第30話 悪魔は最後の手段で自分の身体を媒体とした疑似ブラックホールを発生させた

 私はレイとスーザンを伴ってアーリア国東部と接するセゼロイア国の首都を訪れます。

 アーリア国から侵攻されているのは西部の町トテリアなので、首都はまだ、それほど混乱はしていないようです。

 というよりも、まだ情報が届いていないように見えます。


「西にあるトテリアの支店は、昨日の侵攻を受けて休みにしてあり、従業員は全員DCに非難させてあるわ。」

「トテリアのゲートは使えないの?」

「確認していないわ。お店は町の西側にあるから、破壊されているかもしれないわ。」

「じゃ、飛空艇で様子を見にいきましょう。」


 私たち3人は町の郊外から飛空艇に乗り込み、西を目指します。

 約1時間飛行し、トテリアの町が見えてきました。


「ひどい。」

「町の半分は破壊されているわね。」

「ああ。まだ略奪の最中みたいね。町の住人は……抵抗していないようね。」


 上空から見る限り、無事な人間は荷物の運び出しに使われているようです。

 敵方の兵士が私たちに気づいて矢を射てきますが、届かない位置まで上昇します。


「あっ、広場にいる赤いローブの男……。魔法兵みたいです。」

「何かおかしいわね。」

「えっ?」


 その男から火球が打ち出されてきました。

 シールドで防御できるはずの魔法ですが、シールドを突き抜けて飛空艇が炎に包まれます。

 咄嗟に水魔法で飛行艇を覆いますが火は消えません。


「何よ、この炎!」

「いいから脱出よ!」


 東へ方向転換しながら最高速度にし、操縦席にDCへのゲートを開きます。

 飛行艇の外装が溶けだし、内部にも炎が入ってきます。


「DCへのゲートよ。入って。」


 3人がゲートを通った後でゲートを閉じます。


「イヤッ!なにコレ!


