第28話 山の中腹に埋まっている黒曜石を割れば切れ味の鋭いナイフになります

「課長さん、あなたに臨時政府の暫定議長をお任せします。」

「へっ?」

「全貴族の資産を半分没収して、貴族制度の廃止を周知してください。」

「わ、私がですか?」

「内務局長。」

「は、はい。」

「王族とドドンパの一族を全て捕えてください。資産は全て没収です。」

「はい……。」

「財務局長は内務局長を補佐して没収資産の現金化をお願いします。」

「はい。」

「防衛局長は、軍部の再編成をお願いします。」


 毎日、朝一番で進捗会議を行う事にして解散します。

 城の中は大騒ぎになっていました。


「リズ様、全課長を集めて周知した方がよくないですか?」

「そうね。任せるからお願い。」

「はい。」

「全体への説明は課長さんお願い。スーザンは進行役よ。」

「はい。」 「はあ……。」

「新しい国の出発だというのに元気がないですね。」

「何で私がこんな事を……。」

「あら、うちの商会と交易したいんでしょ。そのための準備じゃない。」

「えっ、取引してくれるんですか!」

「タマゴは栄養満点な食材よ。国民に安価で提供すれば、健康状態も改善できるわ。」

「でも、収入がないと……。」

「貴族から没収した財源があるでしょ。あれで、公共工事を増やすのよ。」

「はあ。」

「私が開墾したエリアも農地にすればいいわ。十分な広さがあるから、半分は牛と豚を飼ってもいいし。」


 城の中に暮らす王族は、王女が二人という事だったので、スーザンに案内してもらいます。

 第一王女の私室の前には、赤い鎧を纏った女性騎士がいました。


「ここは第一王女の私室だ。王女は今、誰とも会うつもりはない。」

「あら残念です。……けど、既に王制は廃止しました。それを庇うと、あなたも同罪とみなしますよ。」

「ふざけるな!私は王女から解任されていない!」

「残念ですね。眠ってください。」


 女性騎士はその場に崩れた。

 私とスーザンはゲートを設置して騎士の装備を外していく。


「あら、いい胸じゃないですか。向こうは女性が少ないですから人気者になれますわね。」

「騎士だといいながら、この嫌らしい下着は何でしょう。」

「赤い鎧って考えれば分かるでしょ。自己顕示欲が強いのよ。」


 騎士をゲートに放り込んで、王女の私室に入っていくと、3人のメイドに荷造りの指示をだしている高ビーなお姫様がいました。


「誰!イザベラはどうしたのよ。」

「表にいた女性騎士なら、国王と同じところに行ってもらいました。」

「何の用なの。私は今、手が離せないのよ!」

「メイドさんは退室してください。王女を庇ってもいいですけど、その時は同罪とみなしますよ。」


 3人のメイドは荷造りをやめて部屋を出ていきました。


「ま、待ちなさい!反逆罪で牢に……。」


 メイドさんは王女の言葉を聞かずにいなくなります。


「だ、誰なのよ……。」

「私はシャルロット・ジャルディ。今回のクーデターの首謀者なので、暫定的な国の支配者ですわ。」

「ジャルディ……。顔を見たことはないけれど、一族の方なのね。」


 同族と勘違いしたのか、表情の緊張感が少し緩みます。


「私はジャルディですが、あなたはニセモノなんですよ。あなたの本当の姓はイバノール。農婦の血筋よ。」

「う、嘘よ。私は王家の血筋なのよ。だ、誰か!この二人を摘まみだしなさい!」

「無駄ですよ。既に王制は廃止しました。王族の資産は国が没収しますので、着ているものを脱いで装飾品も外してください。」

「な、何を……言って……。」

「自分で脱がないのであれば、手伝ってあげますよ。」

「わ、わかったわよ……ファイヤーボール!」


 いきなり魔法を放ってきたが、シールドを展開してあります。

 王女の放った火球は、私の手のひらで簡単に霧散しました。


 仕方ないので眠ってもらいドレスを脱がせていきます。


「あら、下着にも宝石が縫い付けてあるわね。」

「宝石を外しますか?」

