第13話 竜人は失敗作だったのかもしれない
私たちは長の家に宿泊させてもらったのですが、あれ以来長とは顔を合わせていません。
急用とかで家にも帰ってきていないようです。
同行してくれたメンバーたちは、鍛冶屋とか薬屋・武闘家の道場に入り浸っているようです。
私は里の中をブラブラと散歩しています。
この先どうするのか……というよりも、魔法への思いが断ち切れなくて、未練タラタラなんです。
身勝手なのは十分に承知していますし、長に拒否された以上どうにもならないことは理解しています。
かといって、自分の全てを投げうってでも魔力が欲しいのかといわれれば、そこまでの覚悟もない。
まるで駄々をこねる子供なんです。
そこまで分かっているのに諦めきれない自分に苛立ちすら感じています。
どこをどう歩いたのか、自分でも覚えていないのですが、気がついたら目の前に洞窟がありました。
記憶の中にこんな洞窟はありません。
「ここは?」
何かに招かれているような感覚があります。
洞窟の中は薄明りが灯っているようで、不気味さのようなものはありません。
それでも、警戒しながら洞窟の中に入っていきます。
「誰だ!」
「あ、あの……。」
「なぜ、お前がここに?」
洞窟の中にいたのは竜人の長でした。
「ぼんやり歩いていたら、ここに着いたんですけど……ここは?」
「結界が張ってあったはずだが……。まさか、主に招かれたのか……。」
洞窟の奥は一段高くなっており、そこに白い龍が横たわっていました。
地竜とは違い、細く長い体はトカゲというよりも蛇を思わせますが、体は渦を描くように丸まっており、10m程の体のわりには短い手が見えます。
足ではないでしょう。あれで地面を歩くようには見えないので、手だと思います。
竜人の長が異変を察知したのか竜を振り返ります。
その瞬間、胸の中が爆発したように痛み、胸を抑えて膝をついてしまいました。
「あっ……。」
「主さま……、逝ってしまわれたのか……。」
逝った?
白い龍を見ると、一瞬眩いばかりの光を放ち、体から光の粉が舞い始めました。
見る間に光の粉が量を増していき、それと共に龍の輪郭が失なわれていきます。
その光の粉が洞窟中に満ちていき、光の爆発のような眩しさを感じます。
やがて、光の粉は私の体を覆い、そしてお腹のあたりに吸い込まれていきます。
胸の痛みに続いて、お腹を焼かれるような熱を感じて、お腹を抑えて地面に転がります。
歪む視界の中で、長が手を合わせて何か祈っています。
どれほどの時間が経過したのか分かりませんが、痛みと熱が治まってきました。
涙で視界が歪んでいたので、起き上がって手で拭います。
「大丈夫か?」
長が手を伸ばして立たせてくれました。
「何が……あったんですか?」
「ワシにも分からん。」
「消えた竜は……、あの白い……。」
「一番古い……古龍じゃが、……この里の主じゃった。」
「どこにいったんですか?」
「多分、逝かれたのじゃと思うが、お前の体にまとわりついたようにも見えたのじゃが。」
「逝くって……、消滅……したんですか?」
「それは分からん。わしにも初めての事じゃ。なにしろ、5000年存在した古龍の事など、500年程度しか生きておらんワシに分かるはずもないし、古龍が逝くなど経験した者はおらんのじゃ。」
「それで、その白い古龍がいなくなる事で、問題はおきないんですか?」
「主の携わっていたのは世界の根幹たる魔力の創出なのじゃが、後継竜は何柱も存在しておるから、問題はないはずじゃ。」
「そうですか……。」
私は竜が横たわっていた地面に手を這わせる。
ヒンヤリした土の感触と、なんとなく感じる竜の残り香。
「この洞窟は、世界を飛び回る竜種が、主に面会に来る場所でもあった。主が消えた以上、この先どうなるかも分からん。」
「長は古龍と話ができたんですか?」
「いや、直接会話をするのではなくイメージを感じるのだよ。」
