第31話 黒いローブの悪魔は私たちを待っていました

 シリズ王国北端の町タリは完全に破壊されていました。

 燃えているのは悪魔の炎です。


「ひどい。住民は皆殺し……。」

「兵士による略奪とかの様子もないし、破壊だけを目的とした感じね。」

「でも、こんなのって……。」

「とりあえず国を滅ぼすだけなら効果的よ。とすると、悪魔は次の町に向かったって事ね。」

「一人なんでしょうか……。」

「それは何とも言えないわね。一度戻るわよ。」

「どうしたんですか?」

「あなたはDCで待機よ。」

「何故ですか!」

「悪魔が複数いる場合、私ひとりじゃ守り切れない可能性もあるし、他のメンバーを連れていくのよ。」

「わ、私だって!」

「理解しなさい!足手まといなの。」

「……はい。」


 一旦DCに戻ってメンバーを集めます。


「全員で行かないの?」

「ここが安全だという保証もないし、他に悪魔が現れる可能性もあるわ。とりあえず10人で向かう。何かあったらアキを中心に対応して。」

「了解よ。注意してね。」


 ゲートを使ってセゼロイアの首都に行き、レイと合流してシリズ王国を目指します。

 2台の飛空艇に別れて乗車し、南西を目指します。


「東の町ガリがやられているわね。」

「交戦中みたいね。ここが交戦中ってって事は、王都は既に……。」

「でも、魔素を撃ってきてるのは2人くらいよ。」

「じゃあ、ここはレイたちに任せて王都へ行ってみましょう。」


 念話でガリの町の対応を向こうのチームに頼んで、私たちは王都を目指します。


 王都も交戦中でした。

 交戦というか、完全に蹂躙です。


「相手は4人。分散して戦おうと思うけど、大丈夫?」

「うん。戦闘時の共有はできてるから問題ないよ。」

「じゃあ、行きましょう。」


 全員が飛空艇から飛び出して、飛空艇は凍結庫に送ります。


 私は、一番派手に魔法を使っている城に向かいました。

 そこにいたのは、黒いローブを被った、ひときわ大きな魔法士。


「いい加減にしなさいよ。」

「ん?龍種か。久しいな。」

「魔界へ帰る気はないの?」

「せっかく楽しんでいるんだ。なぜ、帰らねばならんのだ。」

「そう、残念ね。」

「残念ではないぞ。やっと楽しめる相手が登場してくれたのだ。全員出てきていいぞ。」


 悪魔はそういうと左手を横に開いてローブの前を広げました。

 背筋がゾワッと寒くなります。

 悪魔の開いたローブから、無数の悪魔が這い出てきます。


 10、50,100……どんどん増えていきます。

 私の放つ魔力弾の多くは黒いローブの悪魔が放つ魔素で無効化されますが、それでも搔い潜った魔力弾が悪魔を消滅させていきます。


 黒い悪魔のローブから現れた赤いローブの悪魔は数千にも達したでしょうか。

 そして、それが黒い炎を放ってきました。


「くっ……。」


 対処が追いつかなくなり、一旦空に逃れます。


「どうした。楽しませてもらわんと、人間が死んでいくぞ。」


 赤い悪魔の放つ黒い炎は、町中を呑み込んでいきます。


 念話で他のメンバーの状況を確認すると、町全体に赤いローブの悪魔が増えていき、対処が間に合わなくなっているようです。

 私は全員を集め、同調をしていきます。

 そして魔力で自分たちの身体を覆い、それを広げていきます。


 その魔力に触れた悪魔たちは消滅していきますが、結構な量の悪魔が黒いローブの悪魔の元に逃げ帰り、ローブの内側に吸い込まれていきます。

 やがて、黒いローブの悪魔自身もローブに呑み込まれていきます。


 町の中は死体が溢れていましたが、8名だけ子供が生き残っていました。

 ガリの町を対応したチームと合流し、子供たちをDCに連れていきます。



「それで、悪魔は数万人規模でいるみたいなんだけど、あのローブから出てきたのは、実体じゃなさそうな気がするのよね。」

