第9話 将来迷惑をかけられるために
謎のカエルの被りものをした忍者。急にヘンテコワードをぶち込まれてきょとんとしてしまったが、要するに、事件前後にそういう共通点があるから、そこからアプローチして事件の解明に努めるということだった。そんなコスプレイヤーがいたらすぐに突き止められそうなものだが、しかしカレン曰くその重要参考人は忍者なため、まだコンタクトを取れないらしい。
「けれど今はサツキの特訓が優先ね」
「特訓、か」
修行パートに突入するのは異邦の地に降り立った以上必要だとは思う。しかし記憶を奪う何者かから庇護されつつ、特訓をしてもらうという至れり尽くせりな状況が、小骨が喉につっかえている気持ちにさせた。
それでいいのか。
保護される立場に甘んじてはいないか。
僕の不幸に巻き込まれてしまうんじゃないのか。今の状態で不幸がやってきた時、あの森火事の時みたいにカレンを守れるのか。
そして、こんな人当たりのいい人気そうなカレンを不幸に巻き込んだとして、このギルドにいる周囲の人間が僕に牙を剥くんじゃないのか。
悪いことを考えるとドンドンとエスカレートしていく。
「ちょっと、なーにまた暗い感じになってんのよ?」
俯いた僕の変化を見てカレンが眉を八の字にして笑った。
「いや、気にしないでくれ、とってもいい話だったんだが、どうにも貰いっぱなしで申し訳なくてね、何か帳尻を合わせないと気が済まない性格なんだよ」
「あー、それで道中も暗かったのね。気にしなくていいのに」
気にしなくていい。そうは言うが、こっちが気にしてしまうのだ。同情心や優しさで差し伸べてくれた手を、僕の不幸はどれだけ傷つけたと思っている。
あいつもそうだった。
こんな疫病神な僕でも友達でいてくれた彼は、僕がいなければ今も満足に生きていたはずなのに。
ポス。と、何かが頭に乗せられた感覚がした。顔を下げているから何が乗ったのか分からず、視線を上に上げる。
すると、カレンの腕が僕の頭の上に伸びていた。カレンは包み込んでくれるように朗らかな顔をしていた。急なことだったのでのけ反ってしまうが、椅子がガタリと上下するだけだった。
「ちょ、え、何だよ」
「馬鹿だなぁって思ってね」
「馬鹿にされてたのかよ」
「ええ馬鹿にしてるわよ、あんたは大馬鹿者よ。人に迷惑をかけるなんて人間生きてれば当たり前なんだから」
迷惑は当たり前。確かにそうかもしれない。
しかし僕の不幸は「迷惑」という簡単な言葉では収まらない。それにそれを認めると、僕は一生一人で生きることができなくなる気がした。迷惑をかけ続けるなんてできるわけがない、きっと必ず僕は周囲からしっぺ返しを食らう。
後ろ指を指されるのはいやだ。そんなことをされるくらいなら、僕が先回りしてその不幸を摘んでやる。それでいいじゃないか。
けれどそう不貞腐れていた僕の心中を見透かしているように、カレンはこう付け加えた。
「けれどいつか自分が迷惑をかけられる時がやって来る。そんな時に思う存分その迷惑を受けられるように、しっかり成長しなくっちゃ、ね?」
そのカレンの言葉が心を洗い流す。
迷惑をかけられるために、か。全く考えたことがなかった。迷惑をかけないためではない、今迷惑をかけようとも、将来迷惑をかけられてもいいように。
近い未来に、誰かを助けられるように。
「さ! そのためにもさっさと力つけるわよ! レッツラゴー!」
「……」
掛け声がちょっと古かった。締まらないなぁ。
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