第7話 報奨金を貰いに来たと告げたら殴られそうになった
「さて、息子のつかんできた情報によれば、王都側は今回の増税に対する反抗を想定しており、軍隊による制圧まで準備を進めているそうです。」
「それは信用できる情報なのかね?」
「5日前の閣議を盗み聞きしました。国王も同席していましたので、正式な決定事項と判断できます。」
「だが、……今回の追悼金というのは、本当に陛下が望んだ事なのか?」
「国王はそんな事望んではいませんよ。」
「では、何故?」
「確証は掴めていませんが、主犯格は2人。」
「2人?」
「一人は、ジャルディア王国軍総隊長である第一皇子。」
「まさか!」
「もう一人は税収担当である、財務大臣。」
「……狙いは着服か。」
「今回、死傷者が多く出たので、弔慰金と兵士の補充予算が必要なのは確かです。」
「そうなるな。」
「ですが、その程度は国庫の備蓄で対応可能な範囲。」
「では何で?」
「次期国王としての力を盤石のものとするためですね。」
「そうか、第2皇子が亡くなった事で、第3皇子の勢力が勢いづいた……。」
「はい。第2皇子派の貴族全てが第3皇子に鞍替えしたら、形勢は逆転します。」
「確かに、財務大臣は第1皇子派の筆頭だったな。」
「今回の増税分、半分は着服されるだろうと噂になっていますね。」
「状況はご理解いただけたようですな。」
「ああ。」「うむ。」
「そのうえで、われらがどのように対応するのが良いのか。というのが、本日のテーマになります。」
「……できれば、辺境伯殿のお考えを先にお伺いしたいのだが。」
「そうですな。この3領の中で一番格上なのだから。」
「ふむ。我が領の方向性は決まっておる。ジャルディア王国からの独立だ。」
「まさか……。」「正気か?」
「領民からの税を12%にして、2%で兵力を増強する。10%は領政に回せる。」
「だが、王都軍に対抗するだけの兵力は……。」
「王都から我が領地まで、軍として移動するなら3か月は必要だ。」
「ああ。シーバ領でも2か月半というところか。」
「今出発しても到着は真冬だ。」
「確かに。」
「冬の移動は装備が多くなるし、食料も調達できないから持ち出す必要がある。そうなると、出発は早くて3月。」
「到着は7月か……。」
「それだけの時間があれば、徴兵されている兵士を呼び戻して組織できるし、領民からの兵役経験者を再訓練できる。」
「だが、王都軍を相手にするには、到底足りぬと思うのだが……。」
「まあ、これは将来的な体制を整えるための方策で、正直に言えば息子と嫁がいれば王都軍など恐れるに足りぬのだよ。」
「どういう事ですかな?」
「例えば、今日ここまで乗ってきた飛行馬車。」
「あっ!」
「弓や魔法の届かぬ上空から、好きなように攻撃できる。例えば、油を撒いて火を放つとかだな。」
「上空から弓を放ったり、石を落としたり……。」
「武器である必要すらないんだ。それに、息子の魔法は規格外らしい。」
「そりゃあ、空を飛べるって時点で規格外だろうよ。」
「単独で、アッシュの中隊をいくつも降伏させるほどには規格外らしい。」
「それに、うちの領の東にある谷に、第3皇子を踏みつぶした地竜がいるんですよ。」
「何で地竜が……。」
「王都の近くから、空を飛ばせて連れてきました。」
「……そういえば、領民が巨大な竜を見たと……。」
「人間の戦いに連れ出すつもりはありませんが、抑止効果はあると思います。」
「本気で……独立するのですな。」
「まあ、両隣の領地が、一緒に独立して連合国家を作るというのであれば歓迎しますが、どうなさいますかな。」
こうして、北方連合UNNAが誕生した。
俺達は王都で22人乗りの飛行艇を受け取り、スリネの森中隊を訪れた。
「中隊長、リョカ子爵より手紙を預かってきました。」
「オヤジから?」
中隊長は手紙を読んだ。
「マジで独立するのかよ……。」