「どういうこと?」

「うーん、人間と合体する前のあくましゃないかしら。魔力に触れただけで、簡単に消滅してたから。」

「じゃあ、そいつらが人間と合体したら、手ごわくなるっていう事かしら。」

「それ、大変じゃない!」

「でも、何で合体してないの?」

「私たちと同じように、相性みたいなものがあるんじゃないかしらね。」

「うん。私もそう思う。」


「それで、どうするの?」

「やっぱり、アーリア国に乗り込むしかないかなって思う。」

「じゃ、全員で乗り込む?」

「あえ。半分にしておきましょ。アキは人選をお願い。レイはアーリアの首都にゲートを作ってよ。」

「お店は営業しているから、ゲートは開いているわ。いつでもいけるわよ。」

「そう。じゃあ8時間後にGOよ。」

「「「了解!」」」


 真夜中ならば、人間への影響も少ないでしょう。

 私も体力と魔力を回復させられます……、まあ、まったく問題ないんですけど。


「リズ様。私も連れて行ってください。」

「ダメよ。相手は悪魔なの。」

「空間の制御も練習しました。魔力を細かく撃ちだすのもできます。悪魔相手でも大丈夫です。」

「どうしたの?わざわざ危険なところに出ていく事はないでしょ。」

「人間は、龍の皆さんに守られるだけの存在なんでしょうか!」

「えっ?」

「正しく成長すれば、これだけの魔法を操る事もできるんだって分かりました。」

「……そうね。」

「悪魔だって、自分たちで退けられるようになりたいんです。」

「気持ちは分かるけど、もう少し成長してからでいいんじゃないの?」

「……成長するためにも、行かなくちゃいけないって気がするんです。」

「……わかったわ。そこまでいうのなら、連れて行ってあげる。でも、条件があるわ。」

「はい。」

「レイと一緒にいること。そして危なくなったらすぐに逃げること。」

「はい。」


 私はスーザンのために、赤いローブを用意しました。

 黒い悪魔のローブを見て思いついたのです。

 ローブの内側にゲートを作っておけば、戦いの最中にそれを使って逃げ出せるハズです。


 そして私たちは真夜中のアーリアに展開します。

 メンバーは城の周りを囲むように配置し、城の中へは私とスーザン、それとレイの3人で乗り込みます。


 門を守る兵士など、人間はマヒさせて倒します。

 感知により相手の位置は把握できています。


 ひときわ大きな反応が、あの黒いローブの悪魔でしょう。

 広間のような広い場所に悪魔はいました。

 黒いローブの悪魔と、赤いローブの悪魔3体です。


「よくきたな。龍の女よ。」

「待っていたの?」

「ああ。色々と聞きたいことがあってな。」

「あなたは魔王なの?」

「我らは王という呼び方はしないが、エドというこの男は確かに王だから、まあ、魔王で間違いはないかもしれんな。」

「この世界に何しに来たの?」

「魔界は消滅した。」

「えっ?」

「龍なら分かるだろう。我らの生まれた次元は崩壊してしまったのだ。」

「そう。それで?」

「5万の同胞は、一時的に俺の作った空間に退避した。だが、そこは一時的な空間でしかねいのだ。」

「だったら、そういう空間を作ればいいじゃない。」

「残念だが、我らに無から有を作り出す力はないのだ。」

「だからと言って、この世界は人間のものよ。」

「そこだ。龍よ、……なぜお前は、この世界が人間のものと言い切れるのだ。」


「簡単な話しよ。この世界は、人間を進化させるために作られた世界だからよ。」

「やはりそうなのか。お前がこの広大な世界を作ったのか?」

「私が作ったというのは正確じゃないわね。私は、この世界を作った存在の一部よ。」



【あとがき】

 世界創成。

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