第18話 この魔道具で国から闇を退けてみせる 父はそう言って立ち上がった
アキさんに念話で呼ばれて地下室に行くと、そこにはいつもと違う色彩に包まれていました。
地下室ですが、天井部分に明り取りの小さな窓があるのですが、それだけでは薄暗いため獣脂のランプを使っているのです。
獣脂に限らず、炎というのは黄色い光を放ちます。
ですから、白く塗った壁であっても、普段目にするのは浅黄色の壁なのです。
『何でこんなに明るい……、まさか、ライトボールの魔法が……。』
『細かい制御はまだだけど、魔石の魔力を使って光魔法のライトボールは発動したわよ。』
『凄いです!まるで昼間の外みたいな明るさです!』
『まあ、光りっぱなしだけど、この小さな魔石で、どれくらいの時間保つのか確認して、できれば暗いと自動で点灯するとか、何か操作して点けたり消したりできるようにしたいのよね。』
『これ、どうやったの?』
『魔法って、結局はイメージを具現化したものじゃない。』
『そうね。』
『イメージって何なのかな?』
『えっ、……頭で考えたものかな。』
『でも、魔石に考える能力はないわよね。』
『まあ、魔石に脳があったら驚くわね。』
『だから、魔法発動までの工程を細かく書き出してそれを順番通りに実行できないか確認していったの。』
『魔力って文字を認識できるの?』
『そこは私も考えたの。だからあなたが3000年前に考えた最初の象形文字を使ったわ。』
『えっ……、そんなの覚えていないわよ。』
『あははっ、リーズらしいわね。まあ、そのままじゃなくて結構手直ししたけど、要はその記号自体が意味を持つようなものだと魔法の発動につながるみたいよ。』
『それからね、普通の金属って魔力は流れないのよ。』
『何で?』
『私に聞かれても分からないわよ。それでね、魔石を粉にして銅と混ぜて合金を作ったわ。』
『色々と大変だったみたいね。』
『ホントよ。報酬は期待しているからね。』
『うん。その状況だと、ここを切ると魔力の流れを止められるのね。』
『そうよ。』
『じゃあ、ここにくっつけたり離したりする機能をつけてやれば、点いたり消したりできそうね。』
『あっ、そうか。物理的に回路を切り離せばいいのね。』
『それと、小型にして持ち歩けるものも作りたいわね。』
『何で?』
『夜、出歩くときに便利じゃない。馬車の先頭につければ、夜でも馬を走らせられるわ。』
『へえ、確かに洞窟とかにも持っていけそうね。』
『ねえ、これって銅板に文字を書き込むところだけアキがやって、他は職人に作らせれば量産できるんじゃないかな。』
『そうね。そうしてもらえば私も助かるわ。』
『それとね。文字を書き込んだら銅板を重ねて文字が見えないようにするの。そうすれば真似されないわよ。』
壁掛け式のほうは、カバーをつけて見栄えをよくしスイッチャーを付けて仕上げます。
携帯型の方は、長さ20cmの筒の中に装置を入れて、先端が光るようにしました。
当然、こちらにもスイッチャーを付けてあります。
カバーやベース、筒などは全て職人ギルドを通じて外注し、仕上げは家の中に工房を作って作業します。
簡単な作業は、ソラリスの孤児院から派遣してもらった子供たちに手伝ってもらい、人も雇って照明具を量産していきます。
私は出来上がったサンプルを持って実家に出かけました。
「お父さま、ご無沙汰をしています。」
「おお、シャルよ、帰ってきたのか。」
「正式に事業を始めますので、今日はサンプルを見ていただきにまいりました。」
「事業だと?」
「はい。モンスターから採取した魔石を使って、魔法を発動する道具”魔道具”を作って販売していきます。」
「魔道具?聞いたことにないモノだな。」
「うちのスタッフが考えた言葉ですから。こちらが、壁掛け式の照明具で、こっちは携帯式になります。」
「照明具とは何だ。」