 声をあげたレイを見ると、手に炎がまとわりついています。


「水でも消えないし、風でもダメよ!どうなっているの。」

「ちょっと待って。手の表面を凍らせてみるから。」


 凍らせても一向に火の勢いは衰えない。


「切る?」

「いい、ちょっと待って。空間を切り分けるから。」


 レイはそういって、手の皮一枚分の空間を分離させた。

 手の皮の形で空間が燃えています。


「これ、魔力とは違うわね。」

「じゃあ、……何?」

「今、思い出したんだけど、悪魔の使う魔法は、私たちの魔法とは違ったの。」

「何が違うの?」

「魔力とは質の違う力。当時は仮に魔素って呼んだんだけど、悪魔の魔法は込められた魔素が尽きるまで、物体を侵食していくみたいなの。」

「じゃあ、これは消せないの?」

「ちょっと待ってね。昔やった方法を試してみるから。」


 私は空中で燃える黒っぽい炎に直接魔力をぶつけた。


「消えたわ。どうやったの?」

「直接魔力をぶつけたのよ。」

「魔法じゃなくて魔力なのね。」

「そう。理屈としては、マイナスのエネルギーにプラスのエネルギーをぶつけて相殺するイメージかな。」

「そうか、確かにマイナスって考えると理解できるわね。」

「じゃあ、あの赤いローブの男が悪魔だって事ですか?」

「そうなるわね。」


「それで、どうする?」

「よその国の事だから、争い自体はセゼロイアに任せましょ。ただ、悪魔についてはこっちで対応してあげないと無理でしょうね。」

「その前に、他の国がどうなっているのか確認したいわね。」

「じゃあ、私がセゼロイアの政府に説明にいくわ。その間に見てきてよ。」

「うん。それでいきましょう。」


 私とスーザンはアーリア国北部のセリア王国王都へのゲートをくぐります。

 レイから聞いたところでは、王都の南にあるラシカの町が侵攻を受けていたとの事です。

 王都から南に飛空艇で向かいます。

 トテリアの上空で壊された飛行艇とは別の機体です。

 地上からの攻撃に備えて、飛空艇の操作はスーザンに任せています。


「こっちにも悪魔がいるんでしょうか?」

「可能性はあるわね。気を引き締めて行きましょう。」

「はい。」


 ラシカの町からは火の手があがり、煙が幾筋も昇っています。

 町の南側に侵略されているみたいで、剣士が切りあっているのが見えます。

 私は火のあがっている家の上に水球を造って落とします。


「水で消える普通の火ね。悪魔による魔法ではないみたいね。」

「どうします?」

「アーリア側の兵士をマヒさせて、セリア側が制圧できるようにフォローしてあげるわ。」


 場外の陣地を含めて、アーリア側の兵士をマヒさせて倒していきます。


「うん、これでセリア側も盛り返せるでしょう。じゃあ、ムナジに向かいましょう。」


 ムナジ帝国は、アーリア国の西隣の国になります。

 レイの話しでは、比較的軍備に力を入れている国であり、昨日の段階では城壁での攻防になっていたそうです。


 ムナジ帝国の東にある城壁都市ロリタは、壁内のいたるところで火の手が上がっていました。

 それでも、内部への侵入は許していないようで、弓や投石器での攻防が続いています。


 火の見える家屋に水球を落としましたが火の勢いは衰えません。


「どうやら、ここにも悪魔がいるようね。」

「どうします?」

「とりあえず巡回してちょうだい。」

「はい。」


 上空から見える火の手に、魔力を直接ぶつけて消火していきます。


「堀のところ、赤いローブの男です。」

「分かったわ。私はここから飛び降りるから、町の中に降りて兵士を支援してあげて。」

「はい。」


 飛空艇のドアを開けて外に飛び出します。

 赤いローブの男から炎が飛んでくるので、魔力をぶつけて打ち消します。


 私も火球・氷槍を放ちますが、防がれてしまいます。

 おそらく、向こうも魔素をぶつけて相殺しているのでしょう。


 私は10mほどの距離をとって地上に降ります。

 その間にも魔法の打ち合いは続いています。


「龍種か。」

「そうよ。おとなしく魔界へ帰りなさいよ。」

「クククッ。せっかく出てきたんだ。もう少し楽しませて欲しいもんだ。」


 フードを深くかぶっているので顔は見えません。


「そう。じゃあ、消滅してちょうだい。」


 魔力を超高速で打ち出した瞬間に、後ろから魔法が放たれたのを感じました。

 咄嗟に、ジャンプからの飛行魔法で逃れます。


 先に放った魔力の一本が正面の悪魔を貫きます。


「グハッ……。おのれ、これをくらえっ!」


 悪魔の内側からごく小さい黒い点が出現し、悪魔の身体を呑み込んでいきます。

 悪魔の最終手段。

 自分の身体を媒体として、超高圧をかけて作り出す疑似ブラックホールです。


 ブラックホールの吸収から逃げながらもう一人の悪魔に対峙します。


 飛んでくる炎を魔力で打ち抜きながら、同じ軌道で時間差の魔力を撃ちだします。

 こっちの悪魔はブラックホール化される前に消滅していきます。


 ブラックホールについては、その空間ごと切り取り、その中で蒸発させます。


「ふう、まったく面倒よね。」


 その後で、町を取り囲んでいるアーリア国の軍勢をマヒさせていきます。

 そして、スーザンと合流したのですが、ロリタの副領主というのに絡まれます。


「女人でありながら見事なものだ。領主が謁見を望んでいるのでついてまいれ。」

「イヤよ。」

「なにぃ!」

「他の国の様子もみなくちゃならないし、他にも同じような魔法士がいるの。あなたの暇つぶしに付き合う時間はないわ。」

「ええい、この二人を捕えよ!」

「ああ、もう面倒ね。スーザン、マヒさせていいわよ。」

「はい。」


 その場に崩れた兵士と副領主を放っておいて、私たちはアーリア国の南にあるシリズ王国を目指します。



【あとがき】

 悪魔との開戦。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る