音楽室
そこは音楽室だった。ピアノが中心に置かれ、大きさの違うバイオリンが4つ、サイズ順に壁に掛かっていた。
ピアノでゴルトベルク変奏曲アリアをゆったりと奏でているのは、黒髪の少女だった。
「やっと目が覚めたのね」演奏をやめず黒髪の少女は言った。「そして、お名前は……」
金髪の少女は少し吃り、
「ルクレツィア……です」
「敬語は使わなくていいわ……私はエリザベート」
連弾を促すように、エリザベートは椅子を少し横にずれて、開いたスペースを軽くポンと叩いた。
「私、ピアノ、弾けないわ」
「いいの、時間はいくらでもあるから……」
エリザベートが適当な教本を見繕い、基礎的な説明の後、軽く弾いてみるよう促した。
ルクレツィアは恐る恐る、神経質に人差し指で象牙の鍵盤を押し込んだ、ピーンとしっかり張られた弦は指の運動に忠実に反応した。この手触り、官能的な感覚に完全に酔いして更に何音か押したくなった。
その時から健気なルクレツィアにエリザベートが付き添いピアノの練習が始まった、猫がうごくものを見つけて時のように食い入り、ピアノを練習できるのはせいぜい一時間で、次第に集中力が切れる、そして集中力が切れると、読書だとか別のことをして過ごす、しかし読書や絵なども集中力を使う。
ルクレツィアの集中力が切れると図書室に向かうのが習慣となった。
「はぁ」
ルクレツィアは図書室で何百年か前の博物学の本を閉じ、ため息ついた。
エリザベートは小さなソファーの上に足ものせて丸くなり、小さな本を呼んでいた。フランスの詩集だった、彼女は死体という文字の入る少し不穏な詩が好きで、そのために何度も開いている節があった。
「それって博物学ね」
「面白いけど単語が難しくて……」
「今、何を読んでるの」
「ユニコーン……」
「それなら今度、ユニコーンの角見せたげる」
「ほんとにあるの? 毒に反応する?」
「さぁ試したことないわ……気になるなら試してみれば?」
次回 毒薬と角
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