「人間に魔力を与えたのは、ここにいた古龍だったんですね。」
「ああ。」
なんとなくですが、そんな気がします。
気落ちした長と一緒に家に戻り、食事をしてベッドに潜り込みました。
何だか異様に疲れていた私は、すぐに眠ることができました。
夢の中で、その龍は白い空間に浮かんでいました。
『聞こえる?』
『はい。』
夢なのだから、別に龍と話せても不思議はありません。
その声は女性のものに聞こえます。
優しく、穏やかなお母さんのような声でした。
『滅びの刻が迫っていたの。勝手に潜り込んじゃって御免なさいね。』
『潜り込む?』
『そうよ。分かるでしょ。私とあなたは一つの存在になったの。』
『私の体を乗っ取ったんですね……。』
『人聞きの悪い言い方をしないで頂戴。』
『だって……。』
『あなたの体の中に、二つの意識が存在しているだけよ。』
『私はわたし?』
『いまのところはね。いつか、区別できなくなるくらいになると思うけど。』
『いつかって……。』
『何百年か後ってことよ。当分はシャルロット・ジャルディと私リーズは別の人格を持っているわ。』
『リーズ?』
『名前に意味はないわ。他の竜種が私をそう呼んでいただけの事。』
夢にしては現実感がありました。
私とリーズはお互いの事を話し合います。
『じゃあ、私は魔法使いになったんですね。』
『あははっ、そんなに軽くないわよ。龍種と同格なのよ。』
『龍種と竜種って違うんですか?』
『竜は爬虫類が進化したもので完全な生物ね。龍は生物ではなく存在よ。』
『私はどうなっちゃうんですか?』
『この体は人間よ。生殖行為だってできるし、子供を産む事だってできるわ。』
『子供は普通なの?』
『普通の人間よ。多分、魔力回路が確立されるから、魔法バンバンで寿命も長いけどね。ただ、私も生物として子供を産んだことはないから、予想でしかないけどね。』
リーズの意識はこの状況を楽しんでいるようです。
そう、私は人間でありながら龍としても存在する、前例のない身体になってしまったのでした。
『リーズが人間に魔力を与えたのはどうしてなの?』
『竜人に魔力を与えて進化を促したのも私よ。そうしないと、単に好戦的で狂暴な種になりそうだったから。でも、竜人は私と会話できるだけの存在にはならなかった。』
『イメージが伝わる程度の?』
『そういうこと。だから人間にも魔力を与えてみたんだけど……。』
『定着しなかったんですね。』
『そう。魔力なしでも生活できる科学を手に入れていたからよ。だから、あなたがこの里に現れた時には嬉しかったのよ。』
『私の身体は、リーズと相性がピッタリだったからね。』
『そうよ!まるで、私を受け入れるために作られた肉体みたいだったからね。』
『それで、洞窟に呼ばれたと。』
本当は、こういった事を事前に説明して、私の同意を得る余裕もあったのだと理解できました。
そうしなかったのは、単に面倒くさかったから……、というのが理解できたんです。
この状態だからこそ、言葉だけでは伝わらないことも共有できているし、理解が早い。
言葉だけでやり取りして、私の同意を得ようとしたら何日もかかっただろうと容易に想像できました。
そのまま朝を迎えて、これが夢ではなかったのだと実感できました。
『実食!』
『そうか、リーズは食べるのって初めてなんだね。』
『そうよ。存在するためのエネルギーなんて、太陽や地面からいくらでも受けられるしね。』
『便利っていえば便利なんだろうけど、飽きなかった?』
『飽きる暇なんてないわよ。意識は絶えず世界中に向けてなくちゃいけないし、この星だけじゃないからね。』
リーズの想いから、”この星”という概念が初めて理解できました。
【あとがき】
龍との一体化という離れ業が炸裂。
ちゃんと後の世のリズに繋げなくては……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます