第5話 一筋の光
☆
かなり。
いや、結構ドキドキした。
俺はそう考えながら胸に手を添える。
それから考えてみる。
彼女。
隣人の長友を押し倒してしまった。
俺は何をしているんだ。
全く。
変態的すぎる。
「用場さん」
「は、う、うん、何?」
「さ、さっきの事は忘れて下さい」
「あ、そ、そうだね」
俺達はそう話しながら沈黙する。
それから俺は静かに片付けをしている中。
長友が10分ぐらい経った後に話掛けてきた。
「用場さん。そろそろ換気しましょうか」
「ああ。だな。それから夕食の準備でもしようか」
「ですね。そうしましょう」
長友は笑顔で俺を見る。
その顔につい聞きたくなった。
「長友」と言いながら俺は真剣な顔を長友に向ける。
柔和なその顔を見る。
が。
さっきの事が過り俺は何も言えなくなる。
その可愛い顔に。
「な、何でしょう?」
「...何でもない。すまない。...声を掛けるタイミングを間違えた」
「...じゃ、じゃあ私から言わせて下さい」
「え?」
「今がとても楽しいです」
「...楽しい?...俺と一緒なのが?」
「はい。...今までずっと楽しいっていうのが何か分りませんでした。...だけど今がそうなんだなって。そう感じました」
長友はそう言いながら俺を見てくる。
俺はその姿に「そうか」と返事をする。
だけどこんなつまらない人間に一緒で...?
そんな事ってあるか?
「...俺なんかに付き合ってくれて有難うな」
「貴方だからですよ」
「...俺だから?」
「...そうです。貴方が用場さんだったからです」
「意味が分からんが...そうなんだな」
「そうです」
そして長友は窓を開ける。
風が吹いてくる。
俺の汚らしい部屋に一筋の光が見えた。
その事に俺は苦笑しながら片づけをする。
すると長友が風景を見て言った。
「凄い良い景色ですね。1つ部屋が変わるだけで...」
「...そうかな。...俺にとっては風景も1つの絶望だよ」
「...そうなんですね」
「ああ。だから何とも言えない」
「...じゃあこれからは私と一緒に楽しい景色に変えていきましょう」
そう言いながら長友は笑顔で俺の手を握る。
俺はその事に(無意識にやっているのか!?)と思いながらドキッとする。
それから長友は「じゃあこの辺りで止めて。ご飯作ります」と言う。
そんな姿に俺は「あ、ああ」と返事をしながら長友を見る。
「ハンバーグとお野菜。そしてスープにご飯」
「...すまないな。お前の手を煩わせてしまって」
「じゃあ今度お礼をして下さい」
「...ああ。お金なら幾らでも...」
「違います。...一緒に買い物に行きませんか」
「ああ。それ...え?」
俺は赤くなる。
それから「ま、待て。どういう意味だ」と言葉を発する。
すると長友もハッとしてから「そ、そういうのではないですから」と否定する。
俺は「そ、そうか」という感じになりながらそっぽを向く。
「...そういう感じが良いですか?」
「え?は、い、いや!?冗談だろ」
「...」
「...」
長友は赤面しながら前を見る。
そして食材を取り出した。
俺はその姿に「長友」と意を決して聞いた。
すると長友は「はい?」と向いてくる。
「買い物。付き合うよ」
「そうですか...じゃあ一緒に行きましょう」
「しかしお前。大胆になってきたな」
「わ、私は大胆じゃないです」
「ハハハ」
そして俺は長友を見る。
長友は頬を膨らませてから「もー」となる。
俺はそんな顔に「すまない」と言いながら立ち上がる。
「何か出来る事あるか」と聞いた。
「そうですね。...じゃあ食器と...お箸。それから...」
俺は長友の指示を受けながら準備をしていく。
その中で1つ疑問に思った事があった。
長友は料理を教わったのだろうか?、というの。
俺は長友を見る。
「長友。お前、料理を教わったのか?」
「...自力もありますけどね」
「それはご両親から?」
その言葉に。
真顔になってから冷めた感じになる。
冷徹になった。
「...まさか。あり得ません」
そう言いながら笑顔になる長友。
俺は何か地雷を踏みぬいた感覚になり。
そのままその事は聞かない事にする。
ヤバい感じがした。
「...長友。すまん」
「...はい?」
「聞かなければ良かったな」
「いえいえ。料理なら私のお姉ちゃんに教わりました」
「...ああ。そうだったのか」
「10歳ぐらい歳が離れていますけどね。仲が良いです」
長友はそう言いながらニコッと笑顔になる。
いつもの調子に戻った様だ。
なんかさっきの殺気の込めた冷めた顔は...嫌だしな。
そう思いながら俺はフォローをした。
☆
ハンバーグが出来た。
それから野菜を切ってから添えて。
そしてスープも出来た。
ご飯も、だ。
「...美味しそうだな」
「今日は張り切りましたよ」
「...そうなんだな」
そして俺はそれら一覧を見てから笑みを浮かべる。
長友は笑顔になりながらちゃぶ台に全てを並べていく。
そうしてから俺を見た。
「じゃあ食べましょうか」
「...そうだな。...いただきます」
「はい」
俺はハンバーグを一口食べてみた。
肉汁が素晴らしく...美味しい。
味わい深い。
俺は「...」となりながら煮物を思い出す。
やっぱり料理が好きなんだな、と思う。
「...美味しいですか?」
「うん。滅茶苦茶に美味いよ」
「良かったです」
するとゆっくり長友は箸を合わせてゆっくり置いた。
それから俺を見てくる。
俺は「?」を浮かべながら「こういう感情なんですね。男の人の奥さんっていう役職の人は」と言い出す。
な!?
「お、おう?」
「...深い意味は無いですよ?」
「...お、おう」
何を言い出すかと思えば。
赤面が止まらない。
無自覚なのか何なのか分からないが。
とにかく止めてほしいもんだ...。
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