第8話 戸惑う婚約者 2(ノックス視点)
家族を伴っての顔合わせの日。
「マリトニー・ラクシモサです。よ、よろしくお願いいたしましゅ…します!」
真っ赤な顔をして自己紹介をするマリトニー。
こうして対面で会うのは初めだ。
小柄な彼女は、僕の胸辺りまでしかない。
並んで歩く時は、彼女が僕を見上げながら話してくれる。
その姿に申し訳ないような…可愛いような。
『ノックスならどんな女でも選び放題だよな』
ある日、洋弓部員からこんな事を言われた事がある。
洋弓場に来る女生徒は全て僕目当てだそうだ…それはないだろう。
それに…僕は見掛け倒しのつまらない男だ。
中等学院の時、ある女生徒に半ば強引に放課後の帰り道カフェに付き合わされた事があった。
女性と二人で店に入ったのはこの時が初めてだった事もあり、口下手に拍車がかかり話す事が思い浮かばなかった。
苦し紛れの話は退屈極まりない。
微妙な間。
重苦しい沈黙。
とうとう彼女は席を立った。
帰り際に…
「見た目はいいけど、中身はつまらない人ね」
そんな言葉を残して去って行った。
高等学院はその女生徒とは学区が異なり、もう顔を合わせる事はなくなった。
けれどあの時言われた言葉は、何度洗っても落ちないシミのように心の奥にこびりついていた。
マリトニーにも同じように思われたくない。
そんな考えが僕をさらに無口にさせ、聞き手に回らせた。
それに彼女が一生懸命話してくれる姿が微笑ましかったのもある。
出かける場所も彼女に少しでも楽しんでもらいたかった。
彼女が行きたいと思う場所なら、どこでも良かった。
だからいつも「どこでもいい」と答えていた。
そんな僕の態度が彼女を傷つけている事には全く気づきもせずに…
◇◇◇◇
それは両家顔合わせの数日前に起こった事だった。
ガッシャーン!!!
「信じられない! 二度と裏切らないって約束したのに!!」
「あの日から君を裏切るような事はしていない! ただ…その…昔の女が……」
物が壊れる音がして向かうと、両親が大ゲンカをしていた。
ケンカ…と言うか…父が母に一方的に責められていた。
父の頬や胸を泣きながら殴る母。
父は避ける事もなく、全て受け止めていた。
執事の話によると、父が昔…僕が生まれる前に付き合っていた女性から手紙がきたらしい。
執事は父が幼い頃からこの家に仕えてくれている。
そこで両親のなれそめを聞いてみた。
両親は幼馴染だったようだ。
物心がついた時にはいつも一緒に過ごしていたとか。
貴族同士の結婚だったけれど、そこには確かに愛情があったそうだ。
しかし、父は昔から恋愛に自由だったらしい。
その自由奔放な性格は、結婚してからも続いていたとか。
今回手紙を寄越した女性は、その内の一人だろうと…
僕は両親の仲睦まじい姿しか知らなかったので、ショックだった。
『ノ、ノックス様のご両親、とても仲がよろしいですね。伯爵様はいつも夫人を気遣っていらして、』
両家顔合わせの日に、僕の両親をそのように思ってくれていたマリトニー。
過去の父の行動を知ったら軽蔑されるだろう。
そんな父の血を引く僕に幻滅しないだろうか…
そんな不安から、そっけない返事をしてしまった。
あの後、妙な雰囲気になってしまったな…
そもそも母はなぜそんな父と結婚したのか、そしてなぜ離婚しなかったのか不思議でならない。
両親が大ゲンカをした数日後、そんな疑問を母に投げかけた。
「あまりにも長く一緒にいたからねぇ…」
困ったような顔で、溜息交じりに答えた母。
結局、よくわからなかった。
分かったのは、父が母の
そんな父が、僕が産まれた日から変わったとか。
母が僕を出産する時、相当な難産だったようだ。
医師には母子ともにとても危険な状態で、覚悟をして欲しいと宣告されていたらしい。
母と僕を失うかもしれない現実を目の当たりにした父は、母以上に大切な女性はいない事にようやく気づいたようだった。
そしてこの時、神に祈った。
二度と妻を裏切らないから、二人を助けて欲しいと…
そして僕は産まれ、母も無事に出産を終えた。
父は僕を抱きながら、母の枕元で大号泣したそうだ。
その後父は関係があった女性たちと別れ、それからはおしどり夫婦と呼ばれるようになったらしい。
この事は母や
しかし18年経って、父の過去の女性から連絡が来た事で状況は一変する。
父に届いた手紙の内容を要約すると…
“実は父と別れた後、妊娠に気が付いた。
生まれたのは女の子。
女で一つで育てて来たけれど、先日自分に病が見つかり余命宣告を受けた。
残される娘が心配でたまらない。どうか認知して欲しいと…“
そう…僕には数か月違いの
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