第2話 悪夢か現実か

 男は蓬髪で色黒だった。節くれだった手と深い皺が刻まれた顔は、彼がこの荒野で野良仕事をしている農夫を思わせた。しかし、鋭い眼光と眉間に酔ったシワは情けに薄く、短気な性格を表出していた。


ヌグヤお前誰だ」 男はそう言いながら、ユリナの両手を荒縄で縛り、荒野に建てられた小さな茅葺きの小屋へ引きずって連れて行った。ユリナは寒風と恐怖で全身を震わせ、硬直しながら身を任せるしかなった。


真っ暗な小屋の中で柱に縛りつけられて、ユリナは全身の震えが止まらなかった。農夫は戸口に関をかけて外へ出て行った。遠くで山羊の鳴く声が微かに聞こえる。


「ここは一体どこなの、一体私はどうなってしまったの」


動転する頭脳が働かない。暫くすると外であの男ともう一人の男が話す声が聞こえてきた。それはこの地を定期的に見回る高句麗の下役人、パク・イサンとこの男、イブンとの会話だった。パクが言った。


「そりゃあ、安陆苏アン・ルスの旦那に言えば、良い値で春蘭楼チュンランロウに買い取ってもらえるに決まってら。手下を連れて来るから、お前んとこの牛車で運んでいこう。金は山分けってことで、いいな」


「チョア」


男は同意した。暫くするとガタイが良くて人相の悪そうなゴロツキが5、6人やってきた。男は牛に車を引かせて小屋の戸を開けた。


「大人しく来るんだ、いい身なりしてやがる。ま、いいさ。どうせどこかの戦乱で見捨てられた孤児だろう、お前、名前は?」


唇を噛み締めて震えるユリナに剛腕な男たちが襲いかかった。


「やめて、離して、助けて、誰か、誰か、助けて!」


倭人ウエノム?」 イブンが呟いた。


つづく

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