第12話

 本国ディネクスの王オウグ様は最初、二人のご友人と共に建国されました。最初こそ三人でしたが、王の志に惹かれてか次第に国民はその数を増し、国は急速はスピードで成長しました。


 しかし、ことはそううまくは運びません。ディネクスは大きな暗礁に乗り上げることになるのです。


 それが、転移者の崩壊。転移者はそうでない者よりも魔法に長けている反面、強大な力が自身を壊してしまう時があるのです。


 王の友人の二人も転移者でした、それ故に、転移者の崩壊を逃れることができなかったのです。ご友人の一人がその崩壊によって亡くなられて、王は深く悲しみました。


 しかしそこで王は膝をつくことはありませんでした。友の死を無駄にしてはいけない、その友のような転移者がもう崩壊しないよう、手厚く保護しなければと。


 ***


「そういう思想から、本サービスが提供されているのでございます。ご理解いただけましたか?」


 ……ご理解、だと? そこまで多くない説明に加えて紙芝居での説明にこれ以上なく理解することはできるのだが、如何せん、内容がハイカロリー過ぎた。胃がもたれて吐きそうになりながら、僕はまずカレンの方に向いた。


「おい、記憶以前に、崩壊って、転移者ってそんなヤバイのかよ、普通そこから言うだろうがよ」


 自然語気が強くなってしまったが、カレンはケロっとしたような笑顔で肩を叩く。


「心配しなさんなって、このサービスが行われてからは、転移者の崩壊の事例は一つも報告されていないの? だから大丈夫大丈夫!」


 そうは言っても、なかなか二つ返事しづらい。しかし返事しなかったからと言って、だから僕にどうすることができるのかと自問しても、答えがなかった。弱毒化したウイルスであるワクチンを接種すれば感染症の発症を防げると説明されて、受けなければ感染症を発症すると暗に示されて、否を突きつけることができるだろうか? 僕は渋々首肯する。


 「なるほど、な、まぁ分かったよ。転移者は結構好待遇で素晴らしい立ち位置だってことはよーくわかった。ありがとう受付嬢さん、満足100点の説明だ」


 「ご理解いただけて何よりです!」そういう受付嬢の満面の笑みが、僕には少し不気味に見えた。


 受付嬢からは、続けて適性検査というのが行われるらしかった。ペーパーテストとかするのだろうかとふと頭に浮かんだが、油断していた。この世界は異世界だと聞いていたはずなのに。


 丸い水晶玉が、小さな座布団に乗せられて受付のテーブルに現れた。


「まずはこの水晶玉に手を置いてもらいます」


 ……ですよね。有無を言わさずに、マニュアルを読み込み済みであるように迷いなく手を置いた。水晶から、まるで中に電球が仕込まれているような光が発される。


「ふむふむ、なるほど」と水晶玉を覗き受付嬢がうなずいてから、また紙を取り出した。見ると、いろんなタイプとその説明が描かれており、ある一つに指をさした。


「いくつかタイプがあるのですが、サツキさんはこの『職人』タイプに分類されます。これでランクとタイプが確定しましたので、掲示板に掲載されているお仕事を選択する際の参考にしてください」


 『職人』か、なるほど。この水晶が伊達ではない事がよくわかった。僕の生前を思うと、確かにアレは職人と言ってもいいかもしれない。

 それにしても、カレンはここまでしてくれる理由はあるのだろうか? こういうのって、もっと恩義というか、大義があってしかるべきだろう。過去に転移者の記憶を奪われたから、僕をマークすることで犯人を出待ちするという魂胆はあるのだろうとしても、あまりにサービス旺盛って感じてしまう、穿ち過ぎか?


 そう僕のひねくれ精神が囁いていると、カレンの方は受付嬢に小さく囁いていた。


「あの、例のやつってOK?」


 一瞬首を傾げた受付嬢だったが、何を言っているのかを理解したのか、笑顔で明るい声を上げた。


「あ! 転移者紹介特典の化粧水セットですね! 今ご用意いたします!」


「そういう魂胆かよ!」

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