第7話 遺跡からの脱出 6

 話しながら歩き、そろそろ目的地が見えてくるというところで、売る物をリュックにつめる。

 ぱんぱんになったリュックを背負ってテントが乱立する冒険者たちの拠点に近づく。

 入るとすぐに注目が集まる。ただしその視線は俺からずれている。


「やっぱり目立つね」

 

 リュックに腰掛けているハスに視線が集まっていた。


「わかっていたことだから気にせんよ。フォルトもスルーするといい」

「そうさせてもらうよ」


 絡んでくる様子はないし、さっさと売りにいこう。

 買取専門の商人を探して、声をかける。


「遺跡で拾った骨とか魔法道具を売りたい」

「わかった。そこのマットの上に出してくれ」


 まずは骨を取り出して、祈りのコインと退魔の腕輪も置く。


「ごちゃごちゃだな。ぱっと見、魔物の骨とはわかるが、種類分けや鑑定に手間がかかる。その分手数料をとるぞ」

「仕方ないですね。いつ買取結果がでます?」

「明日までにはやっておく。割符を準備するから少し待ってな」


 近くにあった馬車に入り、ごそごとやっていた商人はすぐに戻ってくる。


「文字の読み書きはできるか?」

「大丈夫ですよ」

「だったら割符に書かれている文字を覚えておいてくれ」


 すでに二つに割られた割符を渡してくる。

 カットン商店5番と書かれていた。裏には家紋らしき印が押されている。


「本当に読めているか確認したいから、声にだしてくれ」

「カットン商店5番」

「大丈夫みたいだな。割符を無くしたら取引はなくなるから気をつけろよ」


 商人は割符の片方を持っていき、馬車の中に入っていった。

 俺たちもその場を離れて、今日泊まるところを確保するためテントを借りに向かう。

 少人数用のテントを借りて、指定された番号に向かう。

 小型のテントが立てられていて、番号札が下がっていた。その札を裏返して使用中と表示させる。中に入って座る。


「今日はもううろつかずゆっくりして、まともなごはんを食べよう」

「うむ、賛成だ。あと注意することがある」

「注意?」

「我らを嫌な目で見ている者がいる。おそらくは魔物に恨みを持つものだろう」

「見てくるだけなら、相手しなければいいだろうけど、ちょっかいかけてくるかな」


 嫌味を言ってくる程度なら聞き流せばいいけど、持ち物を壊されたり、乱暴は困る。


「その可能性はある。人気の少ないところは避けた方がいいだろう。いっそのこと夕食をとったあとはここから離れてルームの中で過ごした方が安全かもしれぬ」

「安全に過ごせるならそうしよう」


 荷物をルームの中に置いて、剣と財布だけを持ってテントの中に戻る。

 とりあえず昼食をとって、夕方まで寝転んでだらだらと過ごす。

 夕食後、テントの入口を閉じるとルームに移動する。

 テントの毛布も持ち込んでいるので、寝心地はこれまでよりましだ。気温はすごしやすい温度になっているので、テントの中で寝るより快適だろう。

 今日は疲れていないので、すぐに横にはならず、ある程度体を動かすことにする。


「ルームを広くしてもらっていいか?」


 そう言ってくるハスにどれくらいの広さがいいか聞き返す。


「魔法を使うから広い方がフォルトに誤射せずにすむだろう」

「それじゃ最大限広くしよう」


 レベル3で部屋の広さはサッカーコート4つ分くらいになった。この調子でいくとレベル5だと町一つくらいの広さになるかな。

 あとレベル3での変化はより大きな温度幅以外に、意識せずともルームの外の様子がわかるようになった。視界の片隅にウィンドウがあるような感じになっている。

 ほかにこれまでルーム内の荷物を出すときは、ルームに入る必要があったけど、入らずとも出せるようになった。


「かなりの広さになったな。部屋と言っていいのだろうか」

「スキル名がルームなんだし、どれだけ広くても部屋判定でいいんじゃないかな」

「そうか。まあこれだけ広いなら誤射はないな」


 ハスはふわりと飛んで離れた位置に移動し、魔法を使っていく。炎の玉や細い稲妻が奥の壁へと飛んでいく。次は魔法を自身の体の周りに維持している。その維持した魔法が形を変えていく。炎の玉が粉々に散って、それが渦巻く。稲妻がハスの体の周りを走る。それらの光景は初めて見るもので見応えがあった。


(魔法ってあんなふうにいろいろ形を変えられるんだなー)


 ハスから目を離して漫画に出てくる技を真似すると、上がった器用さは伊達ではなく見た目だけは完璧に真似できた。キレや速さや威力は本物に劣るだろう。何度も練習すれば使い物になるかもしれない。

 回復ルームで眠ればどんなに疲れても一晩で回復できそうなので、気持ちよく寝るため思いっきり動く。

 

(漫画といえば重力を増やしての修行とかあったなー。ちょっと試してみようか)


 重力を増加できるルームを作って、2倍に設定する。漫画のシチュエーションを実体験できるのだとわくわくしながらそこに入る。

 すぐに体全体に重さがのしかかってくる。


「おおー、こんな感じなのか。2倍程度なら意外と動けそうだ」


 剣を振ったり、走って前方宙返りをやっていると、3分もせずに頭がくらくらして気分が悪くなってきた。

 これはまずいと思って、重力を通常に戻す。

 

「たかが2倍って甘くみてたな。普通の環境と2倍も違うって考えないと駄目なのか。そういえば厳しい訓練を受けたパイロットもGがかかって血流がおかしくなることがあるとか聞いたことあるし、素人の俺がいきなり重力を使った訓練をやったら気分が悪くなって当然か」


