第13話 魔法を学んでみよう!
第13話 魔法を学んでみよう! それから魔法の特訓が始まった。僕はカレンの指導の下魔法を使うための様々な特訓を乗り越えた。毎朝日が昇る前に目を覚まし、カレンの竹刀によるしごきに耐えながら、雨にも負けず、風にも負けずにうさぎ跳び。飯を食うにも大リーグ養成ギプスを装着し、不満があればちゃぶ台返し。そんな心身がすり減りそうな血のにじむ訓練を乗り越え、僕は魔法を習得することに成功した。
なーんて面倒くさいことは全然なかった。一瞬でマスターした。僕は全属性をぱぱっと発動させてみせ、カレンに回答を提示する。
「イメージができるか、とは言ったものの、より正確には現象の細分化をよりイメージできるかってのが要点なのかな? カレンも今までそういう感じで魔法をやってたんじゃないか?」
「ま、まぁね、うんそうそう現象の細分化って大事だからさ、まぁ細かいことは気にしなくていいのよ」
細かいことを気にしなきゃ細分化できないだろ。固い笑顔に視線だけでそう返した。
だがマスターとは言わずとも、原理がまだ曖昧なものがあった。それがヒールだ。
カレンはこれを「被施術者をリラックスさせて回復をイメージさせる」と言っていたけれど、それで自己治癒力が向上するとは到底思えない。それこそなんちゃって科学的な説明によって、適当に納得させられそうになっている感がある。まぁできたけれど。しかし何故できたのかが今だに釈然としないのが実情だった。
「できたならいいでしょうが、ちぇ、もうちょっと鼻高くできると思ったんだけどなぁ、優秀でがっかり~」
すっかりしょげてしまったカレンは、帰り道に石ころを遠くに蹴ってブーブーと不満たらたらだった。まぁ確かに、教え子が一日足らずで教えることがなくなるというのも、教師冥利につきないというものか。
「じゃんけん知ってる?」
急にカレンが謎の提案をした。
「知ってるけど? それがどうし――」
「じゃーんけーんぽん!」
カレンはパー、僕はチョキだった。カレンのパーがプルプルと震えていた。
「うっそ……このやり方なら絶対に勝てるはずなのに……」
「ごめん僕じゃんけんは得意なんだよねはっはっは」
まぁ勝ち過ぎて誰もじゃんけんしてくれなくなったんだけど。だってあれ究極的に相手の手を見てからの反射神経なんだもんなぁ。
「じゃあ真剣白刃取り!」
またもや急に、振り降ろされたカレンの杖だったが僕はそれを見て受け止めた。
「じゃあ叩いて被ってじゃんけんぽん!」
「おいそこの棒よこせよ!」
「ざんねーん勝負はじゃんけん前に始まってます~」
おいカレンお前はそれで満足なのか。その日は叩かれることなくじゃんけんをしながら家路についた。
そんなこんなで翌日。朝早くから僕はカレンと共にギルドのクエストの掲示板前に来ていた。掲示板には色んな紙が張り出されており、そこには多ければ多いほど難易度が高いという星が描かれている。中には星10個でドラゴンのイラストが描かれている紙があった。見た感じ、ドラゴンを討伐する依頼らしい。どうやら幻獣も住んでいる世界なようだ、ゴブリンとかスライムもいるのだろうか? 異世界の生態系について知りたいところである。
「お、お手頃クエストみーっけた!」
そう言ってカレンは掲示板の下の方にある紙を引っ張った。そこには星が5個書かれている。内容はというと……あれ? カレンに聞いてみた。
「なぁカレン、この紙何も文字が書かれていないのに意味が分かるんだが、なにこれ気持ち悪いんだけど?」
「そういやまともに見るのは初めてよね、実はこの世界言語が無くても、クリエイトエナジーがあれば意思疎通ができるのよ、物質にクリエイトエナジーを込めることでね」
私達も会話しているようでいて、実は無意識にクリエイトエナジーをぶつけあって意思疎通をしているの、とカレンは付け加えた。言語を使わずにコミュニケーションをとるというのもなかなか奇妙な話だけれど、ボディランゲージという考え方があるように、必ずしも意思疎通に言語が使用されるとは限らない。
って、いや待て。
「カレン、お前は日本語分かるだろ」
「日本語?」
首を傾げるカレン。自覚がない感じは確かにそのアホな表情で伝わった。
「僕が病院で入院してたときだよ。ネームプレートがあっただろ。カレンにしか話してない僕の名前が書かれてたじゃないか」
しかしその文字はひらがなで記載されていた。つまり漢字表記は分からないが、読み方は分かる人が書いたことになる。
するとカレンは、先ほどとは逆の方へ首を傾げた。
「そりゃ、まぁ名前聞いてたわけだから書いてるけど、それがどうかしたの?」
「何で日本語知ってんだよってことだよ。ここは異世界だぜ? 言葉が通じる方がおかしいはずなんだ」
