第2話 ベッタリ彼女

「カレーのルーは確かその棚の下から二番目の棚に入ってるよ」


「あ、人参ってあったっけ……。ジャガイモは見た記憶あるんだけど、人参はもしかしたら無いかも」


//SE 冷蔵庫を開ける音

「あっ! 人参残ってたね!」


「危うく人参無しカレーになるところだったよ」


「まあ人参なんて無くても君と一緒に作れば超絶美味しいカレーになるのは間違いないけどね!」


「え? 何してるんだって、君に抱きついてるだけだけど?」

//SE ぎゅっとしがみつく音


「なんで抱きついてるんだって訊かれても理由なんて無いよ」


「私が君に抱きつきたいから抱きついてるだけだもん」


「えー離れろって酷くない? 作業効率と私、どっちが大事なの?」


「ふっふふー。素直でよろしい」


「君のそういうところがまた私を君から離れられなくするんだよねぇ」


「ご褒美にチューしてあげる」

//頬にキスをする


「いつも唇と唇でキスしてるんだからそんなに驚かないでよ」


「カレーが完成するまで君から離れるつもり無いから、覚悟してね」


//SE 野菜を切る音

「私野菜を切る音ってすごく好きだなぁ」


「この音聞いてると実家のお母さんのこと思い出すんだよね」


「リビングでゴロゴロしながらゲームしてる時にこの音が聞こえてきてたの、今でも鮮明に覚えててさ」


「だからこの音聞くとお母さんに会いたくなっちゃうんだよ」


「むっ、昔から自堕落って、今は自堕落じゃないもん!」


「ちょーっと寝転んでお菓子食べるのが好きでご飯自分で作れなくて洗濯とか掃除とかができないだけだよ!」


「……あれ? やっぱり私って自堕落?」


「まあいっか。自堕落でも」


「だって私には君がいてくれるもんね」


「いや、でも君に見放されないためには自堕落でいちゃいけないのか……」


「少しずつ頑張るから、私のこと、捨てないでね?」


「ふっふふー。捨てる"わけない"って言ってもらえると安心するね」


「そうは言っても君に捨てられないよう努力はしないとね」


//SE 野菜の皮を剝く音

「なんかずっと抱きついてるだけなのも暇になってきたなー」


「自分で抱きついてきといて何言ってんだって話だけどさ」


「君が野菜切ってるなら私は君の肩でも切っちゃおっかな」 


//手刀で肩をトントンする

「トントントントントントントントンっ♪」


//肩を揉む

「んーまだ肩こりが取り切れてませんね〜」


「トントントントントトトントンッ!」

 

「はいっ! これで君の今日の疲れは全部なくなり

 ました♪」


「ご、ごめん。確かに野菜切ってる君に振動与えるのは危ないよね。もうやめとく」


「それにしても君、本当に料理するの得意だよね」


「私以外の女の子が彼女だったら『私より料理が上手な人とは付き合えない』って言ってフられてるレベルだよ」


「私は自分が料理下手なこと認めてるから彼氏は料理上手な人がいいし、何より君に対しての好きは君が料理上手だからって理由でなくなるようなレベルじゃないからね」


「……君はどうなの? 私のことどれくらい好き?」


「え、カレーと同じくらい好きってそれあんまり好きじゃなくない⁉︎」


「いや、俺カレーめっちゃ好きだからな、とか言われても全く説得力無いんですけど⁉︎」


「私は君より好きなものは無いって言い切れるくらい大好きなんだけどな……」


「え? 冗談?」


「いや、カレーの百倍は好き、ってだからそれ結局どれくらい好きなのかよくわかんないんですけどー!」


「……まあでもカレーの百倍なら結構好きってことになるのか」


「……ならまあ許してあげよう」


//SE 火をつけて煮込み始める音

「よしっ、後は煮込むだけだね!」


「……ごめん、料理中ずっと抱きついてて邪魔だったよね?」


「抱きつきたい衝動に勝てなくてずっと抱きついてたんだけど」


「今になってずっと君に抱きついてたのが申し訳なくなってきて……」


「抱きつかれてる方が癒されて捗ったから大丈夫って……もう。そういうとこだよ」


「なんでもないよーだ」


「それじゃあ暖かいうちにカレー食べちゃおっか!」

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