第20話 19才から変化のない私は、変わらないわねと言われると返しに困ってしまいます

「何、コレ!」

「こんな滑らかな柔らかさ、信じられないくらい優しい口当たり……。」

「美味しい!」

「気に入っていただけたみたいですね。明後日は、この応用で作るスイーツをご紹介させていただきますから。」


 そして2日後、今度はスイーツが出されました。


「ああ、甘い香りが……。」

「お約束したタマゴを使ったスイーツです。タマゴとミルクと砂糖で作り、プルンと名付けました。」

「甘いタマゴ焼き……とも違うわよね。」

「もっと砂糖は多く使っていますし、冷やしてありますので触感はまったく違います。」

「プルンね。じゃあ、いただきましょう。」


 パクっと口に入れた瞬間、口の中に幸せな甘さが広がります。

 私を含めた5人全員が、驚いた表情のまま口を抑えています。

 言葉が出たのは20秒ほど経ってからでした。


「アリー、サリー、あなたたち二人は天才よ。」

「同意するよ。味も触感も、この世のものとは思えない……。」

「ダメ……涙が出てきたわ。」

「パーティーで全員に味わってもらいましょう。」

「そんな事をしたら、全員がここに押し寄せてきますわ。」

「いいじゃない。全員変身してもらって、ここで働いてもらいましょうよ。」


 季節は秋になり、多くの果実が市場に出回ってきます。

 私は色々な国の町を巡り、果実を買い占めて時間凍結庫に保管していきます。

 これで、一年中果実を楽しむことができるようになります。

 そして、年末のパーティーを迎え、私は計画通り全員に感覚の共有を施して食べ物の味を知ってもらいます。


 前菜で用意したサラダでは、まあ味の予想はついていたみたいですが、豚の焼肉に30%の龍種が夢中になり、スチームエッグで更に30%が虜になりました。

 次に食べたフルーツタルトで残りの40%が落ちました。


「では、最後にプルンをご紹介いたします。」


 出席者全員が恍惚とした表情を浮かべ、次の瞬間私の元で働きたいという希望者に取り囲まれてしまいました。


 パーティーから2か月後、私は新たな働き手を一気に100人以上確保する事ができました。

 全国から集まった孤児は500人を超えています。

 畑や鶏舎で働く人も増えて、うちの敷地内には1000人以上の人が住んでいます。

 

 何かあった場合を想定して、竜人の里と同じような環境の山間部を切り開き、そこにもう一つの村を作っていきます。

 鉄筋を編んで基本部分を作り、火山灰・砂利・石灰などを混ぜたセメントを塗り固めて壁と床を作って建物にします。

 住居だけでなく、教育のための施設や工房も作っていきます。

 次に土を耕して畑にして作物を植えていきます。

 豚や牛の牧場と、鶏のための鶏舎を作って家畜を導入しました。

 

 ジャルディアの王都にある敷地とは複数のゲートで連絡し、人が簡単に行き来できるようにすると、少しずつ賑やかになっていきます。

 当然ですが、屋外型自動照明を十分に設置してあるので、夜間でも煌々とした環境なので他所の狩人が紛れ込んでくる事も増えてきました。

 そのため、ジャルディアの家と同じように、高さ3mのセメントの壁で囲っていきます。

 2箇所だけ通用門を作って、門番も配置しておきます。


「村の名前はどうする?」

「そうね……、龍の村だから、……ドラゴンビレッジだとDVか、……ドラゴンシティー、DC(ディー・シー)にしましょう。」

「向こうの敷地はどうする?あっちにも名前があった方がいいよ。」

「じゃあ、サーティービレッジ。」

「何で30なの?」

「私の最初の研究が、魔法についてだったの。」

「論文を発表していたんだっけ。」

「そうね。で、伝承の中で30才までDTだったら魔法使いになれるっていうのがあってね。」

「何それ、うけるんだけど。」

「だって、私の手がかりとしては、それとドラゴンから魔力を授かったっていう伝承しかなかったの。」

「そのドラゴンが自分だったっていう落ちね。」

「だから、ドラゴンとサーティーというのが私の出発点。」

「なるほどね。30VとDCか、いいんじゃない。」



 こうして5年が経過していきました。

 昨年には父も引退して、今はDCの町長をやってもらっています。

 母は昔他界しているので、他に身寄りはありません。

 タギリアの親族とも交流はないので、家族は実質二人だけなんです。

 自分が独立させたジャルディアにも未練はないそうなので、DCに住んでもらって余生を送ってもらおうと考えています。

 とは言っても、私が24才で父は45才なんですけどね。


 父の補佐には、ルナについてもらっています。

 透き通るような白い肌と、流れる水のような銀髪のルナは、物静かな女性……龍です。

 もう一人の私でもあるリーズとの付き合いも長く、全幅の信頼を寄せる親友的な存在なんです。


 若いころから領地運営を担ってきた父ですので、散歩くらいしか趣味がありません。

 そんな父が最近夢中になっているのは、ミツバチの飼育です。

 きっかけは、DCの家に放置してあった木箱に、ミツバチが巣を作った事なんです。

 家の庭を花だらけにして、そこから蜜を集めさせています。


「どうだこのハチミツは。」

「おいしい。クセのない甘さね。」

「ルナに頼んで、アカシアの木を家の周りに植えてもらったんだ。」

「へえ。花の種類で蜜の味が変わるの?」

「ああ。今のところ、クローバーとアカシアがお気に入りなんだ。」

「刺されないでよね。蜂に刺されてお葬式なんてイヤなんだから。」

「大丈夫だよ。ルナがシールドの魔道具を作ってくれたから、毎日必ず動作させているからな。」

「シールドの魔道具なんて作ったんだ。じゃあ、皆にも持たせようかな。」

「いや、全員が持つ必要はないんだ。作業場に置いといて、作業前にポチっとボタンを押せば一日有効になるからな。」

「そっか、便利だね。」

「とは言っても、軍事利用されかねないから、外部に流出させないように注意せんとな。」

「でも、国内ならいいんじゃない?」

「ルナの情報だと、国内でも元財務局長のドドンパが力をつけてきたようでな、今は副議長として武力増強の方向に向かおうと働きかけているらしい。」

「へえ、国政に興味はないからそんなの知らなかったわ。」


「武力増強には金がいる。」

「……そうね。」

「武力増強案が議会で可決されれば、当然増税につながるぞ。」

「えっ、そんなの聞いてないわ。」

「それに、財政を圧縮するために、余計な出費は抑えるだろう。ドドンパは孤児院への補助に反対しておったから……。」

「補助金打ち切りに増税って、ダブルパンチになっちゃうじゃない。」

「こんな国に、シールドの魔道具なんて渡せないだろ。」

「うん、理解したわ。」


 それでも、スールドの魔道具を作って、30VとDCの主要か所に設置しました。

 作業前には必ず使用するように全住民に徹底しておきます。


 24才になった私ですが、5年前から魔力を循環させていた影響か、外見は殆ど変わりません。

 死ぬまでこの外見というのは、人間からしたら羨ましいのでしょう。

 買い物に出かけたりすると、シャルは変わらないと羨ましがられます。


 5年前に竜人の里へ一緒に行ってくれたメンバーと会う事もあるのですが、やはり5年も経つと変わってきます。

 お腹が出てきたり、髪が薄くなったり、胸の位置が下がったりとかです。

 もちろん、口に出して指摘することはありませんが”シャルは変わらない”と言われると、やはりそれに準じた返しが必要であり、言葉を選ぶ必要があります。


 そんな中、30Vに役人がやってきて、魔法兵の招集がかかりました。



【あとがき】

 国に抗うのか……。

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