「光系統の魔法に、ライトボールという光を発する魔法があります。この照明具は魔石から魔力を取り出してライトボールを発動する事に成功しました。」
私はメイドのシェリーに指示をして窓のカーテンを閉めさせて薄暗くします。
「このスイッチャーを点灯の方に切り替えるだけで魔法が発動します。」
「な、何だ!太陽のように眩しい……。」
「ランプと違って、獣脂の追加も必要なく、明るさも段違いです。」
「た、確かにこれが壁についていれば、部屋の隅々まで昼間のように見える……。」
「火災の心配もなく、最初に作った照明具は欠片みたいな魔石で10日点けっぱなしでもまだ光を発しています。」
「信じられん……。」
「こっちは携帯式で、夜間の外出に使います。馬車の先頭にぶら下げてやれば、夜でも馬車の走行が可能になります。」
「屋外に設置してやれば、犯罪が減るかもしれんな。」
「壁掛け式を3つと携帯式を1つサンプルとして置いていきますので、好きなようにお使いください。」
「これは、量産できるのか?」
「特殊な素材を使っていますから、真似るのは難しいと思います。」
「なら、お前のところで月にどれくらいの数、作れるんだ。」
「1か月で500が限界ですね。」
「価格は?」
「1台につき、金貨5枚。」
「くっ、高いが確かにそれだけの価値はあるな……。」
「これで得た収益で、私は孤児院を立ち上げたいと思います。」
「孤児院とは?」
「この国には、親のない浮浪児が多いと思いませんか?」
「ああ。親を亡くした子供や、捨てられた子供。そういう子供の保護にも取り組みたいのだが、そういう予算を進言しても、賛同してくれる者が少ないのだ。」
「そう。国ができないのなら、私費でやればいい。衛生的な環境と教育を与えて自立できるまで育てる場所が孤児院よ。」
「本気なのか?」
「私の仕事を手伝ってもらいますから、慈善事業というわけじゃありませんわ。」
「……わかった。最初の100台は国で買い取ろう。屋外に設置して町を照らすようにしてくれ。ジャルディアから闇を無くしてやる。」
「それなら、今開発中の暗くなると自動で点灯するタイプにしましょうよ。」
「な、何だと!」
「そうすれば、最初に設置するだけで、何の手間もいりませんわ。」
帰った私はアンと一緒に屋外型の自動点灯照明具を開発します。
『これって、上に磨いた金属の皿をかぶせれば、そこに光が反射してもっと明るくできるんじゃないかしら。
『アン、ナイスアイデアよ。』
『明るさの判定式は完成したわ。ああもう、この姿ってこういう作業には不向きよね。』
『そういえば、誰か姿を変える術を研究していなかった?』
『ああ、暴風龍のスザンヌね。あのこどうしてるかな……ああ、探知で見つけたわ、隣の国にいるじゃない。』
『ホントだわ。よし、あの娘にもこの仕事を手伝わせましょう。』
スザンヌは隣のアッシュ帝国で兵士をしていました。
赤髪ショートの女性兵士として。
「久しぶりねスザンヌ。」
「へえ、人間と融合したんだ。面白いわね。」
「あなたは龍のままなのね。どうやって姿を変えたの?」
「時間はかかるんだけど、身体の組成を変えていくのよ。表面だけね。」
「味覚とかは?」
「多分だけど、少しずつ感じられるようになってきてると思うわ。」
「ところで、手を貸してほしいんだけど。」
「なにをするの?」
「魔石から魔力を取り出して道具で魔法を発動出来るようになったの。」
「えっ!そんな事が可能なの!」
「アンと一緒にやっているの。人間と一緒にね。」
「どうしようかな……。」
「何かあるの?」
「人間の子供と暮らしているのよ。親のいない子供たちよ。」
【あとがき】
龍族との共生が始まります。
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