7 ラブレター

「藍子お姉様がね、お輿入れが決まったのですって」

 裁縫の授業で浴衣を縫いながら、春子はこっそりと美津子に耳打ちした。春子の言う藍子お姉様とは、最上級の生徒の一人だった。小枝子とは同級にあたる。まあそうなの、と無難な返事をした美津子に、春子はひそひそと噂話を続ける。

「だからね、静江さんが、藍子お姉様に思いきってラヴ・レターをお渡ししたそうよ。当初はご卒業なさる前にと考えていたそうだけど、もう会えなくなってしまうから」

 春子の視線の先を見ると、同じ学級の静江は何も知らずに見ても分かるほどに悄然として、針を動かす手もいかにも億劫そうだった。なるほどと美津子は合点が行く。あともう少しは同じ学び舎にいられると思っていたのに、急にそれが早まってしまうとなると、感情が追いつかないのだろう。静江が藍子に密かに思慕を抱いていたことは知っていたが、引っ込み思案の静江は、なかなか言い出せずにいたのだった。とは言え、美津子とて静江のことをとやかく言えた口ではなく、たまたまお花の師匠が小枝子の母親だったから親しくなれたようなものなのだ。美津子は内心で静江に同情した。卒業は時期が決まっているから覚悟の決めようもあるけれど、お輿入れは家と家の事情だから、赤の他人は露知らぬところで話が進んでいたりするのだ。自分の憧れていたお姉様が、何処の馬の骨とも知れぬ男のもとにお嫁に行くなんてと、影すら見えぬ殿方をいっそ憎く思えたりもする。そんなあれそれの感情を押し込めて、ラヴ・レターという字面ばかりは美しい紙片に選び抜いた言の葉を綴り、我が思う人に手渡した少女の想いはいかばかりか。美津子は静江から目を離し、自分の針目に集中した。いつ我が身に降りかかるとも知れぬ恐ろしいことから、少しでも目を背けていたかった。

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