第4話 運命は悪戯がお好き
自席に向かう途中、僕は見つけてしまった。肘を机に付け、儚げな顔で窓の外を眺める
風に靡くカーテンが、僕の鼓動とリンクするかのようにより大きく揺れ始めた。
「あ、あの、颯さん!」
彼女はゆっくりとこちらに顔を向け、取り繕うように笑みを浮かべる。
「……やあ、星川さんじゃないか。おはよう」
「おはようございます。……あれ? ファンが……いない?」
僕はキョロキョロと周りを警戒。
「ああ、朝はのんびりしたいからね。集まらないようにルールを設けてるんだ」
「へー、そうなんだ」
だとしても内心、急に襲われるんじゃないかと勘繰ってしまう。
「……そうだ、昨日はありがとうございました」
「いいよ、ボクがしたくてやったことなんだから。それにしても、まさか同じクラスになるなんてね。これも運命の
運命ね。この場合、少しくらい肯定的に捉えてもいいか。
「おや、今日は髪結んでないんだ……でも、とても似合っているよ。実に魅力的だ」
颯さんは澄ました顔で僕を褒めてくる。
「これだけ可愛いと、ボクだけのモノにしたくなるな」
「えっ⁉︎」
「……あ、あれ? すまない。何か気に障ったかな?」
「いや、そんなことないですよ。今朝、誰かに似たようなこと言われたなと思って」
「そうか。ライバルが多いとなると、ボクもうかうかしてられないな」
僕は苦笑しながら目線を逸らす。
「ところで、星川さん」
「あ、颯さん。名前、輝夜でいいですよ。僕だけ名前呼びは申し訳ないし」
「そうか……では、輝夜さん。一緒に来た彼はいいのか? 助けてあげなくて」
颯さんの目線の先では、きっと
僕は振り向くことなく答える。
「多分大丈夫。彼の頑丈さは、幼馴染である僕が保証します」
「ならいいのだけど……ふ〜ん、幼馴染なのか」
心配そうな表情を浮かべる颯さんが、今度は僕の全身を見て不思議そうに問いかけてくる。
「そういえば輝夜さんも、一人称『僕』だよな。それに昨日も思ったけど……もしかして、男物が好きだったりするのか?」
思わぬ質問に、僕は「え?」と反応してしまった。
「何か……おかしいですか?」
「そ、そんなことないさ。ただ、『なんで男子の制服着てるのかな?』って、疑問に思ってしまったのだけど、少し考えれば今どき普通だよね。性別関係なく、好きな服を着るなんて」
「それはそうだけど……ああ、そういうことか。……あのね、颯さん」
「ん、なんだい?」
「昨日、言い忘れてたんだけど……僕、男だよ」
嘘偽りなく答えると、王子様は目をパチパチさせながら「は?」と声を漏らす。
「……ええっ‼ 君、男だったのか⁉︎ 嘘だろっ‼ どっからどう見たって……」
颯さんの声と椅子の倒れる音が響く。
「知らなかった。三女神のかぐや姫とか噂を聞く限り、てっきり女の子だと」
まあ、怪しいとは思ってた。一年のときはクラスが離れていて面識もなかったし、三女神なんて迷惑な肩書きがある時点で。実際、性別を間違われるのはよくあることだ。
だから今更、気にはしてない。
「すみません。紛らわしい見た目で」
「い、いやそんな……こっちこそ、すまなかった」
お互いに黙ったまま顔を見合わせる。
「えーっと、少し待っててくれ……」
颯さんは机の脇に掛けていた黒いリュックへ手を突っ込む。ガサゴソと音を立てて出て
来たのは『いちごみるく』で有名なあの飴。
「とりあえず、はいこれ。 お近づきの印に」
一つ取り出して僕に向けて差し出す。
「おまけに、もう一個あげよう。ファンの子達には内緒だ」
「あ、ありがとう。これから、宜しくお願いします」
「うん、よろしくね……輝夜くん」
両手で丁寧に飴を受け取って、ブレザーのポッケに入れようとすると妙な膨らみに気づく。
「あ、そうだ……忘れてた」
僕は徐にポッケから、ホワウサのマスコットホルダーを取り出す。
「はいっ。これ、颯さんのだよね?」
「あっ‼ ボクのホワっ──」
ホワウサを見せた後、颯さんは自らの口元を手で押さえ周りの様子を窺い始めた。
「……し、知らないなー。王子様のボクがそんな可愛らしいモノ、持ってるわけないだろ」
「え? でも今、ボクのホワウサって」
「い、言ってない!」
わかりやすく目が泳いでいるけど、指摘はしないでおこう。
「とにかく! これはボクのじゃないから」
「そ、そうですか」
颯さんは倒れた椅子を戻し、ため息を吐いて前髪を掻き上げる。
それにしてもこの人、本当にどんな姿も絵になるな。
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