城の中の吸血鬼

澁澤弓治

プロローグ

吸血鬼の宇宙-イニシエーション-

 恋愛とは二つの皮膚の接触である、という。


 紅色のテーブルクロスの敷かれた机の上には、中心に銀の皿、両サイドに燭台があった。そこに挿さった数本の蝋燭以外、部屋に灯りはない。

 紅色の壁紙は、数本の蝋燭の灯りが、血に濡らしている。

 机で向かい会う二人の少女。

 一人は漆みたいな長髪の少女、エリザベート。一人は明るい長い金髪で血色がいい、ルクレツィア。

 エリザベートは、左手に銀色のナイフを握っていた。揺れる火で少女の整った顔は、薄く笑っているようにも、挑戦的な表情にも見え、常に表情が変わっていくように見える。

 彼女は銀色のナイフを、右手のひらに押し当てると、サッと横に引いた、切創から血が溢れた。

 エリザベートは、ナイフをルクレツィアに渡した。

 ルクレツィアは緊張した面持ちで、ナイフを右手で受け取ると、初々しい表情で左手のひらを切り、一瞬だけ眉をひそめた。

 エリザベートは切った右手を、銀の皿の上に差し出した。ルクレツィアも切った右手を差し出す、二人は手のひらを合わせ、握り締める、手と手の間から血が滴り、銀のさらに溜まってゆく。

 薄い銀の皿に血は表面張力で張り、縁だけがぼんやり輝き、金環日食のようになった。

 狭い部屋は、宇宙の縮図になったのだようだ。

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