第13話 お姫様はかぐわしい
あれから数時間後、僕らはコラボカフェのある横浜駅に来ていた。今は駅近くの商業ビルにある服屋さんにいるのだが……僕は一人、更衣室で項垂れている。
なぜなら、颯さんとお店の人が次から次へと服を持ってきて、着せ替え人形の如く試着を繰り返し強要してくるからだ。ちなみに今着ているのはフェアリーピンクのフリルブラウスに黒のチェック柄スカート……地雷系というか、いくらなんでもガーリッシュ過ぎないか?
これで最後ならいいけど、いつまで続くのやら。僕が呆れながらカーテンを開けると、店員さんと颯さんは何やら仲睦まじく話しているようだ。
ちなみに颯さんの格好は白のトップスに黒いテーラードジャケットを羽織り、下はデニムパンツ。カジュアルながらスマートで大人っぽい印象を受ける。めっちゃカッコいい。
「あ、あの〜」
「あらお客様〜、お疲れ様です……」
「おや、ボクのお姫様。やっと着替え……」
二人はツインテール姿の僕を、ジーッと見ながら黙っている。
「「……か、可愛い~~‼」」
着替えては毎回、二人は同じ反応を示すので新鮮さがない。
「おっと失礼しました。私ったら、接客中に何度も興奮してしまって。にしても、今までいろんな方を相手してきましたが、彼女さん……歴代ナンバーワンで可愛いですよ〜彼氏さん!」
「当然です。ボクがどうしてもって、お願いして連れてきたんですから」
颯さんは鼻高々に腕を組んで答える。
「こんな逸材にスウェットと黒スキニーなんて地味な格好させるとは……も〜、ダメですよ。独占したい気持ちはわかりますが、お洒落させないと勿体ない!」
「ええ、仰る通り……なのでこれからは、一緒に勉強していきます」
そう言って颯さんは店員さんの手をそっと取り、
「お姉様のようにスタイリッシュで、素敵な女性を参考に」
「……はっ、やだもう‼︎ 彼女さんの前で何やってるんですかっ‼︎」
キラキラとした王子様オーラを放ち、口説き文句で店員さんを骨抜きにする。
「それに彼女さんも、これだけイケメンな彼氏がいるんだから、ちゃんとお洒落しましょうよ〜。すぐ誰かに取られちゃいますよ? なんなら、私が立候補しちゃったり……」
「は、はあ」
早く終わってほしい。
僕はうんざりしながら颯さんに声を掛ける。
「颯さん。とりあえず、服はこれでいいですか?」
「ああ、すまない。では店員さん、このままお会計してもよろしいでしょうか?」
「はい、構いませんよ。着て来れられたお召し物は、紙袋に入れておきますね」
「ありがとうございます。そうだ、さっき勧めしてくれたワンピースも一緒にお願いします」
「ちょ、ちょっと‼」
「いいから、いいから」
「ありがとうございます! では、少々お待ちくださ〜い」
店員さんは意気揚々と離れていく。
「颯さん、女装するのは今日だけって……それに大丈夫なの? お金とかは?」
「気にすることは無いさ。お金はバイトとかで貯金してあるし……それにこの店は、中高生向けに安価な商品を揃えていてね。そのコーデだって、君が思っているよりもかなり安いよ」
「な、ならいいけど……」
「よし! 次はその服に合う靴を買いに行こうか」
「え、まだ終わらないんですか?」
「大丈夫! 今度はジーユーでブーツを買うだけだから」
「一応聞きますけど、このスニーカーじゃ?」
「ダメだね。申し訳ないが、その靴は今の格好に不釣り合いだ」
「言われてみれば……確かに」
まあ、買うものが決まっているなら別にいい。
僕は首筋に手を当てる。その様子を察してか、颯さんは肩をそっと寄せてきた。
「疲れたでしょ? ほら、ボクに寄り掛かっていいよ」
「……じゃあ、遠慮なく」
この疲労は身体的ってより、精神的なものだろう。知り合いに見つからないかハラハラしながら、一際目立つ颯さんの隣を歩いたのだ。それなりに気を使うので神経をすり減らしている。
「朝からすまない。長い時間付き合わせてしまって」
「気にしなくていいよ。僕は自分の意思で、この場にいるんだから」
「……本当に優しいよな、輝夜くんは」
「優しいだなんて……僕はただ、割り切っているだけだよ。今日は颯さんの為に過ごすって決めたんだから、約束は守らないとね」
「ふ〜ん……そうか。なら今日はとことん、君に我儘を言わせてもらおうかな」
「まあ、僕に出来る事なら頑張るよ」
「ふふ、よろしく頼むよ。麗しくかぐわしい、ボクだけのお姫様」
この自然な感じで笑った顔、何度見ても慣れないな。
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