第4話 遺跡からの脱出 3

「短い時間だったが熟睡できた。こんなすっきりした目覚めは生まれて初めてかもしれぬ」


 こんな危険地帯で寝起きしたら、自然と眠りは浅くなるだろうね。


「おはよ」

「うむ、おはよう。そんな悩んだ顔をしてどうした」

「スキルの取得に悩んでいたんだよ。遺跡からの脱出に必要なスキルを取った方がいいだろう?」

「スキルポイントは重要だから悩む気持ちはわかる」

「ハスはどういったものを取得した方がいいかっていうお勧めはある?」

「お勧めか。周囲の警戒は我ができる。だから斥候は必要ないだろう。というかフォルトがどのようなスキルを持っているのか知らぬから、助言のしようがない」


 会ったばかりで互いのことを知らないんだし、助言が難しくて当然だったわ。


「組むと決めたからにはスキルの開示くらいはしようか。剣術と家事と読み書きと算術とルーム。ルーム以外はレベル1、ルームは2」

「家事と読み書きと算術を持っておるのは、どこか良い家の出身なのか?」

「いや一般の出だ。家の手伝いのためにとったんだ」


 雑知識のこと忘れてたけど、まあいいか。


「手伝いのためにわざわざポイントを消費してまで取らぬともよかろうに」

「あのときはそれが一番だと思っていたんだよ。それに算術はポイント消費してないし」

「一般家庭出身で算術を勉強のみで取得できるものなのかのう」

「できたから仕方ない。それより今は必要なスキルの取得の話」

「それもそうだな……運動はとれそうか? 脱出するのに体を動かすのは当たり前。歩きづらいところや壁を乗り越えたりもするかもしれぬ。あったら便利だろう。体術でもよいと思ったが、剣術を持っているということだから戦いのスキルは必要なかろう。体の動かし方への理解を深めたら、剣術にも役立つだろうし今後腐ることのないスキルではないかと思うぞ」


 思った以上にしっかりとした理由でお勧めされた。

 俺には今お勧めされた以上に取得しなければと思うスキルなんて思いつかないぞ。

 

「問題なく運動スキルは取れそうだし、お勧めしてくれたそれを取るよ。ありがと」

「礼には及ばぬ。共に行くと決めたのだから、動きやすくなってくれればこちらとしても助かる」


 足手まといになる可能性が減るってことだし、歓迎されるのは当然かもな。

 スキル項目に運動レベル1という文字が現れる。

 

「軽く動いてみる」


 部屋を広げて、動き回ることができる空間を確保する。

 ついでに剣術スキルも試してみよう。

 スキルの補助があるからか、地球にいた頃よりも動きやすい感じがある。側転とバク転がスムーズにできて、やったことのないバク宙もなんとかやることができた。

 剣術の方も体が覚えているといった感じで、ド素人が振り回すよりはましな扱いができている、はず。

 一通り動き終わると、ハスが声をかけてくる。


「今後について話したい」

「あいよ」


 その場に座り、水筒から水を一口飲む。


「脱出すると決めたが、まっすぐ出るのではなく寄りたいところがある」

「どこに寄りたいんだ」

「我の寝床だ。なにか役立つものがないかと、遺跡を探索し手に入れたものがある。手に入れたはいいが、使い道はさっぱりだが」

「置いていってもいいんじゃないかと思う」


 今は脱出優先じゃないかな。


「なにかしらの強い力は感じるからもったいないのだ。それに遠回りするわけでもない」

「遠回りじゃないなら別にいいけど。それらを使ってみようとは思わなかったの?」

「危なくてな。手に入れたものは指輪と薬。呪われていたり魔法の毒薬だったりするかもしれず、なにもわからないまま使いたくはない。でも本当に強い力を感じるから放置するのももったいない」


