第11話 どうやら魔力は竜種に標準装備されているらしい
「このスープ、とっても美味しいです。」
「うん。香草が利いてるよね。食欲をそそる香りだ。」
「ロウリの探してきた芋も、ホクホクして旨いな。」
「野営なんて思えないほどの食事ですよね。」
「だけどよ、お嬢ホントに竜人の里なんてあるのかい。こっちで生まれた俺だけど、聞いたことないぜ。」
「アッシュで使役されている地竜の事も広まっていないですよね。あの村は、あまり外との情報交換をしてないみたいなんですよ。」
「俺のいた村だと、ドラゴニートっていって竜人はそれほど珍しい存在でもないぜ。」
「ナージさんの生まれってどこなんですか?」
「ゴーリのいたアイリよりも西。ここからそんなには遠くないかな。」
「ナージはカワイルだったよな。村に竜人がいたのか?」
「いや、年に1回竜人が山から降りてきて塩とか布とかを、毛皮や干し肉と交換していくんだ。」
「そうか、山間じゃ塩や布は貴重だからな。」
「へえ、竜人とか知らなかったけど、ホントにいるんだな。」
「私もよく山に入りますけど、山の中で会ったことありますよ。」
「いきなり山の中であったら驚くんじゃないか?」
「もう、心臓が止まるかと思いましたよ。手の爪は鋭いし、尻尾は生えてるし、牙はあるしで、食べられるって覚悟しましたからね。」
「言葉は通じたんですか?」
「うん。少し発音がおかしいけど、ちゃんと通じたわよ。ケガをしてたから傷薬を塗ってあげて、回復役を譲ってあげたわ。」
「セインさんって、単独で山に入ったりするんですか?」
「深くまで入るのは滅多にないんだけどね。それでも、年に1回くらいは薬の材料を探しに入るわよ。」
セインさんが凄いのは、獣の嫌がる匂いを知っていて、それを体中に纏っていることです。
だから風上にだけ注意していて、万一遭遇してしまった場合は、刺激性の強い粉をぶつけて追い払うそうです。
その粉を見せてもらいましたが、30cm離れていても目が痛くなって涙が溢れてきたほどです。
夜は交代で見張りをしてくれますが、山の夜は思いのほか寒いです。川沿いなので余計に冷え込むのですが。
それでも、毛布にくるまれて朝までぐっすり眠ることができます。
「川は西に伸びていますので、ここからあの二つの山の間を抜けていきましょう。」
「ゴーリ、君に逆らうんじゃないんだが、ここから見る限りあそこら辺に生えているのは火炎樹だ。火炎樹はサラマンダーの巣になっている事が多い。」
「そうね。私もあそこは避けた方がいいと思う。」
「サラマンダーって魔物ですか?」
「ああ、体長は15センチ程なんだが、攻撃的で縄張り意識が強い。」
「そして、奴の体から分泌される粘液は強烈な火ぶくれを引き起こすんだ。」
「オッケー、じゃあ遠回りになるが東に迂回して行こう。」
東は岩肌があらわになっていて、少し急に見えます。
でも、私たちはゴーリさんの判断で東周りを選択しました。
東周りのルートは、思った通り勾配が厳しく、私の足が悲鳴をあげています。
平地を歩く筋肉と坂を上り下りする筋肉とはまったく違う事が実感できます。
「お嬢、大丈夫か?」
「すみません、ふくらはぎがプルプルしています。」
「よーし、休憩にするぞ!」
「た、体力無くてごめんなさい。」
「気にすんなって。俺は、獲物がいないか見てくるわ。」
道なのかどうかも分からないような岩山で、何度も上り下りを繰り返しています。
膝はガクガク言ってるし、モモはピクピクしていて、限界が近いかもしれません。
「はいこれ。体力を回復する薬よ。」
「ありがとうございます。」
薬だけでなく、セインさんは何か所か薬を塗りこんで上から布をあて、縛って楽にしてくれました。
「こうやって可動域を制限することで捻挫の予防にもなるし、疲れを和らげることができるのよ。」
