですね。ただのスキンシップです」
「...ビックリしたよ。凄いスキンシップだね」
「スキンシップ...嫌ですか?」
「い、いや。何でそんなに近いのかなって」
「...あ。成程ですね。...これは簡単です。...用場さんなら信頼していますっていう証ですよ」
「...!」
用場さんは恥ずかしいのか赤面してから口元を覆う。
まあそれは全て嘘なのだけど。
何が嘘かと言えば。
用場さんに接するのが嘘の部分がある。
何というか用場さんが気になり始めているのだ。
「...私、用場さんなら構わないんです」
「え?」
「用場さんなら手を握っても良いかなって思っています」
「...そ、それはどういう意味?」
「アハハ。内緒の感情です」
「...」
私は用場さんを見上げる。
それから柔和な顔をしながら用場さんの手をにぎにぎする。
そして感触を確かめてから用場さんから手を離す。
そうしてから用場さんを見た。
「用場さん。これからも宜しくお願いします」
「...あ、ああ、うん」
「用場さんという人に出会えて幸せです」
「...そ、そうなんだね」
用場さんは戸惑いながらも笑みを浮かべた。
私はその笑みを見ながら歩き出す。
そしてアパートに帰って来る。
それから私はくるっと一回転した。
「...用場さん」
「...ああ。どうしたの?長友さん」
「私、用場さんに出会った事があります」
「...?...それはどういう意味?」
「かつて、用場さんに出会いました。幼い頃に」
「...え」
「私、用場さんに出会ってから世界が変わりました」
そう言いながら私は用場さんを見る。
用場さんは「...え?!」と愕然とした。
私はその顔に「...きっと彼は用場さんでした。...貴方が森田幼稚園に来てから。私を救ってくれた。...それだけだったのですが私にとってはかけがえの無い時間になりました」と告げながら用場さんを見る。
用場さんは唖然としていた。
「...え?じゃあ君は...りんちゃん?」
「私、当時の事、あまり覚えていません。親に殴られたので。...記憶が飛んじゃって。...でも私、1つだけ思い出しました。そう...貴方はとうちゃんだった」
「...!!!!!」
「徹でとうちゃん。...やっと会えました。私の大切な人」
用場さんは真っ赤になる。
それから「...き、君は...」となってから口元を覆う。
私は話を続けながら「用場さん。久々です。本当に」と涙を浮かべる。
すると用場さんは「...」となってから涙を浮かべた。
「そうか」
とだけ呟いてから俯く。
私はその表情に涙を拭く。
それから「大変だったですね。...とうちゃん」と伝えた。
とうちゃんは「...ずっと探していたよ。君をね。...だけどもう無理かと思ったんだ」と言葉を発してから俯く。
「...私は無理って思っていませんでした。だけどきっかけが見つからなかったので...それに何も無かったですしね。当てが」
「...そうなんだね」
「...はい。...ごめんなさい。私、情けないんです」
「え?何が?」
「私は...里島と関係が失敗してもらって嬉しくなりました」
「最低最悪の人間ですよ」と言いながら手すりに手をかける。
それから歩いて登っていると「それは無いよ」と声がした。
私は「え?」となってから彼を見る。
とうちゃんは「...華凛。君がそう言ってくれて有難かった」と強く見てくる。
「...俺は君に再会出来ただけで奇跡って思っている。だからそう言わないでくれ」
「...とうちゃん...」
「俺は...君が気になっていたから。真面目に有難いよ」
「...そうだったんですね」
「ああ。本当に有難うな。勇気を出してくれて」
「...とうちゃんも勇気を出しています。...それに応えないといけないって思っただけです」
そう言いながら私達は笑みを浮かべ合う。
それから私達は部屋に戻った。
そして...私は胸に手を添える。
心臓がバクンバクンと波打っていた。
☆
「...」
私、里島めぐるは用場徹に嫌われた。
まあ仕方が無かったとはいえ。
結構来るものがある。
自業自得なんだけど...だけど。
それでも。
「じゃあこれ生活費。んでもって約束の金」
「...はい」
「どうしたんだ。しけた面して」
「...何でもないです」
とあるアパートの一室。
目の前に居るこの男。
名前は用場和彦という。
ニット帽を被ったタトゥーの入っている...私の彼氏。
いや。
正確には彼女と思われてないかもしれない。
「しけた面すんな。お前は父親を救いたいんだろ?あ?」
「...そうですね」
「だったら明るくいかないとな」
「...はい」
私の実家だが。
母親は風俗業、父親は何らかの中毒症状で倒れている。
そして私と妹。
その組み合わせで...生き抜いている。
因みに父親だが働けるような状態では無い。
その為。
「...和彦。...も、もう私。この関係を辞めたい」
「あ?じゃあ金はどうすんだ?」
「貴方が...お金を持っているのは知っている。だけどもう...」
「そうか。なら今まで渡した分返せよ。お前。ふざけんな」
そう言われて私は「...」となってから言い淀む。
既に父親の療養費で既に300万円は吹っ飛んでいる。
そのお金を今直ぐ返せと言われて。
返せる訳が無い。
「...何でもないです」
「そうか?良く分かっているじゃないか」
私は地獄を見ている。
多分これは警察に言っても無理だ。
個人間の貸し借りだから。
そう思いながら私は「...」となって黙った。
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