城の中の吸血鬼
澁澤弓治
プロローグ
吸血鬼の宇宙-イニシエーション-
恋愛とは二つの皮膚の接触である、という。
紅色のテーブルクロスの敷かれた机の上には、中心に銀の皿、両サイドに燭台があった。そこに挿さった数本の蝋燭以外、部屋に灯りはない。
紅色の壁紙は、数本の蝋燭の灯りが、血に濡らしている。
机で向かい会う二人の少女。
一人は漆みたいな長髪の少女、エリザベート。一人は明るい長い金髪で血色がいい、ルクレツィア。
エリザベートは、左手に銀色のナイフを握っていた。揺れる火で少女の整った顔は、薄く笑っているようにも、挑戦的な表情にも見え、常に表情が変わっていくように見える。
彼女は銀色のナイフを、右手のひらに押し当てると、サッと横に引いた、切創から血が溢れた。
エリザベートは、ナイフをルクレツィアに渡した。
ルクレツィアは緊張した面持ちで、ナイフを右手で受け取ると、初々しい表情で左手のひらを切り、一瞬だけ眉をひそめた。
エリザベートは切った右手を、銀の皿の上に差し出した。ルクレツィアも切った右手を差し出す、二人は手のひらを合わせ、握り締める、手と手の間から血が滴り、銀のさらに溜まってゆく。
薄い銀の皿に血は表面張力で張り、縁だけがぼんやり輝き、金環日食のようになった。
狭い部屋は、宇宙の縮図になったのだようだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます