第11話

 ライブを盛り上げていた皆と共に、マスターお手製のオムライスを頬張った後(筆舌に尽くしがたい一品だったので感想は後日改めて四千字以内で提出しよう)、僕はカレンに連れられて厨房(ステージ?)裏にある扉を目指していた。ギルドの出入口から近い席に座っていたので、オムライスのおかわりをする客をかき分けるのに苦労した。その道中、ボロボロのフードを目深にかぶった男が、スプーンの1掬いずつ時間をかけて頬張っているのが見えた。そういえば料金とかかかるのだろうか? 無いとして、彼のような身寄り無さそうな人への配給も兼ねているのだろうか? という疑問が過った。まぁ仮に費用が掛かったとしても、あのような貧乏っぽい人が払える料金ならば、死ぬ気で皿洗いすればいいだろう。と、難しいことに心の目を逸らしていると。


「こっちこっち!」


 とカレンが手招きをしていた。その後ろには大勢の人が出入りできそうな通用口がある。僕はカレンに遅れて中へと入るとまず、広々としたギルドホールが見えた。出入口の両脇には大きな蝋燭が灯りを提供し、ホール近くに設置された掲示板には、何人かの冒険者たちが仕事を探している。一方で、中央には長いテーブルと椅子が配置され、そこでギルドメンバーたちが交流しているようだった。全員が全員マスターの飯を食っていたわけではないらしい。


 カルガモの如くカレンに連れられ辿り着いたのは、宝くじ売り場のような場所に入っている、笑顔が素晴らしい受付嬢が待つ受付だった。


「お疲れ様ですカレンさん、今日はいかがなさいましたか?」


「新入り引っ張ってきたからその紹介をね、説明してもらっていい?」


 かしこまりました、という快い返事と共に受付嬢は、紙芝居のような四角いフレームを取り出して自身の顔が隠れるように受付前のテーブルに立てた。イラスト付きで何やら説明してくれるらしい。


「当ギルドの役割は国中から集まる困りごとを適切な人が解決でき、双方の利益が担保されるようにすることです。そのために我々は、誰がどのような仕事をするのが相応しいのかを洞察して斡旋しております。いわゆるお仕事のマッチングサービスですね」


 依頼者のイラストと、ギルドメンバー側のイラストの間に謎のハートマークが描かれているのは、その例を出すためか。いや分かりやすいけれど、マッチングサービスを馬鹿にするわけではないけれど、ギルドでのお仕事というイメージとの齟齬が否めない。しかし快活な声に「なるほど、分かりやすいっすね」と苦笑いするしかなかった。受付嬢は続ける。


「なので我々はギルドメンバーに対しランク付けを行っております。下から銅、銀、金、プラチナと階層分けされており、上に上がるにつれて報酬と難易度、求められる専門性が上がります」


「あれ」と、僕はある違和感を覚えたのでつい呟いていた。どうしたの? とカレンが聞いてきたので聞いてみる。


「ギルドメンバーって言ってるけど、冒険者って言わないのか?」


 二人は固まった。え、何? まずいこと言ったの? 不安になるからその反応止めてほしいんだけど。受付嬢が今度は苦笑いした。


「ええと、申し訳ありません、冒険者って、何ですか? どこか冒険するんですか?」


 カレンが笑いをこらえるように続けた。


「ふふふ……、冒険するだけでお金がもらえる仕事なんてあるわけないでしょ? 仕事ってのは誰かを幸せにして報酬貰うもんよ? 冒険して誰が幸せになるってのよ……ぷぷぷ」


「いや、そういうのがあるんだって!」僕は蒸気する顔を自覚しつつ言って、カレンの反応に気が付いた。「つーかカレン! お前転移者の反応楽しんでるだけで、一応冒険者って言葉くらいは分かるだろ! 分かっててからかってるだろ!」


 魂胆を見透かされたのを理解して、堪えていた笑いを解放するカレンは、ひとしきり声を上げた後に涙混じりで謝った。しかし受付嬢の方は閃いたように両手を胸の前で合わせる。


「なるほど、貴方は転移者でいらっしゃるんですね! ではこちらの説明も」


 そう言うと、紙芝居の紙が数ページ進んだ。そこには『転移者特典』という意味が伝わるイラストというか、文字というか、しかし分かるモノが書かれていた。話の腰を折っても良くないので、説明の続きを待つ。


「本来銅ランクからお仕事の斡旋をさせて頂くことになっているのですが、転移者の方は特別! 銀ランクから始められるのです! 更に当ギルドが提携している宿泊施設での寝食が保証されます! マスターのライブ飯も食べられるんですよ!」


 なんと。確かにそれは聞いてよかった。ライブ飯というのは、この前あったオムライスの事だろう。だが転移者と言うだけでそこまで優遇されてもいいものなのだろうか? うまい話には裏がある。僕は腕を組んで首を傾げた。


「なんかいい話過ぎるなぁ、なんで転移者が優遇されるのかって聞いてもいいですか?」


 受付嬢はよくぞ聞いてくれましたと言わんばかりに「よくぞ聞いてくれました」と本当に言ってから別の紙芝居を取り出した。

 そこには二人の男と1人の女性が、国民のような多くの人々に慕われているイラストだった。

 それを見て、何か見覚えがあるような気がした。その符号の正体が分かる前に受付嬢は始める。

 ディネクスの肇国ちょうこくのおとぎ話を。

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