第6話 なんでもいいが一番困る

始業式と天音さんの質問攻めが終わり、僕は帰りの支度を始める。


「輝夜……お前、やってくれたな」


悠人が首元を捻ったりしながら近づいてきた。


「ごめん、ちょっとした悪戯心で」

「たくっ、ひどい目にあった」

「災難だったね」

「ああ、お前のおかげでな」

「ごめんね。お詫びに晩ご飯、ご馳走するからさ」

「そうか、なら許してやろう」

「食べたいものがあれば言って」

「なんでもいいよ。輝夜が作った料理なら、なんでもうまいし」


お母さんが言ってなかったか、なんでもいいが一番困るって。 


「ああ、そうだ輝夜」

「ん、何? 食べたい物でも決まった?」

「いや、そうじゃなくて。今日の懇親会、どうするんだ?」

「……懇親会か」


さっき、天音さんから誘われたんだっけ。本来ならこういったイベントに参加して仲を深めておくべきなんだろうけど、今日はやるべき作業が溜まっているので断りたい。


「無理に参加しなくていいと思うぞ。急遽決まったことだし、俺が断っておこうか?」

「そうだね……うん、ごめん。今日はやめとく」


手を合わせて謝る僕を、悠人は柔らかい笑みで応える。


「おう、わかった。まあ、なんか言われても俺がフォローしておくから」

「あ、ありがとう。助かるよ」


お礼を言って席を立ったところ、


「か〜ぐ〜や〜、少しいいかしら〜」

 

他の生徒も見ている中、遥先生が猫撫声で僕を呼び出す。

普通に呼んでよ、恥ずかしい。


「とりあえず、早く行ってやれよ」

「……はーい」


あまり気乗りしないが教卓へ向う。


「何か用ですか? 遥先生」

「はい、これ」と言われ、買い物カゴから謎に用意された大量のノートを渡される。

「先生、これは一体?」

「まあまあ。悪いけど、重いから少し手伝って」

「え〜、こういう雑用は悠人の担当でしょ? ……あれ⁉」


さっきまでいた場所に目を向けると、既に悠人の姿はなかった。

昔から逃げ足の速いことで。


「いいから、アナタに任せたいのよ。はいっ、これで半分こね」


遥先生はノートの約三分の一を持って、僕に付いてくるように促す。


「先生、僕の方が多くない?」

「気のせいよ。ほら、早く行きましょう」


僕が口を尖らせて「ぶぅ」とやさぐれていると、


「「「「姫、任せろ! 俺たちが手伝うぞ」」」」


数人の男子生徒が背後から声を掛けてきた。荷物持ちは面倒だし、利用させてもらおう。


「え~、ほんと~? たすかぁ」

「輝夜一人で十分‼ アンタ達は、さっさと帰りなさいっ‼」

「「「「すっ、すみませんでした!」」」」


足早に去る男子生徒達。残念ながら僕の企みは、遥先生の一喝で薙ぎ払われてしまった。


「……たく、油断も隙も無いんだから。輝夜もぶりっ子してないで……ほら、行くわよ」


仕方ない、ここは大人しく……って、さりげなく肩を抱いて来るな‼

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