第21話 取材をさせて
天音さんに手を引かれて廊下へ。
「ホントごめんね〜、ちょっと合わせたい人がいて」
「合わせたい人?」
「あの子だよ」
細い指の先を辿ると、そこには落ち着いた雰囲気の眼鏡を掛けた、野暮ったいショートボブ女子が廊下の
「おーい‼
必要以上に大きな声。女子生徒は恥ずかしそうに駆け寄ってくる。
「ちょっと天音、アンタ声が大きのよ! おかげで余計な注目浴びたじゃない」
「えっへへ、ごめんね〜」
「たく、少し前までは影側の人間だったくせに」
「あーはいはい。ほら、連れてきたよ?」
「ちょっ、天音さん……」
天音さんは何かを隠すように僕を前へ押し出した。
「この子が、お目当ての輝夜ちゃんだよ」
「あら、この子が」
「あ、天音さん? こちらの方は一体?」
「おっとっと、ごめん。紹介がまだだったね」
そう言って、天音さんはトコトコと小走りをして女子生徒の隣に移動。
「この子は
「へえ、天音さんのお友達」
「はぁ……いいわよ。自分で自己紹介するから」
ショートボブの彼女は、鬱陶しそうに天音さんを押し除ける。
「初めまして星川さん。私は四組の
「は、はい。わかりました、山﨑さん」
「うーん……にしても星川さん、アナタ本当に美人ね。これで男って……世が戦国時代なら、ある意味天下をとれた逸材なんじゃないかしら? いやー、妄想と原稿が捗るわー」
まるで宇宙人やUMAでも発見したのかってぐらい、興味津々に見つめる山﨑さん。
「ほら、明希ちゃん。輝夜ちゃんも暇じゃないんだから手短に」
「そうだった。失礼したわね、星川さん」
「いえ、気になさらず」
「えっとまずは、そうね……」
眼鏡を正す山﨑さんは、もったいぶりながら話を続ける。
「まあ簡単に言うと、実は星川さんに……お願いがあって」
「お、お願いですか?」
なんだろう。面倒くさいのは嫌だな。
「僕なんかに頼んでも、いい結果になるとは限りませんよ?」
「だとしても、とりあえず話だけ聞いてほしい」
「……わかりました。では、どうぞ」
「星川さんは、これを見たことあるかしら?」
そうして差し出されたのは選挙ポスターよりも少し大きいサイズの紙。内容はざっと見た感じ、校内行事の様子や表彰を受けた生徒の写真が掲載されている。
「これ、新聞部が発行している校内新聞なんだけど……やっぱり知らないわよね」
僕は目を合わせないように答える。
「ごめんなさい。全然知らないです」
「いいの、気にしないで」
「それで………お願いって言うのは?」
「私、アナタに取材を依頼したいの」
「取材って……僕を?」
「ええ。星川さんの人気にあやからせてほしくて」
「人気だなんてそんな。本当の人気者なら、アナタのお友達にいるじゃないですか?」
僕は天音さんに指を揃えて指し向ける。すると彼女は「いや〜、それほどでも」と謙遜するが、隣で見ている山﨑さんの顔はどこか浮かない。
「まあこの子、三女神って扱いされるぐらい人気ではあるけど……面白みが無いのよ」
「明希ちゃん? 今のはさすがにショックだよ?」
「天音は多くの子に周知されすぎて今更感が強いのよ。それに比べ星川さんは、人気があるのにミステリアスで不思議な存在。そんな星川さんの記事を書きさえすれば、男子どもがアホみたいに食いつくでしょ? それに付随して校内新聞の知名度も鰻登り‼」
「確かに! さすが明希ちゃん、頭いいっ!」
「……ということで、どうか取材を受けてくれないかしら?」
手を合わせてお願いする山﨑さん。
妄想が膨らんでいるとこ悪いが、僕に引き受ける気なんてない。
いくら知っている人が少ない校内新聞とはいえ、悪目立ちしたくない僕からすれば取材なんて逆効果だ。それにこれ以上、面倒ごとが増える要因になっても困る。
「僕なんかに期待するだけ損だよ。やめた方がいい」
「そんなはずない‼」
山﨑さんは目の色を変えて迫ってくる。
「撃墜した男子生徒は百人以上。去年のミスコン裏投票ではぶっちぎりの票数で優勝、おまけに彼女にしたいランキングは既に殿堂入り。そんな伝説の人間を目の当たりにして、私の探求心が黙ってられない」
なるほど、都市伝説ってこんな風にできるのか。
「だとしても、取材はちょっと……」
「お願い! 今度のアンケートで結果を残さないと、同好会に格下げされて予算が減っちゃうの。だからどうか、協力して!」
「う、うーん」
「もちろん、タダでとは言わない。報酬はちゃんと出すから‼」
「輝夜ちゃん! 親友として、あたしからもお願いっ!」
これだけ真剣に頼まれると断りにくい。
「なあ、何話してるんだ?」
「え、颯さん?」
僕らの間に突然、颯さんが上から顔を出してきた。
「あれ! 颯ちゃん、どうしたの急に?」
「飲み物買いに行こうとしたら、輝夜くん達が話しているのを気になってね」
「な、なんでもないよ。僕はただ、新聞部の取材を頼まれて」
「へえ、取材か。……ねえ君、名前は?」
「わ、私は四組の山﨑だけど」
「そうか。山﨑さんは、彼にどんな取材を?」
「無難に趣味や好きな食べ物。あとは、思い出話でも聞こうかと」
颯さんは何か企んでいる。不敵な笑みで手に顎を乗せるときは基本そうだ。
「なあ、山﨑さん! 輝夜くん一人ではなく、ボクも一緒に取材を受けていいか?」
「ちょっと、颯さん! 僕は受けるとは一言も……」
「輝夜くんは少し黙ってろ。どうかな? ボクら二人の方が、インパクトや反響は大きいと思うんだ。ファンサービスの一環として都合もいいしね」
「私としては、王子と姫を同時に取材ができるなんて……願ったり叶ったりだわ‼」
なんて晴れやかな顔……いや、勝手に決めるな。
「よし‼ 交渉成立だ。報酬は弾んでもらうぞ」
「もちろん、なんでも用意しましょう!」
僕を無視するように山﨑さんと颯さんは、ガッチリと握手を交わす。
「明希ちゃん‼ よかったね、無事に取材を取り付けられて」
「ええ、ありがとう天音。やっぱり、持つべきものは友達ね」
まったく、勝手に物事進めちゃうんだから……あれ?
天音さんはいつから、そんな両手いっぱいに紙袋を持ってたんだ?
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