「ふむ、確かに考えたことなかったわね。不思議といっちゃ不思議だけど、それって何か重要なことなの?」
そう言われると返答に困る。特に重要じゃないかもしれないからだ。なら問い詰めるだけ無駄というものか。何かヒントになるともあんまり思えないしな。
解明されない謎をそのままに先へ進むのは少し抵抗があるけれど、仕方がなく、改めてカレンが取ってきた依頼書を見てみる。するとさながらARで見た映像のように、麦わら帽子を被ったおばあちゃんのイメージが意識に入り込んできた。
『ここ最近になってから、畑の野菜がめっちゃ取られて困ってるんや、マジで許さへんぶっ殺してくれあの畜生共が!』
なんで関西弁なんだよ、クリエイトエナジーってそんな言葉の訛りとかも再現するの? 下手すると逆に伝わらねぇよ。血走った目や地団太のイメージから恐ろしく怒っていることは伝わるのだが、急にこんなイメージが流れ込んでくるとびっくりしてしまう。……あれ、そういえばアレもそうなのだろうか? 今は手元にないから確かめることはできないけれど、帰ったら確かめてみよう。
カレンが紙を受付に渡してから数分、赤縁眼鏡をかけて先生モードになった。
「今日は魔法訓練応用編、題して『魔法を使って依頼をこなしてみよう!』を開講したいと思います。」
ノリノリなカレンに連れられたのは、受付から聞いた住所。そこには地味ながら活気ある情景が広がっていた。太陽が頂点に達し明るい光が畑全体を照らしている、そんな熱さに負けず劣らず畑の中では農夫や農家さんが一生懸命に作業をしていた。畦道を歩くと、新鮮な野菜や果物の香りが漂い、目の前に広がる作物の緑が目を楽しませてくれる。
そんな農家さん達が果物や野菜を見る顔は笑顔が多かった、大変だ、辛い、という気持ちよりも、美味しくなれよ、元気に育ってるじゃないか、といった気持ちが感じられる。大切に丹精込めて育てている野菜たちはさぞ美味しいことだろう、眺めていると、1人の老婆と目が合った。曲がった腰をゆっくりと上げて、ゆらゆらとこちらに身体を向けると。
「遅いんじゃボケーーー!! どんだけ食われた思ってるんやアホがーーー!」
さっきまでの年寄りの落ち着いた、ゆったりとした空気が一瞬で寸断される。被っていた麦わら帽子が吹っ飛び、白髪の長髪が露わになる。カレンが快活な挨拶を投げかけた。
「こんにちは! 畑荒らされてるんだってね、どんな状況?」
「どんなんもこんなんもあるかいな! 売上全部食われてもーとるわ! しかも上手いこと美味しいやつだけ取りよるんやであいつらマジで次見つけたらぶっ殺したる!」
こんな生命力あふれているならもう僕らいらないんじゃ、と思わなくはないが、元気に見えてもご老人方が経営する農家では、害獣駆除する体力を普段の仕事終わりから捻出するのは難しいだろう。とりあえず事情聴取から始めることにした。
「次に見つけたらって言ってましたね、ということは、畑を荒らしている動物が何か既にご存じなのですか?」
「鳥や鳥! てってけてってけトマトとかきゅうりとか持っていかれたんや!」
依頼書のイメージで見た地団太を踏む老婆。鳥か、畑を荒らす鳥ってなるとスズメやカラスが考えられるけれど、なんか言い方が引っかかる。怒りが伝わり過ぎて具体的な内容が分からない。
「その鳥ってどんな鳥でした?」
「へんな青い鳥やったわ、次見たらあのクチバシへし折ったるわあののろまが!」
のろま? 鳥を形容するにはいささか辺な言葉だと思うのだが。そう思案している内に、血走った目を見開いたまま老婆は畑仕事に戻ってしまった、そうとう忙しいらしい。これ以上の話は聞けないか。老婆を見届けると、カレンは肩に手を置いて今回の特訓内容を確認する。
「良い? この依頼を通じてサツキには魔法の応用編を試してもらうわ。まぁむずそうなら私がサポートするから思う存分失敗してくださいな」
この畑までの道中、カレンからあるもう一つのレクチャーを受けていた。その内容に思いを馳せる。そしてどうこのクエストに役立てられるかを考える。
想像するだけで創造することができるクリエイトエナジー。それを利用したのが一日目の魔法だった。
だがその魔法の域を超えて、より詳細にイメージすることで特定の物質を生み出すことができるという。
その名も、物質創造。
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(14話改稿中)幻創世界の異端者達(ディビアント)~迷いを払う、大切の力~ こへへい @k_oh_e
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