嗤う案山子

岸亜里沙

嗤う案山子

これは、僕が田舎の爺ちゃんから聞いた怖い話。


「なあ浩平こうへいや、案山子かかしって知っとるか?」


田んぼ脇の畦道あぜみちを僕と爺ちゃんで歩いていた時、爺ちゃんが僕に聞いてきました。


「そんなのもちろん知ってるよ。育ててる米とかが、鳥に食われないようにするんだろ」


僕は笑いながら答えます。


「ああ、そうじゃ。だが昔は、今の案山子かかしとは全く違ったんじゃよ」


「そうなの?どんな感じだったの?」


僕は爺ちゃんの顔を見上げながら訊ねると、爺ちゃんは空を見上げて、少し間を置いて小さい声で言いました。


「昔はの、本物の人間が案山子かかしにされとったんじゃ」


「えっ、本物の人間?」


僕はビックリし、口をポカンと開けました。


浩平こうへい、口減らしって聞いたことあるか?」


「うん。歴史の授業で習った気がする。姥捨山うばすてやまみたいな風習のことでしょ?」


「そうじゃ。昔はワシらの村は貧しかったからのう。養いきれない子供や、働けなくなったワシみたいな老人が、口減らしの対象じゃった。普通は山とかに置き去りにするんじゃが、ワシらの村では口減らしの人間を縛り付け、案山子かかしにしとったんじゃ」


「そ、そうだったの?」


「ああ。だがそりゃあ見るのは辛かったなあ。炎天下の中、畑のまん中で縛り付けられて、うめいてるわけじゃからのう。しかも、息絶えた後も暫くそのまま案山子かかしにされとったんじゃ。その屍肉しにくを鴉などがついばむから、農作物を守れるしの」


爺ちゃんの話を聞いていた僕は、急に誰かの視線を感じ、ふと田んぼの方を見ると、そこには一体の案山子かかしが立てられてました。

その顔を見ると、とても不気味にわらっているようでした。


僕は怖くなり、爺ちゃんにしがみつきました。

でも僕がしがみついたそれは、爺ちゃんではありませんでした。

爺ちゃんそっくりの顔をした案山子かかしだったのです。


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嗤う案山子 岸亜里沙 @kishiarisa

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