 ローグライクのゲームで未鑑定品を使ったことを思い出すなー。現実だとそんなことは危なくて、ハスの言う通り気軽には使えないわな。


「鑑定したり、使った効果がわかる魔法とかないもんかね。ハスは取得できそうにない?」

「知識系統のスキルで鑑定できるが、スキルポイントがない」

「そっかー」


 部屋に持ち込んだら、その持ちんだ物が鑑定できないかな。

 今できてないから無理だけど、そうやれないかと想像できたしいずれできそうだな。

 誰でも外を見ることができる部屋に鑑定部屋。次々と欲しい部屋を思いつくな。今後もこんなふうに欲することで思いつくのかもしれない。


「寄り道するのはいいとして、脱出にどれくらい時間がかかりそうかわかる?」

「魔物と遭遇しなければ、道の悪さや罠を考慮しても一日くらいだ。魔物を避けたりして迂回すると二日三日かかる。となると食料の確保もしなければならなくなってくる。その探索に時間がかかってもう一日くらいは余分に見た方がいいかもしれぬ」

「食料は確保できそう?」

「味は保証しないが、木の実や食べられる球根がある。植物知識のスキルをとって確認したから間違いない」

「どこまでも生き延びること優先だなぁ」


 食料があるなら持っている食料は複製しないでいいか? いや魔物や小動物に食べられている可能性もあるし、複製はしておこうか。

 このルームと同じルームを二つ生み出しておく。技力が4減った。

 複製の消費技力は2なのか。ほぼなにもないルームを複製したから2だけなんだろうか? のちのち試さないとね。

 複製したルームに置かれているものは自動回収できず、自分で取り行く必要があるみたいだ。いずれ自動回収できる倉庫を兼ねたルームを作りたいもんだ。


「最長で四日ということで間違いない?」

「うむ。時間はかかるかもしれぬが、ほぼ危険なく移動できるはず。離れたところに魔物の気配を感じたら、すぐにここに逃げ込めばいい」

「ハスが気配を感じとれない可能性もあると思うけど」

「気配察知に関しては大丈夫だ。それができなければすでに死んでいて、今ここにはおらん」


 たしかにそうだな。任せて大丈夫そうだ。


「それでは出発しようぞ」

「わかった。外に出すよ。少し時間差があるだろうから、待ってて」

「できるだけ早く出てきてくれよ」


 それに頷いてハスを外に出し、急いで複製したものを回収して倉庫用として使うルームに置く。


「出てきたか。少しだけこのまま出てこないのではと疑ったぞ」

「そんなことしないさ」


 そう答えつつ、用なしのルーム一つを消す。

 

「では出発だ。今は周辺に気配はないから安心していい」

「わかったよ。どっちに向かうんだ」

「あっちだ」


 ハスは北を指差したあと、俺の顔より高い位置に移動して、周囲を見ながら移動を始める。

 俺はそんなハスについて行きながら木の実や骨などが落ちていないか探していく。

 およそ15分歩いて、ハスに隠れるぞと声をかけられる。

 急いで俺とハスをルームに入れる。


「馬とトカゲを合体したような魔物が100……ミルト以上離れたところにいるな」


 メートルと言いそうになって、こちらの単位に言い換える。

 ミルトは長さの単位で、1ミルトは1メートルと同じくらいだ。1ミンが1センチ、1ミテムが1キロメートル。

 ついでに重さの単位は、1クンが1グラム。1クムリが1キログラム。

 こちらの世界も十進法が基本で助かる。

 お金は世界の名前からとられていてフィルという単位だ。1フィルは小さな銅貨1枚で、日本円だと10円くらいかな。


「うむ、ホスケイルという魔物だ。動きが早く、悪路を気にしない踏破性で、遭遇すると逃げられないぞ。見えなくなったら教えてくれ」


 了解と返して、ホスケイルの様子を見つつ、それの情報についてきく。

 寒さや暑さに弱いなら、温度を変化させたルームに放り込むのもありだろう。


「ホスケイルは飼いならせば、馬車を引かせたりできるぞ。強さとしては中の中くらいか? だから戦って上下関係をわからせ従わせるのは難しいことではない。今の我らだと勝つのは無理だが」

