短編集 視界

稲荷 和風

霧電車 景色

帰省から電車に揺られ、高校の寮に帰る。


電車内には私の他に乗客が二、三人。


電車の窓から見る景色はどこも霧がかかり、憂鬱としている。


各駅停車で降りていくやつが数名、あとの乗客は皆、暗く陰湿そうだ。


発展が中途半端な地元から、高校のあるど田舎には相当な距離があり、車でさえ1時間は下らない。


電車の耳障りな放送を聞き流し、何気なく景色を見ていると、どうにも幻想的な景色に出くわした。


川だろうか、まるで霧が川のように流れていたのだ。


そこを電車が過ぎ去る一瞬の間だったが、私の目にしっかりと焼き付いた。


森林の間に顔を出す真っ白な霧は白龍を連想させるほど美しかった。


右を見ても左を見ても、霧ばかり。


さっきとはうって変わりまるで三途の川でも渡っているような味気ない景色だ。


乗客は皆降りてしまったようで、今は車両に一人ぽつんと座っている。


次第に景色が霧で何も見えなくなった。


電車の窓に反射した自分の、ひどく醜いニキビ顔に憂鬱感とだるけを覚えた。


都会の人々からすれば、幻想的な美しい景色だろうが、


私から見れば霧に隠れた山の影がどうにもでかい口をした化物に見えてきて、


食われそうに思えてしまう。


私は小さい頃から妖怪や妖は好きなたちだが、


どうにもこの景色にはそこしれぬ恐怖と嫌悪感が湧き出て来るのだ。


心臓が何か恐ろしいものを見たかのように動き出し、不安感に頭が支配される。


雨が降って窓のくもりのせいで、おぼろげに、得体のしれないもののように感じるのかもしれない。


外は霧の白々しさと森林の緑黒くどこか禍々しいもので溢れかえっている


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

短編集 視界 稲荷 和風 @TYESIYAKTUNE1425

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る