「ええ。昨日、王都に宣言書を届けてきました。」
「それで、防衛隊を任せたいって言われてもな……。」
「俺も領地運営があるんですけど、副官として協力しますよ。」
「まあ、少し考えさせてくれ。」
「それから、3か所の出身者で希望があれば、防衛隊に受け入れますから、その募集も始めますよ。」
「それって、単純に考えれば全体の30%だよな……。」
「前に話したように、アッシュには兵を引くよう圧力をかけておきますから。」
モーリア・グリチフもライメイ領の出身だった。
UNNAの説明をして、希望者は兵士として受け入れる事を宣伝してもらう。
「また、10日後に来るから、20人は連れて行こうと思っているんだ。」
「なあ、俺も受け入れてもらえるんだよな。」
「まあ、働き次第だな。せいぜい宣伝してくれよな。」
「頑張るよ。」
俺とリズは、戦線沿いに移動してアッシュの陣地を潰していく。
武器と金品を回収して国に帰るよう説得していく。
そして、俺たちは王都に乗り込んだ。
「マルス総隊長に面会をお願いしたい。」
「総隊長はお忙しい方です。ご用件はこちらでお伺いしますけど。」
「スリネ中隊の小隊長でモッティー・マッツと言います。地竜3匹を処分したので報奨をいただきにきました。」
「はぁ?どういう事でしょう?」
「地竜討伐のために、各部隊に動員がかけられたでしょ。それを一人で対応したのだから、報奨は当然だと思いませんか?」
「あの……ですね。報奨というのは、こちらが決めるものであって、個人が請求するようなものではありませんよ。」
「だから、直接交渉に来たんですよ。話のできる人に代わってもらえませんか。」
少しして、第一大隊の副隊長とかいうのが出てきた。
「ふざけた事をぬかしているのはお前か?」
「別にふざけてはいないですよ。たかが地竜に、あれだけの損害を出した第1大隊をフォローしてあげたんだ。俺には涙を流して感謝するべきでしょ。」
「なにぃ!」
「2匹の地竜を倒すために、1000人以上の死傷者を出したんだ。単純に考えれば残りの3匹を倒すのに1500人の被害が出たでしょう。」
「うぐぐっ……。言いたい放題ぬかしおって、何様のつもりだ!」
「1500人分の弔慰金と治療費。少なく見積もって、死者500人に対して弔慰金金貨50枚。それと負傷者が1000名で治療費と見舞金で、まあ金貨5000枚ですかな。合計で金貨3万枚。如何でしょうか?」
「ふん、地竜は第1大隊の精鋭部隊が対応する予定だったのだ。損害など出ようがない。」
「じゃあ、地竜を戻しましょうか。まあ、休養十分で元気いっぱいですけど、精鋭なら問題ないでしょ。」
「できるものならやってみろ!」
「それに、第1大隊の精鋭……、えっと、有名どころだと大剣のゴメス、疾風のニール、剛拳のダン……。みんな50才超えてますよね。使い物になるんですか?」
「おれが剛拳ダンだ。試してみるか小僧。」
「あははっ、お年寄りをいじめる趣味はありませんよ。」
城に入る前に、二人とも身体強化とシールドを施してある。
不意打ちを恐れる必要すらない。
案の定、立ち上がりざま、いきなり拳が飛んできた。
俺は軽く顔を反らして避け、右の人差し指で拳を止めて見せた。
「なっ……。」
「こんな簡単な挑発に乗るような人が副隊長だなんて……。第1大隊の精鋭というのも、たかが知れていますね。」
「な、何が望みなんだ……。」
「だから、報奨金ですよ。そうですね、金貨2万枚で手を打ちましょう。」
「そんなものが出せるわけないだろう。」
「だったら、出せる人を呼んでくださいよ。」
【あとがき】
金貨2万枚。日本円換算で30億円程度ですか。国庫から考えれば、それほど大した金額とは言えないですね。
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