第19話 タマゴと砂糖を量産すれば、料理や菓子の幅がぐっと増えるんです

 我が家の住人が増えた。

 暴風龍のスザンヌと彼女が面倒をみていた7才から10才の孤児3人。


 私とアンとスザンヌの3人は、協力して土魔法を駆使しながら孤児院の建物を作っていきます。

 鉄筋を編み上げて外観と3階までの床を作り、ここに火山灰と石灰、砕石、水を混ぜたものを塗り固めて乾燥させると石のように固まってくれます。

 これは、スザンヌが火山付近の自然現象から発見したもので、まだ人間界には広めていない技術だそうです。


『ああん、もう不便で我慢できないわ。スザンヌに教わった方法で、身体を作り変えてくる。』

『じゃあ、その間、ミズチのルナにも手伝ってもらいましょう。』


 シルバードラゴンのアキは一か月で身体を作り変えてきました。

 色白で銀色の髪は腰まで伸びています。


「おまたせー。新しい身体はどうかな?」

「すごいわ。瞳まで銀色なのね。」

「へへっ、そこは拘りました。」

『ちょっと待って!何よそれ!』

「スザンヌに教わったのよ。身体の構造を組み替えて、外見だけ人間にしたのよ。これで、人間と同じように細かい作業ができるわ。」


 当然ですがルナも一か月かけて変身してきました。

 水色の髪と瞳。

 ツインテの可愛い17才です。


 この間に、同属の少女が一人増えました。

 グリーンドラゴンのノーラは緑色の髪と同色の瞳をしていて、元は地母龍と呼ばれていた大地と植物の精霊です。

 12才ほどの少女に変身した彼女は、魔法兵としてアッシュ帝国の兵士なんだそうです。


「遠征から戻ったら家がないんだもの、スザンヌったら許せないんだから。」

「あはは、あんたのこと忘れてたわ。ごめんごめん。」

「それで、こんなに龍種が集まって何を企てているの?」

「リーズが人間になっちゃったから、その手伝いだよ。」

「それで、私は何をすればいい?」


「やってもらう事は、いくらでもあるけど、今回は何の遠征だったの?」

「ダンジョンでモンスターの動きが活性化してるの。それで、魔王が復活するんじゃないかって噂になっていて、その確認よ。」

「魔王って、300年くらい前にリーズが追い払ったんじゃなかったっけ。」

「そうそう、悪魔の親玉でしょ。」

「追い払ったっていうか、火山に追い込んだら自分で火口に飛び込んで蒸発しちゃっただけよ。」

「ふーん。それで魔族って結局何だったの?」

「魔族というのは、私たちと同じ精霊に準ずるモノです。」

「「「えっ!」」」

「違うのは、私たち龍族は実体化可能な事に対して、魔族は実体を持たず生物に憑依してこの世界に対する影響力を持ちます。」

「憑依?」

「そう。人間や他の生物の身体を乗っ取り、悪意を具現化する……とでも表現しましょうか。」

「悪意って、破壊とか虐殺とか……、そういう事?」

「そこが、今一つ分からないのですが、憑依した魔族の意志なのか、その生物の欲望なのか分かりませんが、その行動は悪意に満ちたもの。」

「じゃあ、魔王というのは、その悪意を束ねる存在って事?」

「そうなりますね。」

「でも、私たち龍族に影響はないんでしょ。」

「直接的にはそうですが、この星の生命活動が無くなってしまったら、どうなりますか?」

「植物が滅べば、大気の循環も止まって水も失われる……。」

「乾燥した大地に乾いた風が吹くだけの世界に、精霊が存在する意味はなくなります。」


「私たちって、生命活動を前提とした存在ってこと?」

「おそらくは、そうなんだと思います。」

「じゃあ、魔族は抹殺するしかないじゃない。」

「私は、そう考えています。」

「その魔王が復活するかもしれない。」

「復活というよりは、魔王の資質をもった別の存在だと思います。」


「例えばさ、魔族が国王に憑依したらどうなるの?」

「自分たちの生存すら考えない、戦の繰り返しってこと?」

「森や草原を焼き払って、毒も好きなだけまき散らすでしょうね。」

「それって、止めないとダメじゃない。」

「対抗できる人間も育てていく必要があるわね。」

「はい。」


 兵士として育てる事を目指す訳じゃないけれど、力をもった人間の育成も重要なんだとみんなが理解してくれました。

 

