城の中の吸血鬼

肖像画を描く吸血鬼

 エリザベートは、

「あなたも私の家族になったのだから、肖像画、描いてあげる」

 エリザベートの声はあまり高くなく、落ち着き、気品がある。

 エリザベートとルクレツィアは、小さなアトリエに入った。

 燃え尽きることのない蝋燭が、数本あるのみだ。しかし吸血鬼になれば、暗くて見えないということはない。

「さ、ルクレツィア。そこの椅子に座って」

 エリザベートは細い指で、ロココ調の椅子を指し示した

「……ネグリジェ姿で大丈夫なの?」

「意外に高貴に見えるから」

「そう? ポーズとかどうしたらいい?」

「適当に斜め方向、見てて」

 話ながらも、既にエリザベートはキャンバスに、鉛筆を滑らせていた。

 シュ、シュッ、カリカリとしか音はしない。

 待ってる側は、次第に退屈してくる。

「ちょっと動かないで」

「あとで私も描いていい」

「後ちょっとでデッサン終わるから、そうしたら交代しよう」

「……」

「……」

 また暫く、鉛筆の滑る音しかしなくなった。

「出来た。」

「見せてくれる?」

 エリザベートは少し照れながら、キャンバスを回し、ルクレツィアに見せた。最小の線で最大の美しさだった、あとで色を塗る事を考えて、影とかはあまり書き込んでいなかった。


 今度はルクレツィアが描く番だ。

 ルクレツィアは、エリザベートに向き合い、まずはデッサンを始めた。

「意外と、難しい……」

「被写体をよく見て、距離感を計りながら書くといいわ、我流だけど……」

「我流であんなに上手くなるの」

「時間さえかければね、時間はいくらでもあるから気楽に」

 エリザベートの顔を観察する、蝋燭が揺れる度に表情が変わるように見える、エリザベートの表情は、スーと澄んだ流水のようにも、悲劇のヒロインのようにも見える。

 スッと高い鼻を上手く描こうとすると大きくなり、鼻を基準にすると、距離感が歪み、歪な顔になる。ルクレツィアはため息を着いた。

「出来た?」

「出来……た? もう集中力なくなって描けないかも」

 ルクレツィアは、どこをどう直せばよいか問う表情と、下手な絵を描き、被写体に申し訳ないという表情が入り混じり、複雑な表情だった。

「まぁいいわ、気晴らしに……ブンダーカンマ、面白い部屋、見に行かない?」

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