第15話

「物質創造とは、その名の通り物質をイメージすることで、クリエイトエナジーを元にイメージした物質を作り出すテクニックよ」


 田畑広がるほんわか田舎道を歩いている時に、カレンがそう説明した。

 イメージするだけで物質を作り出すと言ってもあんまりイメージできない、ことはなかった。昨今3Dプリンターとかで銃のおもちゃが製造できるわけだし、イメージが物質となるというのはまぁ分かる。だが。


「その物質創造ってのは、どこまで詳細にできるんだ?」


 見たことも無い物質はイメージできないとして、現実に存在しない物質は作れるのか、機械等は作ることができるのか。聞いてみると首を横に振った。


「機械なんてできるわけないでしょ、構造が単純な物なら物質創造できるってだけ」


 それをどうやりくりしていくのかが物質創造の肝なのよ。とドヤ顔で説明される。だが本当に無理なのだろうか? イマイチ納得しかねる。表情に出ていたのか、カレンが明後日の方を指さした。そこには田畑を耕す鍬が、おんぼろ倉庫の壁に立てかけられていた。


「あれを作ってみて」


 僕らは立ち止まり、鍬を見つめて僕は手にイメージを集中させる。5属性を発現させた時、実はただたんに属性のイメージをしていたわけではなかった。雷属性はそもそも全身に駆け巡る電気信号をイメージすることで多少なりとも発現させられたし、火属性は燃焼という化学反応なので可燃物である酸素やガスをイメージしてから雷属性で着火したり、水属性は酸素と水素が合わさったモノだし、大地属性は色んな鉱物が入り混じっているだけだし、風属性は空気を発することができればいいので気体を集中して発生させれば風となる。このように、各属性はその現象を理解していれば発現できるため、義務教育レベルならば余裕なのだ。


 だが、鍬は出来なかった。イメージしても、持ち手にフォークのような金属がくっついている物質と作ることができない。ぐぬぬと少し唸ってあることに気づいた。


「そうか、この持ち手、なのか」


 カレンは指を鳴らした。「その通り、木は元々生き物だからその構造が複雑すぎてイメージできないのよね、だから鍬は作れないってわけ。できても鍬の鉄部分か、持ち手も鉄にすればできるかも知れないわね。重いけど」


 言って僕を置いて先に向かうカレン。説明は済んだという感じなのだろうが、しかし、僕はある希望を抱いていた。

 もし細部の細部まで内部を理解することができていれば、それは作れるということだ、と。

 ならば、を作ることができるのではないのか。今のところ森火事での倒木を除き目立った不幸は起こっていないけれど、いざ起きた時のために作っておきたい。

 手を振るカレンの呼びかけで、僕はようやく足を動かした。


「畑を荒らす青い鳥か、幸せもあったもんじゃないな」


「幸せどころか奪ってるもんねぇ、んでどうするの? 有用なソリューションは考え付いたかしら?」


 ある。その青い鳥が畑の作物を狙っているならば、それは罠として使えると言うことだ。鳥をとらえる罠と言えば。

 一つ、鉄檻を物質創造。これを斜めに立てかけて木の棒などで固定。

 二つ、木の棒に糸を括りつける。

 三つ、鉄檻の内側に作物を置いておく。

 これらを畑近くの山林に設置している様子を不思議そうに眺めるカレンがふと呟いた。


「相手は鳥なのよ? 餌だけ持って飛んで行かれるんじゃない?」


 これは一応考えがあっての事だった。「あのおばあさんは鳥の事をのろまだと言ったんだ。どんな鳥でも飛び立てば人間よりは速いはずなのに。だとすると、もしかしたら鶏みたいな飛べない種類なのかもって思ったんだよ」


 「なるほどね、まぁお手並み拝見と行きましょうか」


 カレンと共に、設置した罠を見れる草陰に隠れた。これであとはターゲットを待つばかり。

 じっと待つ。青空の下、風にあおられた木々の葉っぱが陽光を揺らす。

 その環境音が、無意識に記憶を呼び覚ます。

 自然な場所、緑が溢れる場所、鳥がさざめく場所、川が流れる場所、それは僕が友を失った状況に類似し、その記憶が呼び覚まされる。

 胸が焼けていく、影が視界を覆っていく。気配を消すための浅い呼吸が更に浅くなる。

 やばい、死にたい、消えてなくなりたい。

 僕を責めるな、僕に指をさすな。

 僕は悪くない、僕は悪く――。


「サツキ! 来たわよ!」


 肩が強めに叩かれて我に返る。気づけば太陽は雲に遮られていた。影が濃くなり少しだけ見えづらい山林の隙間に見える罠、その近くに近づく何かを見た。積み上げたニンジンやキャベツ、リンゴにブドウをその大きいクチバシでつつく、青い羽毛を揺らして周囲を窺っている。その時点でもすぐに罠の木の棒を引っ張って鉄檻を落とせばよかったのだが、僕は固まって動くことができなかった。さっきの心の闇の再発とはまた別で、だが、あれは。あの鳥は、あの種類は。


 何故あの種類が、ここにいる? 絶滅種なはずなのに。


「もうじれったいわね! 私がやる!」


 カレンがしびれを切らして僕が握る紐を奪い引っ張った。鉄檻が下がるものの、カレンの気配にいち早く気づいたのか、ニンジン一本だけ咥えて鉄檻を避けた。そのままタッタカタッタカと去っていく。まずい、逃げられる! 僕らは腰を上げて走り出した。

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