 孤児の保護は、冒険者ギルドに頼みました。

 子供を一人保護する度に銀貨5枚を報酬として渡します。

 そして、王都内の街灯整備も進みます。


 12mの鉄柱を地面に埋め込んで、高さ8mの街灯ポールを設置していきます。

 柱の先端には自動点滅式の魔導照明が取付されており、そこから放たれる光は100m先も明るく照らします。


 人手も増えてきて、照明具の生産性もあがってきます。

 最初は裕福な商店や財産のある元貴族が導入し、需要の伸びにあわせて廉価版も市場へ出します。

 そして、アキによる冷蔵保管箱も開発し、国民の食糧事情も改善されていきました。


「ねえ、リーズ。」

「どうしたのノーラ。」

「西の地域にさ、夏場の日が長い時期には頻繁にタマゴを産む地鶏がいるんだけどさ。」

「地鶏?」

「そう。飛べなくなって、地面を走り回っている鳥よ。」

「ふうん。それで?」

「照明具で季節を勘違いさせれば、年中タマゴを産んでくれないかな?」

「試してみる価値はありそうね。今いる水鳥たちは、繁殖期にしかタマゴを産まないから、手に入れるのが難しいものね。」


 ノーラのいう地鶏の生息するエリアは、アッシュ帝国の領地だったのですが、冒険者を動員して商隊を装い地鶏の捕獲部隊を派遣します。

 捕まえてきた地鶏を照明具つきの小屋で飼っていくと、13時間くらい明るさを維持してやると頻繁にタマゴを産む事も確認できました。

 当面は数を確保するため抱卵させてふ化させています。

 産卵疲れなどは、ノーラにチェックしてもらっていますが、オスの数が増えると喧嘩を始めるので、適度に育ったオスは間引いて食卓に並びます。


 作物も種類を増やしていきます。

 砂糖のとれるサトウダイコンを育てるには気温が高すぎるため、世界を飛び回ってサトウキビを見つけました。

 こうなってくると土地が足りなくなり、周辺の土地を国から買取り、開墾して畑を増やしていきます。

 

 そして、タマゴと砂糖が使えるようになった私は、ルナとメイドのサリーに頼んでスイーツの開発をしてもらいます。

 生地にタマゴを加える事で、クッキーの味も格段に向上しており、新規開発したエッグタルトも大好評で、土地の中に販売店を作って提供できるようになりました。


「さて、今日の試食は何かな?」

「じゃーん。今日の料理はトマトのオムレツです。」

「リーズ、早く感覚の共有をしなさいよ。」

「はいはい。まったく、食い意地が張っているんだから!」

「しょうがないでしょ。人間の姿になっても、味覚を感じるのは半分くらいなんだから。」

「まあ、それでも食べる楽しさは感じてるけどね。」

「どれどれ、トマトのオムレツ、いただきまーす。」

「くっ、タマゴの半熟加減とトマトの甘酸っぱさがいいね。」

「これ、タマゴに何か混ぜてる?」

「はい。ミルクを混ぜているので、少し弱火でじっくりと焼きました。」

「タマゴとミルクか……、なあ、これに砂糖を加えて、トロっとしたスイーツもできるんじゃね。」

「確かに、エッグタルトとか、タマゴ料理もスイーツにできますよね。」


 2週間後、アリーとサリーの研究により、新作料理が発表されました。


「今日の料理は、タマゴをキノコの出汁とあわせて、蒸したものです。名付けてスチームエッグ。お試しください。」



【あとがき】

 スチームエッグ……茶碗蒸しですね。

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