5 琥珀糖

「美津子さん」

 夕食の片付けをようやく終え、女学校の宿題にとりかかるため美津子が自室に向かっていると、離れから出てきた豊に呼び止められた。美津子が立ち止まると、豊はさしたる距離もないのに少しだけ早足で歩み寄ってきた。

「ちょうど良かった。今日、町で見つけたおみやげがあって。美津子さんの分しかないのですが」

 豊が美津子に手渡したのは、手の中に収めるには少し大きいくらいの、平たい紙箱だった。美津子が開けようとすると、誰かに見られてはいけないのでと豊は美津子の手を包むように押しとどめた。

「お部屋で開けてください。お内儀さんにも、稔さんにも内緒ですので」

 稔というのは美津子の兄の名だった。家族は美津子のもらったものを欲しがるようなことはないだろうと思ったが、他人である豊からすれば、家に間借りしている身で家長やその妻、あるいは息子などではなく娘だけに物を贈るのは、少し後ろめたいのかもしれなかった。豊は照れくさそうにそそくさと離れに戻り、その背中を可愛らしく思いながら、美津子は自室に入った。

 障子を閉めてから小箱を開くと、グラシン紙を一枚挟んだ下に琥珀糖が九つ入っていた。淡い赤や黄、緑の色がついた菓子は目にも涼しげだった。一つ口に運ぶと、美津子の好きな和三盆糖の上品な甘みが舌の上にすうっと広がる。その甘さは、なぜだか「あれは惚れた女を見る目よ」という春子の言葉を思い出させた。

 

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