 やるなら1割2割増しといった負担の小さいところから体を慣らさないと駄目かもしれない。


「体験してわかったけど、ここは鍛錬のほかに魔物を気絶させるのにも使えそうだ。重力10倍とかで放置すれば寒さ暑さに強い魔物でも気絶しそう」


 ハスのいるルームに戻って、重力ルームを消す。


「どこに行っていたんだ」

「新しいルームを作ってそこに行ってたよ」

「どういったルームだ?」

「重力を増加させるルーム。鍛錬に使えるかなと思って作ってみたけど、2倍というものを甘くみたね。数分も耐え切れなかった」

「2倍というのはそんなにきついのか」


 あまり想像できないのかハスは首を傾げた。


「たんに自分の体重と同じ重さの物をかつぐってことと違うからね。体全体、内臓にも重さが影響してきて、そのせいで想像よりきつかったみたいだ」

「内臓に重さが影響か。いまいち理解できないが、未知の体験できつそうだ」

「今度またルームを作って鍛錬しようかと思うけど、一緒に入ってみる?」

「そうだな。そこで鍛えたら、より速く飛べるようになるかもしれないしやってみよう」


 今日のところは十分動いたし、そろそろ寝てもいい頃合いだ。

 寝るかと提案するとハスも頷く。

 回復ルームに移動して、重力ルームでの負担が癒されていき、心地よさからあっというまに眠る。

 朝になり、今日も稀薬を増やしてルームに置いておく。今日は使わずに明日以降増やしていけば、倍々で増えていく。ある程度増やしていっきに使うことにした。マナブロックも増やしてくから、それを使えば短い期間で増やすことが可能だろう。

 毛布を畳んでからテントから出る。剣と財布と空のリュック以外の荷物はルームに置きっぱなしだ。

 朝食をとってから商人のところに行って、挨拶してから割符を見せる。


「鑑定すんでいるぞ。すべて売るってことでいいんだよな?」

「はい。いくらになりました?」

「1000フィルの手数料を引いて20000フィルだ。魔法道具の方はそこまで珍しいものじゃないから合わせて8000フィル。骨の方はレベル5とかがメインで、レベル8も混ざっていた。死後時間が経過しすぎていたらもっと安くなっていたが、わりと新しいものが多かったようでこの値段だな」

「古くて脆そうなのは持ち帰りませんでしたからね」

「いい目利きをしているな」


 鑑定ルームで調べて古いとなっているものは処理したおかげだね。

 商人は金貨二枚を渡しながら、質問してくる。


「お前さんは若いのに、よくこれだけのものを持ち帰ることができたな。どこかに骨が集まったところでもあったのか?」

「そんな良い場所を知っていたら話しませんよ」

「そりゃそうだ」

「まあ良い場所を見つけたんじゃなくて転送の罠を踏んじゃっただけなんですが。奥に行って、物を拾いながら苦労して脱出したんですよ」

「そういうことか。そのときにそっちの魔物と出会ったのか?」


 指差されたハスはスルーしている。


「ええ、この子も外に出たいということで利害が一致して助けてもらいました。俺一人だと脱出は無理でしたね」

「運が良かったんだな」

「転送の罠を踏んでいるから運は悪いのでは?」

「そっちはお前の不注意だろう」


 そうだなと思わず頷く。

 正確には金儲けに焦ったフォルトの不注意だけど。


「しかし良いポイント知っているなら、教えてもらえなくともまた売りに来てもらおうと依頼するつもりだったが、無理だな」

「疲れたしある程度まとまったお金も手に入ったんで帰ります。だから依頼は無理でしたね」

「そうか」


 商人に別れを告げて、そのまま拠点から出る。


「人間の金についてはよくわからないのだが、得た金でどれくらいのことができる?」

「ええと、駆け出し冒険者が一ヶ月過ごすのに余裕を持てるくらいかな。駆け出しが一回の探索でこの金額は大成功の部類だと思うよ」


 フォルトが求めた金額には足りないんだけどね。必要金額は金貨50枚。この金額を稼ぎたいなら祝福のコインといった小物じゃなくて、貴重な魔法道具を見つける必要がある。

 ハスが見つけていた稀薬のように、大物も見つかる可能性はあったからフォルトは一縷の希望を求めて遺跡に来たんだろう。

 だからといって稀薬を持ち帰っていたら大変なことになっていただろうけどね。

 

「お金はあるし道中でハスの服を買おうか」


 ハスが今着ているものはぼろぼろだ。もとは白いワンピースだったんだろうけど、泥などの汚れが染み込んでおり、裾などほつれが目立つ。


「ありがたいが、我に合うサイズの服はあるのか?」

「あー、赤子とはまた体の形が違うしなぁ……いや人形の服なら大丈夫じゃないかな」

「人形かそれなら大丈夫かもしれんな」

「ただ人形を売っている店は町くらいにしかなさそうだから、しばらくは買えないかも」

「それなら大きな布を買って、貫頭衣のようにして誤魔化そう」


 それしかないかと返すと、ハスが誰か近づいてくると声をかけてくる。

 すぐに背後から足音が聞こえてくる。

 振り返ると20代前半くらいの男が駆け寄ってきていた。

 嫌な視線の主だとハスが伝えてくる。

 なんの用かと警戒して、剣に手を置く。ぱっと見は敵意があるようには見えないけど、隠しているかもしれない。

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