第12話 想像すれば創造できる、クリエイトエナジー

 転移者紹介特典の化粧水を一旦カレンの寝起きする部屋に持ち帰り、ついでに僕の部屋の登録を済ました後、カレンに連れられてディネクス随一の原っぱにやってきていた。どうやら広い方が都合がいいらしい。


「さて今から魔法についてレクチャーしたいと思います!」


 そうビシっとセリフを決めたカレンは赤い縁の眼鏡をかけて背筋を余計に伸ばしていた。魔法のステッキというより、黒板を叩く棒みたいなのを持っている。


「魔法かぁ、そういえば森火事って魔法でなんとかしたのか? ほら、水だしてたろ?」


「ウォーターガンね、あれじゃあ流石に範囲が狭くて鎮火は無理だったから、水魔法と風魔法の応用でジメジメさせて、雲を作って鎮火しました」


 うーむ、何と言うか、地味だな。それに雲を作るって意外と現実でもできたりするんだよな。明日のあなたがエネルギーで幸せになりますように、とか言って。


「もっと盛り上がってよ、魔法よ魔法、雲を作るのって結構精密で難しいんだから」


 僕の反応がイマイチだったのか、頬を膨らませるカレン先生。そう言われても、魔法の箒やじゅうたんをイメージしていたので仕方が無かろう。


「魔法って空飛んだりワープしたりできないのか? あ、でもそういうのって特別な才能を持った人にしかできなかったり?」


「空? ワープ? 何それ、ファンタジーじゃないんだから魔法でそんなのできるわけないでしょ常識的に考えて」


 ファンタジーの世界の住人に「ファンタジー」だと言われてしまった。お前が言うなと言いたい気持ちをぐっとこらえて続きを待つ。


「魔法っていうのはね、この世界に漂うエネルギーを用いることで発動できる力なの。このエネルギーはイメージすることで、そのイメージを形にするところから、クリエイトエナジーと言われているわ」


 想像すれば、創造できる、クリエイトエナジー。カレンはそう言い直した。

 それなら確かに、ワープとか空中浮遊ってのは想像できない。ファンタジーと言われても仕方が無いか。


「具体的にどんな魔法があるのか口だけではイメージできないでしょうから、今から実践してあげるわね」


 カレンはそう言うと、右手で持った棒を地面にツンツンと叩く。すると杖先から、急に大地がモリモリと盛り上がっていく。まるで杖が強力な磁石で、砂鉄を地面から引っ張っているような感じだった。


「おおおお! どういう原理なんだこれは」


「ふふふ、驚くのはまだ早いわよ、さっきのは大地属性の魔法。そしてこれから他の4属性を見せてあげるわ!」


 カレンは腰くらいまで盛り上げた土に、杖先から水を出して湿らせる。水属性。

 更にそれを流れる水を利用して長方形の板のように変形させ、それを強力な炎で燃やしていた。炎属性。

 その炎は風によって向きがコントロールされているようで、渦巻状の炎が地面に寝そべる土の板を容赦なく燃やしていく。近くの雑草も漏れなく燃えていた。風属性。

 最後にその板を杖の磁力を用いて身を起こさせた。雷属性。


 そして予め準備していたチョークを作成した板、つまり黒板に突き立てて、先ほどの各属性についてのイラストを板書することで説明した。


「とまぁこのように、大地、水、炎、風、雷属性があるのね。ちなみに初心者は水か風がやり易いわね。逆に雷や炎は結構習得するのに時間がかかるわ」


「なるほどね、イメージしやすい順に属性の難易度が違うわけだ」


 炎や雷は触れたり観察する機会が少ない、故にイメージがしづらく習得が難しい。反面大地、水、風は触れる頻度が多いからイメージしやすいというメカニズムか。

 ん? 待てよ? 説明できない事があった気がする。


「なぁ、そういえば僕の鼻を治してくれてたよな? それに全身複雑骨折もすぐに治ってたし。そういう治療用の魔法ってのがあるんじゃないのか?」


「良いところに相槌をくれるわね、その通りよ。ヒールっていう治癒魔法はちょっと特別でね、被施術者の周辺にリラックス効果のある香りや空気を作ることで、怪我人本人から、怪我のイメージを剥がして自然治癒を促進する魔法なのよ」


 ははーん、思い出すとそんな感じだったように思う。超いい匂いしたかと思ったら、いつの間にか鼻の痛みが引いていた。あれは自分自身のイメージを治癒方面に促すために行われていたのか。


 ……あれ、でもそれって何かおかしくないか? 自然治癒力の促進だけでそこまで回復できるだろうか? 全身複雑骨折だぞ? 病院のベッドというリラックス効果絶大な環境にいたとはいえ、イメージだけで怪我が完全に治るものだろうか。


「あとはまぁ、極稀に光属性魔法とか使ってる人いるらしいわね、本人を見たことはないけれど」


「あるんだ!」


 疑問の種が芽吹く前に、物凄い中二心をくすぐる情報をぶち込まれて胸が高鳴った。光属性とか闇属性とか、そういう基本的ではない属性ってテンション上がるのだ、男の子だから。


「はい先生、ちなみに、無属性とか闇属性とか、虚無属性とかってありますか?」


 期待を込めて僕は大きく手を上げた。カレン先生は笑顔を歪ませる。


「何そのあるんだか無いんだか意味不明な属性は。無って」


「……」


 カレン先生に鼻で笑われた。

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