第7話 戸惑う婚約者 1(ノックス視点)
「ノックス様っ どうぞあ、愛する人を迎え入れて下さいっ わ、私は…二番目でも…っ お飾りの妻で構いません!」
「………え!?」
「長い美しい黒髪の女性の方…ですよね?」
僕の婚約者であるマリトニーが突然、思いもよらない事を言い出した。
ソフィアを知っている? なぜ?
愛する人を迎え入れる? 僕たち婚約しているよね?
二番目? お飾りの妻? 誰の事!?
僕が愛する人は……君だよ、マリトニー!
◇◇◇◇
容姿端麗 博学多才 文武両道
学院では、この三つが僕を現わす言葉のようだ。
…簡単に言ってくれる。
伯爵家の一人息子としての…後継者としての
勉学も洋弓も、何もせずに首位を維持しているわけではないし、練習失くして的を射れるはずもない。
容姿端麗……まぁ…これは…母に感謝だ。
父の顔は……
洋弓場には毎日たくさんの女生徒がやってくる。
そんな中で一人の女の子が目についた。
一瞬見えては消える蜂蜜色の髪。
一生懸命、ぴょんぴょんぴょんぴょん飛び跳ねながら洋弓を見ている子。
ふわふわの頭が出たり引っ込んだりする姿が妙に可愛くて、その日から彼女の姿を探すのが癖になっていた。
いつも早めに来るにも関わらず、毎回後から走ってくる女生徒に追い抜かされて最前列に入ってこられない。
そして今日も後ろの方でぴょんぴょんぴょんぴょん……ふっ
いつかは木に登ろうとして、
運動神経は悪くないようだけれど、走るのは遅…んんっ 不得意なのかもしれない。
…そこまでして彼女はいつも誰を見に、洋弓場に来ているのかな…
ある日の放課後、図書室で勉強している彼女がいた。
ちょうど夕日が差し込み始め、日に照らされた彼女の髪がキラキラと輝いて…しばらく見惚れてた。
そんな事…彼女は気が付いていないだろうけど…
「きゃーっ マリトニーすごいすごい!!」
提示された定期考査の順位表を見ていた時の事。
僕は今回も首位を維持でき、ホッとしていた。
そんな時、後ろの方で奇声を発する女生徒がいた。
「しーっ! しーっ! みんな見てる!」
奇声を発した友人であろう女性に、自分の口に人差し指を押し当てながら注意していたのは…彼女!
彼女は友人を引っ張るようにあわててその場を立ち去った。
僕は彼女がいた場所へと向かい、順位表を見上げる。
確かマリトニーって言っていたよな。
マリトニー・ラクリモサ 48位(94位)
成績は100位以内までの名前が載る。
カッコ内には前回の順位が表示され、その上に今回の順位が載せられる。
「すごいな…」
相当努力しなければ、こんなに急激に順位は上がらないだろう。
早めに洋弓場に現れても、後から来た女生徒に抜かされる彼女
木に登ろうとして
夕日に染まる図書館で勉強している彼女
いろいろな彼女の姿が目に浮かんだ。
そして僕の中で、彼女への関心がどんどん高まっていく。
しかしそんな僕の気持ちとは関係なく、帰宅すると父から見合いの話を持ち出された。
貴族であるならばいつかはこんな日が来ることは分かっていた。
ましてや僕は後継者だ。
ただ…頭の隅で蜂蜜色の髪をした彼女の姿が浮かび、やるせない気持ちでいっぱいになる。
だから、まさか彼女が婚約者になるとは思いもしなかった。
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