第3話 カレーを食べる
「それじゃあ手を合わせてください!」
//SE 手を合わせる音
「いただきまーす!」
『ワン!』
「んー良い匂い! こんなに匂いが魅力的な料理って中々無いよねぇ」
「匂いもさることながら、この白と茶色のコントラスト、綺麗すぎない?」
「綺麗すぎて食べるのがもったいないくらいだよ」
「まあ食べるけどね」
//SE スプーンでカレーをすくう音
//カレーをすくって固まる
「……」
「え? インサート撮らないの?」
「君がインサート撮りたいかなと思って口に入れずに空中で止めてるんだけど」
「君にとってはただのカレーかもしれないけど、私にとっては君との大切な思い出なの」
「記憶に残すだけだと少しずつ薄れていきそうだし、記憶の一ページにこのカレーを刻み込むためにインサート撮影は必要なの!」
「ってまあ冗談だけどねっ」
「それじゃあ気を取り直していただきます!」
「はぁむっ」
//カレーを食べる音
「はん、んっ、んっ、んっ……」
「熱っ、はふっ、んっ、んっ……」
「んー! めっちゃおいしい!」
「やっぱり一緒に作ってもらったおかげでめちゃめちゃ美味しくなってる!」
「というかほとんど君に作ってもらったんだけどね」
「いや、流石すぎるよこれは、美味すぎて引いちゃうレベルの美味さだよ」
「このカレーが食べられないなんて、プチは人生半分損してるなぁ」
「まあ今日はプチにもいつもよりいいご飯買ってきてあげてるけどね」
『ハグハグッ、ハグッ』
「ふふっ、面白いくらいガッついてる」
「……え? ご飯食べる時まで距離が近すぎる?」
「ち、違うもん! 私が近すぎるんじゃないもん! むしろ君が遠すぎるんだもん!」
「いーや遠いね、私からしたら君の近いは地球一周分の距離くらい遠いんだから」
「いやそれ一周してむしろ近くね? とか屁理屈言わない!」
「……私も君から引っ付いてもらいたい」
「この距離でも十分って、本当は抱きつきながら食べたいんだよ?」
「でもそれは流石に迷惑だし常識外れだってわかってるからこれでも我慢してるの」
「私が普通じゃないってことくらい言われなくてもわかってるもん!」
「でも君の普通が正しくて、百人に訊いたら百人同じ回答をするとは限らないでしょ?」
「私の普通はこれくらいの距離なの! だから離れません!」
//首を肩に頭を乗せる
「離れてくれって言われたらなんか無理矢理近づいてやりたくなっちゃうね……」
「あっ、そうだ。アーンして?」
「ほらほら、そんな嫌そうな顔してないで早くアーンしてよ」
「……え、なんで口開けてるの?」
「アーンされるのは私の方なんだけど?」
「さっきも言ったでしょ。君の普通は女の子が男の子にアーンしてあげることかもしれないけど、私の普通は私が君にアーンしてもらうことなの」
「ほら、だからアーンして?」
//SEカレーをすくって差し出す音
「はぁむ!」
「はむっ、もぐっ、んっ、んっ……」
「君にアーンしてもらうと美味しさ十倍増しだね」
「もうこれから全部君に食べさせてもらうことにしようかな」
「わかってるって。冗談冗談」
「あっ、ちょっと待って、口に米粒ついてる」
//彼女がぐいっと主人公に近づく
//米粒を舌で舐めて取る
「え? 何してんだって米粒が顔についてるって言ったでしょ?」
「そういうことじゃないって、じゃあどういうことなの?」
「ほらまた君の普通を私に当てはめようとしてくる」
「君にとっての普通は顔についた米粒を手で取ってもらうことかもしれないけど、私にとっての普通は舐めて取ることなの」
「ほら、私の顔にも米粒付けたから、ちゃんと舐めて取ってね?」
「あ、間違えた、私の顔にも米粒ついてるみたいだから、舐めて取って?」
「か、確信犯じゃないよ」
「ほら、早く早く」
//少しずつ彼女に主人公の顔が近づく
「そうそう、ほら、早く取ってよ」
「も〜意気地無しだな〜」
「じゃあ私から近づいて上げるから」
//顔の距離が一気に近づく
「ほら、舐めて取って?」
//彼女の頬から乱暴に米粒を取る
「ちょっ、うわっ⁉︎」
「舐めて取ってって言ったじゃん! なんで手で取ったの⁉︎」
「俺にとっての普通は手で取ること?」
「……ぐぬぬ。ちゃんとやり返すなんて男のやることじゃないぞ!」
「こうなったらもう君が離れようとしても私は絶対君に引っ付いてはなれないから。覚悟してよね」
「ふう。これでお腹いっぱいになったし、お片付けしよっか!」
「任せて! 私料理はできないけど、お片付けは得意だからー!」
//皿を纏めて立ち上がりキッチンに步く
「う、うわぁーっ⁉︎」
(ガラスの割れる音)
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