第4話 肉うどん

あのクソ野郎どもは地に落ちて死んでもらいたい。

そう思いながら俺はシャワーを浴びる。

それから出てからスマホを観てみる。

そこに和彦から通知が入っていた。

アカウントを消すのを忘れていたのだがこう書かれている。


(めぐるに冷たいな。お前。それでも俺の弟か)


その様に、だ。

コイツ馬鹿だな本当に。

俺の兄として信じられない。

そう思いながら俺は眉を顰める。

そうして居るとインターフォンが鳴った。


「はい?」

『用場さん。私です』

「は!?え!?...ほ、本当に来たの!?」

『私は嘘だけは吐きませんよ』


慌てて首にタオルを巻いたまま外に出る。

するとそこに長友さんが食材を持って立っていた。

よく見るとうどんの食べ物である。

俺は「ほ、本当に作るんですか?」と聞いてみる。


「はい。風邪を引いたら困ります」

「い、いや。そこまでしてもらう義理は...」

「いえ。私がやりたいですから」

「...」

「それに...」

「...それに?」


俺をチラ見してから赤面をしてから「何でもありません」と家の中に上がって来る長友さん。

真っ赤になりながら「お、おう」という感じで慌てる。

よく考えたらあの屑以来だ。

俺の部屋に女の子を呼び込んだのは。


「...」

「長友さん?」

「...もう。...身だしなみがなっていませんね」

「...え?」

「お部屋が汚いです」


長友さんは俺の部屋を見てから脱ぎ散らかされた服などを見た。

しまったな。

片しておくべきだった。

そう思いながら「すまん。嫌なものを見せたね」と慌てる。

すると長友さんはクスッと笑った。


「良いんですよ。別に。うどんを食べてから片付けましょう」

「えぇ...そこまでしてもらう義理は無いよ」

「...私がしたいからですよ」


そう言いながら長友さんは「台所借りますね」とネギ、うどん、出汁...と置いていきながら冷蔵庫を見た。

殆ど使ってない冷蔵庫の中を見てから「もー。本当に何も入っていませんね」とプンスカと文句を垂れる。

俺はその言葉に「すいません...」となりながら頭を下げた。

それから長友さんを見る。


「良く分かりました」

「...」

「これから私、夕食を作りに来ます」

「...はい!?」


長友さんは頬を膨らませてから「だってこんな怠慢な食事しかしない人だったら駄目ですよ」と話した。

それから俺を見てくる。

「貴方に孤独死してもらっても困ります」と柔和になりながら、だ。

俺はその言葉に「...」となりながら赤面する。


「だからこれからも作りに来ます」

「...あの」

「はい?」

「食材費を払おうかと思うんだけど」

「折半ですね。分かりました」


その言葉を出すのが限界だった。

あの美味しい筑前煮の様なものを作れる女の子だ。

だからうどんも相当に期待できる。

だけど...申し訳無い感じが...。


「長友さん」

「...はい?」

「俺に優しくするのは有難いけど...俺はそんなにしてもらう義理は無いよ。...屑の遺伝子を持っているし。...俺は...」

「...」

「...俺は...知り合いの女の子に大けがをさせたしね」

「...だからどうしたのですか?」


そう言いながら彼女は真剣な顔で俺を見る。

俺は「!?」となりながら彼女を見た。

すると彼女は「用場さんが優しいですから接しているだけです」と答える。

そして満面の笑顔になった。

俺は赤面する。


「過去にそういう事があったとしても今とは関係がない。だったら...こうして接していても問題は無いです」

「...長友さん...」

「...私、家族を知りません」

「家族を知らない?」

「はい。ちちお...じゃなくてあの男に洗脳されていました。だから絶望しか生みません。...だけどようやっと立ち上がったんです。私も」

「...!」

「私、貴方に出会って良かった気がします」


長友さんはそう話してから食材を調理し始めた。

俺はその言葉に「...俺なんだけど」と言葉を発する。

それから彼女を手伝う。

長友さんは俺を見て包丁でネギを切る。


「...俺、君を見守ってほしいって頼まれたんだ」

「...見守る...?」

「そう。君をとにかく見守ってほしいと。...そう言われた。その意味が何なのかようやっとわかった気がするよ。君と話していて」

「用場さん...」

「...君は大変な過去を持っているんだね」

「アハハ。貴方よりは大変じゃないですよ。...用場さん。...貴方の初めて出会った時の顔は...死んでいましたから。まるで入院前の私です」


そう言いながら長友さんは「...私、3か月、精神科に入院したんです」と告白した。

「え?」となりながら俺は長友さんを見る。

長友さんは手が止まっていた。

そして俺を見てくる。


「アイツのせいで」

「...長友さん...」

「失ったものがデカすぎました」

「...」

「...まあ暗い話は捨てて。...今日は肉うどんです」


そして笑顔になる長友さん。

俺はその顔を見ながら「そうなんだね」とニコッとした。

その中で半分俺は長友さんの事を複雑に考えてしまった。

苦労人なんだな、と思いながら、だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る