驚異の部屋-ヴンダーカンマー-

 ブンダーカンマは図書館の真上にある。

「ここ」

 エリザベートはドアを指し示し、丸いドアノブに指を一本一本掛ける。キィと軋み、ドアが開いた。

 百合の花のようなガス燈を捻り、灯を灯す。

 白と黒の大理石の床を埋め尽くさんばかりに、ガラスのケースだとか、黒檀の棚で埋め尽くされていた。

 あまりに情報量の多さに、ルクレツィアは思わず息を呑んだ。

「面白いでしょ」

 エリザベートは娘に対するように、優しく言った。

「すごいね……」ルクレツィアは恐る恐る、小さいのに耳の大きい狐の鼻をツンと触った。「ちょっとかわいい……」

「気に入ってくれたようでよかった」

 エリザベートは天井に貼られた、蝶の標本を天体観測するように眺めていた。

「ねぇこっちは何?」

「それは…… ヴェサリウスの解剖図」

 ルクレツィアが指さしたのは、少しグロデスクな皮膚のない人間が歩いている絵だった。筋肉の自然なポーズの形がよくわかる版画だ。

 驚異の部屋は情報量でまず楽しめる、次に細部をよく見て楽しめる。

 ルクレツィアは奇妙な色をしたタカラガイを、随分と気に入ったようで、一つ一つじっと見ていた。

 貝は化石もあった、中には宝石が詰まったような貝もあったが、面白い色をした貝の方がルクレツィアの興味を惹いた。

 

 エリザベートは丸っぽい琥珀を手の中で、弄び、光の屈折を楽しんでいた、光が当たると中には気泡や小さな虫が、ポツポツ見えのだ。

 特に琥珀は、他の多くの宝石と違い木の樹脂だから、持った感覚は柔らかく、軽い。どことなく優しさがあり、エリザベートの一番のお気に入りの宝石だった。

 宝石は琥珀だけでなく他にもオパール、サファイア、アメジストなどなどだ、一般的にサファイアとか名前がついていても、実際には一色だけではない、そして光が入ると面白い。しかし、琥珀ほど興味をだくオブジェではない。

 


 

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