「弱点とかは?」

「これといったものはなかったはずだ。大きな音に驚きやすいという特徴があったが、弱点とまでは言わないだろう。殴るより魔法の方が効果あったはず」

「接近してきたら大声を出せば追い返せるってこと?」


 そう言いつつルームに放り込んでも意味はなさそうだと諦める。


「大声くらいだと一瞬動きを止めるくらいではないか?」


 なるほどと返して、近くから魔物の姿が消えたことをハスに教えて外に出る。

 引き続き食べられそうなものや魔物の骨を回収して、魔物が現れたら隠れるということを繰り返して少しずつ進む。

 収穫はそれら以外にもあった。ハスがちょっとした力の込められた腕輪やコインを見つけたのだ。それらもルームに放り込んでおく。


「ストップだ」

「どうした?」

「罠がある。空を飛んでいる我には無関係だが、フォルトは引っかかる。迂回するぞ」

「わかったよ。しかしどこにあるのか俺にはわからん」

「まっすぐ10ミルトも行かないところだな」


 あそこだと指差されたけどさっぱりだ。荒れた地面しか見えない。


「よくわかるね」

「斥候スキルのおかげだな。もっともあるとわかるだけで種類も解除法もわからんが」

「発見できるだけでも十分だな。ところでさ」

「なんだ」

「ああいった罠って魔物が設置してんのかな」

「違うぞ。簡単に説明すると、マナが悪さしているのだ。マナがなにかわかるかね?」


 ゲームに出てくる単語だけど、それと同じかわからないんで首を横に振った。


「わからないか。世界に満ちる力と覚えておけばいい。人間も魔族も動物も魔物もそれを取り入れて自らの力としている。主に技力の回復に関わってくるな。そのマナは生物以外にも影響を与えている。その一部が罠の生成というわけだ。たしかフォルトは転送の罠を踏んだのだったな? あれは別の場所にあるマナ同士の繋がりで起きる現象だ。マナに触れ刺激したせいで、もう一ヶ所にあるマナへと向かう動きに巻き込まれたのだ」

「わかるようなわからないような。そういった罠って解除できるものなのか?」

「できる。専用の道具や魔法が必要になるが。マナを刺激せずに少しずつ散らせば影響なくなるのだ。言うは簡単だが、実際にやってみると難しいそうだ」

「なるほどねぇ。それにしても色々と知っているよね」

「魔王だからな! 魔族のトップとして君臨していれば、知識は色々と入ってきて自然と蓄えられたのだ」

「ほうほう」


 魔王だと名乗るため細かく設定していてすごいな。

 本当のところはいいところの出身とかそんな感じかねぇ。魔物でも知性があれば知識を蓄えるだろうし、それを子供に教授もするだろう。

 好奇心かそれとも家の一大事で飛び出して、間違えてここに流れ着いたとかそんな感じだろうか。

 罠を迂回して進んでいき、夕方頃にハスの隠れ家という名の瓦礫の隙間に到着した。指輪と薬瓶を回収し、今日はここで休もうと決まる。

 ルームに戻り、俺の持っていた食料や採取したもので夕食をすませる。水はハスが自然魔法で出してくれた。

 食事を終えてハスが寝床をしっかりと整えて、俺を指差してくる。

 

「安眠をむさぼらせてもらう!」

「どうぞどうぞ」


 厳しい生活をしてきたハスにとって安眠は贅沢なんだろうし、邪魔する気はない。

 嬉しそうな感じで横になり目を閉じる。高揚した感じだし眠れないのではと思ったけど、そう時間をかけずに寝息が聞こえてきた。


(俺はまだ眠くしないし、外の様子でも眺めていよう)


 リュックを枕にして寝転び、外を見る。

 外はじょじょに暗くなっていき、やがて真っ暗になる。空には三日月と星と雲が浮かぶ。

 満月だったら明るく地上を照らしてくれそうだったけど、今はそんなに明るくない。


(暗くて暇潰しにもならないし、倉庫ルームに行って体を動かそうかな)


 ついでに置いてある食料をこっちに移しておこう。んでもって、またこのルームのものを複製する。複製する量が増えたら消費技力も増えるのかという検証もできるしちょうどいい。

 まずはルームの複製をする。そして技力を確認すると技力の消費が3になっていた。


(量が増えたからなのか、指輪といった魔法道具を複製したからなのかわからないな)


 まあいいやとひとまずそのことは置いておくことにして、増やしたものを回収し、倉庫ルームに移す。

 空っぽのルームは消して、体を動かし、増やした水筒の水で体をささっとふき、食料を持って寝泊まりしているルームに戻る。

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