第5話 一筋の光


かなり。

いや、結構ドキドキした。

俺はそう考えながら胸に手を添える。

それから考えてみる。


彼女。

隣人の長友を押し倒してしまった。

俺は何をしているんだ。

全く。

変態的すぎる。


「用場さん」

「は、う、うん、何?」

「さ、さっきの事は忘れて下さい」

「あ、そ、そうだね」


俺達はそう話しながら沈黙する。

それから俺は静かに片付けをしている中。

長友が10分ぐらい経った後に話掛けてきた。


「用場さん。そろそろ換気しましょうか」

「ああ。だな。それから夕食の準備でもしようか」

「ですね。そうしましょう」


長友は笑顔で俺を見る。

その顔につい聞きたくなった。

「長友」と言いながら俺は真剣な顔を長友に向ける。

柔和なその顔を見る。


が。

さっきの事が過り俺は何も言えなくなる。

その可愛い顔に。


「な、何でしょう?」

「...何でもない。すまない。...声を掛けるタイミングを間違えた」

「...じゃ、じゃあ私から言わせて下さい」

「え?」

「今がとても楽しいです」

「...楽しい?...俺と一緒なのが?」

「はい。...今までずっと楽しいっていうのが何か分りませんでした。...だけど今がそうなんだなって。そう感じました」


長友はそう言いながら俺を見てくる。

俺はその姿に「そうか」と返事をする。

だけどこんなつまらない人間に一緒で...?

そんな事ってあるか?


「...俺なんかに付き合ってくれて有難うな」

「貴方だからですよ」

「...俺だから?」

「...そうです。貴方が用場さんだったからです」

「意味が分からんが...そうなんだな」

「そうです」


そして長友は窓を開ける。

風が吹いてくる。

俺の汚らしい部屋に一筋の光が見えた。

その事に俺は苦笑しながら片づけをする。

すると長友が風景を見て言った。


「凄い良い景色ですね。1つ部屋が変わるだけで...」

「...そうかな。...俺にとっては風景も1つの絶望だよ」

「...そうなんですね」

「ああ。だから何とも言えない」

「...じゃあこれからは私と一緒に楽しい景色に変えていきましょう」


そう言いながら長友は笑顔で俺の手を握る。

俺はその事に(無意識にやっているのか!?)と思いながらドキッとする。

それから長友は「じゃあこの辺りで止めて。ご飯作ります」と言う。

そんな姿に俺は「あ、ああ」と返事をしながら長友を見る。


「ハンバーグとお野菜。そしてスープにご飯」

「...すまないな。お前の手を煩わせてしまって」

「じゃあ今度お礼をして下さい」

「...ああ。お金なら幾らでも...」

「違います。...一緒に買い物に行きませんか」

「ああ。それ...え?」


俺は赤くなる。

それから「ま、待て。どういう意味だ」と言葉を発する。

すると長友もハッとしてから「そ、そういうのではないですから」と否定する。

俺は「そ、そうか」という感じになりながらそっぽを向く。


「...そういう感じが良いですか?」

「え?は、い、いや!?冗談だろ」

「...」

「...」


長友は赤面しながら前を見る。

そして食材を取り出した。

俺はその姿に「長友」と意を決して聞いた。

すると長友は「はい?」と向いてくる。


「買い物。付き合うよ」

「そうですか...じゃあ一緒に行きましょう」

「しかしお前。大胆になってきたな」

「わ、私は大胆じゃないです」

「ハハハ」


そして俺は長友を見る。

長友は頬を膨らませてから「もー」となる。

俺はそんな顔に「すまない」と言いながら立ち上がる。

「何か出来る事あるか」と聞いた。


「そうですね。...じゃあ食器と...お箸。それから...」


俺は長友の指示を受けながら準備をしていく。

その中で1つ疑問に思った事があった。

長友は料理を教わったのだろうか?、というの。

俺は長友を見る。


「長友。お前、料理を教わったのか?」

「...自力もありますけどね」

「それはご両親から?」


その言葉に。

真顔になってから冷めた感じになる。

冷徹になった。


「...まさか。あり得ません」


そう言いながら笑顔になる長友。

俺は何か地雷を踏みぬいた感覚になり。

そのままその事は聞かない事にする。

ヤバい感じがした。


「...長友。すまん」

「...はい?」

「聞かなければ良かったな」

「いえいえ。料理なら私のお姉ちゃんに教わりました」

「...ああ。そうだったのか」

「10歳ぐらい歳が離れていますけどね。仲が良いです」


長友はそう言いながらニコッと笑顔になる。

いつもの調子に戻った様だ。

なんかさっきの殺気の込めた冷めた顔は...嫌だしな。

そう思いながら俺はフォローをした。



ハンバーグが出来た。

それから野菜を切ってから添えて。

そしてスープも出来た。

ご飯も、だ。


「...美味しそうだな」

「今日は張り切りましたよ」

「...そうなんだな」


そして俺はそれら一覧を見てから笑みを浮かべる。

長友は笑顔になりながらちゃぶ台に全てを並べていく。

そうしてから俺を見た。


「じゃあ食べましょうか」

「...そうだな。...いただきます」

「はい」


俺はハンバーグを一口食べてみた。

肉汁が素晴らしく...美味しい。

味わい深い。

俺は「...」となりながら煮物を思い出す。

やっぱり料理が好きなんだな、と思う。


「...美味しいですか?」

「うん。滅茶苦茶に美味いよ」

「良かったです」


するとゆっくり長友は箸を合わせてゆっくり置いた。

それから俺を見てくる。

俺は「?」を浮かべながら「こういう感情なんですね。男の人の奥さんっていう役職の人は」と言い出す。

な!?


「お、おう?」

「...深い意味は無いですよ?」

「...お、おう」


何を言い出すかと思えば。

赤面が止まらない。

無自覚なのか何なのか分からないが。

とにかく止めてほしいもんだ...。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る