「別に脱がせればいいだけよ。向こうでどうなるかは興味ないわ。」


 第一王女はこうして裸でゲートに送りました。


 第二王女のレダは、観念したのか自分でドレスを脱ぎました。


「やっぱり、下着に宝石をあしらっているのね。でも、協力的だから寝巻に着替えていいわよ。」


 寝巻に宝石をつける人はいません。

 多少高級な布を使っていたとしても、資産と呼べるものではありません。

 こうして第二王女も島へ行っていただきました。


 課長の全体会議では、課長さんに泣きつかれて私がスピーチしました。


 今日、ジャルディア王国は解体し、200年前のジャルディア国に戻りました。

 王制と貴族制は廃止し、全国民は平等な立場となります。

 本来の議会政治に戻すのは少し時間が必要だと思いますが、王族とドドンパ一族から没収した財源を使って、国民主体の政治を行ってください。

 私は、国政に関与するつもりはありません。

 ここから先は、皆さんが国を支えてください。

 皆さんの働きが、この国の将来を決めるのです。


 こんな感じのスピーチを行いました。



 夜になり、私とスーザンはゲートを通って島の様子を見に行きます。

 まだ、全員で30人程度ですが、殆どは訓練された兵士です。

 当然ですが、私とスーザンはシールドと身体強化を展開しています。


「おはようございます。」


 極めて明るくご挨拶させていただきます。


 裸で送ったはずの第一王女ですが、大きめのシャツを着ており、ヨセフ皇子は上半身裸です。

 妹想いのお兄ちゃんなのでしょうか?


 その皇子が声をあげます。


「こんなところに連れてきて、どうするつもりだ。」

「どうするも何も、皆さんはこの島に追放になったんです。どうぞ、好きになさってください。」

「馬鹿な!こんな何もない島でどうしろというんだ!」

「あら、フルーツはふんだんにあるし、海産物も豊かですよ。」

「だが、道具が何もないではないか!」

「あの山には黒曜石が埋まっています。うまく割れば、切れ味の鋭いナイフになりますよ。」

「ナイフだけあっても、釣り針も網もないではないか!」

「木の枝を切ってモリにすればいいですよ。植物の繊維を取り出せば、網だって作れますし、布も作れますよ。」

「だが、火もないんだぞ!」

「そこで登場するのが王女たちですよ。二人は魔法が使えます。」

「なに!」

「でも、注意してくださいね。性行為をしたら魔力を失ってしまいますよ。」


 その瞬間、皇子と第一王女の顔が青ざめていきました。

 まさか……。

 そのシャツは、そういう事だったのかな?


 でも、第二王女も俯いてしまいました。

 ああ……。


「まあ、これから送られてくる一族の中には、魔法が使える子もいるでしょうから、大丈夫だと思いますよ。」

「こ、子供までこんなところに連れてくるつもりなのか!」

「ええ、血縁者全員を連れてきますよ。」

「貴様!何でこんな事を!」

「言ったじゃないですか。私は初代議長の娘。あなたたちのご先祖が略奪した国を取り戻しただけですよ。」

「先祖が何をしたか知らんが、俺たちは何の罪も犯してはいないだろ!」

「贅沢の限りを尽くした独裁政権に覚えがないと?」

「俺たち兵士は関係ない!」

「皆さん、王族とかの命に従って、私たちを拘束しようとしましたよね。」

「だが、それは命令で!」


 その時だった。


「うおりゃー!」


 木の枝を振りかざして飛びかかってきたのは宰相の息子イジンでした。


「やれイジン!」


 でも、気配察知で気づいていた私は、なんなく枝を受け止め、手刀を彼の右腕に叩きこみます。

 ボキッと、骨の折れたような音がしました。


「あら、貴重な働き手だったのに、当分役にたたなくなってしまいましたね。」



【あとがき】

 次回、無人島生活編……にはなりません。多分。

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