第3話 両家の顔合わせ

 この奇跡のような縁談に舞い上がる前に、なぜ自分が選ばれたのか分かっていたから、逆に冷静になれた。

 

 高得点の彼に、平均並みの私が選ばれたのは我が家が『侯爵家』だから。

 高位爵位ならば、将来伯爵家当主となるノックス様にとっては後ろ盾に十分よね。


 逆にそれくらいのオプションがなければ、私なんか相手にされないもの。

 そうですよ、そうですよ、わかっておりますよっ …………グスン

 

 あとは、お互いの母親が親友同士というのも決め手のひとつだった。

 この二つがあったからこそ、この婚約は成立した。


 蜂蜜色のほわっほわっのくせ髪に(雨の日は泣きたい…)、薄いラベンダー色の瞳。

 お勉強は頑張っているけれど、ノックス様には遠く及ばず。

 身長はコンパクト。胸の周りは控え目。(は――…)


 侯爵家の娘でなければ、話にも上がらなかっただろう…

 せっかく繋がったご縁なのに、私の心は沈んでいくばかりだった…


 両家の顔合わせではノックス様の挨拶から始まり、両家の紹介へと進む。

 母親同士が学生時代からの親友だけれど、改めて各自紹介がなされた。

 私は初めてノックス様と対面したので、ガチガチ状態。


「ノックス・ウィーターです。よろしくお願いいたします」

「マリトニー・ラクシモサです。よ、よろしくお願いいたしましゅ…します!」


 噛んだ!噛んでしまった!!

 心の中では頭を抱えてて、恥ずかしさでのたうち回っている私。


 そっとノックス様のお顔を見ると…きれいな笑顔を見せてくれた。


 ひゃ―――――っっ♡♡♡


 どんどこどんどこと胸の鼓動が早くなる。

 …心臓が飛び出すのではないの?と思わず心配になってくるわ。


 ノックス様は私を見て、今何を思っていらっしゃるのかしら?

 好みではないけれど貴族同士の繋がりだから…と、割り切っているのかな。


「……」

 自分の考えに落ち込む。


 チラリと自分の両親とウィーター伯爵夫妻に目を向けた。


 私の両親も政略結婚だ。

 けれどとても仲がいい。


 ノックス様のご両親は幼馴染ってお母様が言っていたわ。

 伯爵様はいつも夫人を気遣う様子が伺える。


 私もノックス様とあんな風になれるかしら?

 …なりたいな…


 ノックス様って夫人似なのね。

 白銀の髪、アイスブルーの瞳。


 伯爵様は…


 椿油でびっしりと撫でつけた黒髪

 自己主張の激しいキリリッとした眉

 遥か遠くの獲物も仕留めそうな鋭い三白眼

 そしてニヒルな唇


 …………夫人似で本っっっっ当―――――に! よかった~~~。


「ちょっと二人でお話してきたら?」

 突然母が提案する。


「では、少し庭園を回りましょう」

 母の言葉を受け、ノックス様が微笑みながら手を差し出して下さった。


「は、はい」

 私はそっとノックス様の手に触れ、席を立つ。

 じわりと汗ばんでくる手が恥ずかしい…っ


 これから二人きり。

 な、何を話せばいいの!?!?

 


 

 

 

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