セインさんにマッサージもしてもらい、何とか目標にしていた地点まで到達することができました。
夕食は、ナージさんが狩ってきてくれた岩山羊を焼いて食べます。
水を節約するため、夕食はこれだけでした。
翌日は少しペースを落としてくれました。
岩肌の部分を抜けるまでは、少しゆっくりしたペースで進みます。
ところが、上空からギャーという鳴き声が聞こえます。
「あ、あれって……。」
「多分、あれが飛竜(ワイバーン)だろう。」
ゴーリさんの指さす上空を見上げると、明らかに鳥ではない巨大な生き物が上空を舞っていました。
「障害物のない場所で襲われるのはまずいな。木のある場所まで急ごう。」
「「「はい。」」」
「お嬢は俺が背負っていく。」
「えっ、大丈夫ですよ……。」
正直にいうと、自信はありませんでした。
それでも、頑張ろうと……。
メンバー全員に言われて、ゴーリさんのお世話になってしまいました。
本当に御免なさい。
そしてまた、森を進んでいきます。
徒歩での行軍6日目。ついに私たちは竜人の里に到着しました。
「ジャルディア王国からまいりました。シャルロット・ジャルディと申します。ここは竜人の里で間違いありませんか?」
「ああ。確かに竜人の里だが、こんなところに人間が何をしに来た。お前たちも地竜が欲しいのか?」
「確かにドラゴンにも興味はありますが、私たちの目的は魔力の謎を解き明かすためです。この里で、一番魔法に詳しい人に会わせていただけませんか?」
「それならば、長が一番だろう。案内するからついてこい。」
私たちが到着したのは里の外れであったのだが、10軒程の家屋が点在しています。
男の後についていくと、その向こう側は急な下り坂になっており、下の平地に多くの建物が連なっていました。
畑には麦とジャガイモだとか、色々な作物が植えられており結構な広さがあります。
「ここには何人くらい住んでいるんですか?」
「そういう質問には答えられない。侵略を恐れての事だ、悪く思うな。」
「そういう考えには至りませんでした。こちらの思慮が足りず申し訳ございません。」
家屋は数百件におよび、地竜も何匹か見える。
「地竜の他にはどんなドラゴンがいるんですか?」
「使役しているのはワイバーンくらいだな。」
「使役以外のドラゴンがいるのですか?」
「ミズチや古龍の一部はここにいるが、年に数回ここを訪れる竜種まで入れたら数えきれないよ。」
「なんで竜達はここにやってくるのですか?」
「それを教えるわけにはいかないよ。」
「その竜の中に、魔法を使う竜はいるのですか?」
「おかしな事を聞いてくるな。竜種が魔法を使うのは当然のことだろう。」
「えっ。でも、地竜や飛竜は……。」
「勘違いするな。地竜と飛竜はトカゲの延長線上にいて、確かに竜種と勘違いする名前がつけられているが、精霊たる竜種とはまったく違う次元の生き物だ。」
「精霊ですか?」
「そうだ。」
「精霊とは何ですか?」
「なんだ、精霊を知らないのか。」
「すみません……。」
「精霊というのは、この世界の根幹を支える力だ。太陽も風も雨も、この世の全ては精霊がもたらしてくれる。」
「それって、この世界を作った神という事ですか?」
「神とは何だ?」
「この世界を作った存在だと聞いています。」
「世界を作った創造主は、あとを精霊に託して去った。」
「それって……、もし精霊がいなくなったら、世界は止まってしまうのですか?」
「太陽が登らなくなり、月の満ち欠けがなくなって風も止まった世界は腐っていくだけだ。」
いきなり告げられた世界の仕組みに頭が追いつきません。
竜種がいなくなったら、世界は滅ぶのでしょうか……。
【あとがき】
竜種と疑似竜。
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