第6話 地竜は皇子の仇だぞ!と言われたが無能皇子は事故で死んだだけだろう
詳報によれば、戦姫部隊はカスラハン砂漠で1か月足止めされ、その間に地竜1匹が砂に埋もれて息絶えたらしい。
だが、そこの中隊も損耗が激しく、ついには防衛ラインを突破されノスタリ平原へ侵攻されてしまった。
カスラハン砂漠で1か月の時間を稼いでいる間に、イエニスタ第2皇子は援軍を送ることもなく、城から3台の破城槌と50名の魔法兵を引き連れ4匹の地竜に対した。
しかし、破城槌はまったく成果を出すことなく破壊され、50名の魔法兵による火炎魔法によりやっと1匹の動きを止め、更に80名の剣士を投入して集中攻撃を実施してとどめを刺した。
肝心の第2皇子はこれらの作戦行動に直接加わることなく、遠方から指揮をとっていたのだが、急に進行方向を変えた一匹の地竜によりあっけなく踏み潰されたという。
この作戦による死者は魔法兵84名と剣士154名となり、戦果は地竜1匹という散々な戦いとなった。
残った3匹の地竜は、現在も王都に向けて侵攻中だという。
「今回、地竜の対策として王都から兵士の応援依頼があった。各部隊共に20%を派遣するよう要求されている。」
「20%ということは、中隊で50名ということですか、相変わらず無理を言ってきますね。」
「……中隊長、それって地竜をどうにかすればいいんですよね。」
「まあ、そういう事になるが。」
「多分、何とかできると思います。それなら、俺だけでいいでしょ。」
「できるのか?」
「リズの助けが必要ですけど、多分。」
「わかった。それで大隊長と交渉してみよう。」
「じゃあ、俺は早速現地に向かいますので、ここはお願いします。」
俺は砦に戻ってリズを連れ出す。
「この飛行馬車と同じようにシールド・浮遊・風魔法の要領で地竜も運べると思うんだ。」
「そうですね。私もできると思います。」
「問題は、どこに運ぶか……なんだけど。」
「それでしたら、ご領地の東にある谷は如何でしょうか。」
「ああ、確かにあの谷は人が住んでいないし、開発もされていない。急な崖で囲まれているから他に出てくることもなさそうだ。うん、いいかもしれないな。」
俺たちは飛行馬車で地竜の元に降り立った。
戦姫部隊の残党が5人ほど残っていたが、上空からの魔法で始末する。
地竜を遠巻きにけん制していた部隊の中隊長に状況を説明して、全数を運び出すまで手を出さないように伝えておいた。
リズはシールドをかけたうえで、地竜をなだめている。
「落ち着きそうかい。」
「もう大丈夫。この子たちも疲れているから、しばらくはおとなしくしていると思うよ。」
二人で協力して一匹目の地竜を浮かせ、北に向けて飛行していく。
「この重量だとさすがにきついな。」
「大丈夫?」
「ああ。王都を守るためじゃなくて、こいつらを守るためだ。頑張るよ。」
谷はスリネの森と同じくらいの広さと豊かな植物に溢れている。
「俺もここに降りたのは初めてだけど、結構いいところだな。」
「ホント、自然も豊かだし、ここなら落ち着いて暮らせそうですね。」
ついでに父にも伝えておいたのだが、父から思いもよらない情報が入ってきた。
「第2皇子の追悼金とかいう名目で、今年の税が50%増額されると通達が来た。」
「そんな無茶な!」
「両隣の領主とも情報交換をしているのだが、拒否しようという方向で話が進んでいる。」
「拒否するとなると。」
「ああ。王都から強制徴収……事実上の制圧部隊の派遣が考えられるのだが、今の王都軍にそれだけの余力があるのか疑問なのだが。」
「……実は、各部隊の20%が王都に招集されています。」
「何だと!」
「建前は地竜討伐の応援という事でしたが、それを使って各領地の制圧というストーリーも考えられますよね。」
「かといって、王都の軍に立ち向かえるだけの兵力はないし……。」
「俺の方でも情報を集めてみるよ。もしそういうストーリーが進んでいるなら、退役して俺が領地を守るから。」
「馬鹿をいうな、お前一人でどうこうできるレベルではないぞ。」
「大丈夫さ。俺にはリズがいるから。」
「はい。」
俺は王都に引き返し、2匹目の地竜を運んだ。
そして3匹目を運ぼうとした時にそいつらが現れた。
「待て!勝手なことをするんじゃない!」
「勝手なことって、第2大隊長に進言はしてありますけど。」
「ここは第1大隊のエリアだ。第1大隊長の指示に従ってもらう。」
「俺は第2大隊の小隊長だ。その指示を聞く必要はないはずだ。」
「ふざけるな!地竜は第2皇子の仇だぞ!」
「仇って、第2皇子は地竜の暴走に巻き込まれただけだろう。単なる事故だ。」
「貴様!第2皇子の名誉ある死を汚すつもりか。」
「いや、俺のところに入っている情報に基づいた事実だ。」
「不敬罪だ!こいつもろ共焼き払え!」
俺たち二人は地竜の上に乗っていたので、すぐにシールドを展開する。
魔法も矢も無効だ。
「リズ、上昇だ。」
「はい!」
3匹目も谷に送り届けた俺は、王都に戻って城に入って情報を集めた。
「どうやら、領地の反抗と制圧まで織り込み済みみたいだな。」
「はい。」
「第2大隊の攻勢で、アッシュの脅威が小さくなったと考えているんだろう。」
「ティー個人の働きとは思っていないのでしょうね。」
俺は中隊に戻って中隊長に全てを打ち明けた。
「最初に出かけた時点で退役していた事にしてください。こっちに迷惑はかけられません。」
「すまんな。それで、これからどうするんだ。」
「領地に帰って王都の制圧に備えますよ。」
「本気なのか?」
「もし、マッツ領の制圧に加わる兵士がいたら忠告してあげてください。今の俺は強いですよ。」
「あの、風の旋盤は、どれくらいまで大きくできるんだ?」
「10mくらいのやつを100発連続でも余裕です。」
「……大隊規模でも一瞬かよ。」
「そんな残酷な事をしないでも、威圧で……あっ、そうか領地で独立を宣言したうえで、王都を制圧すれば余計な戦いは回避できそうですね。」
「可能なのか?」
「可能ですね。そしたらアッシュも制圧して兵を引かせれば、ここも必要なくなりますよ。」
「おとぎ話みたいな話だな。」
「ええ。そのうえで、領地の子供は、魔法の見込みがあったらリズに魔力器官を強化させて……。」
「ロストの心配がない魔法兵団かよ……待てよ、俺はシーバ領の出身だが、マッツ領は隣だよな。」
「そうですね。ひょっとすると、3っつの領が合併して独立するかもしれませんね。」
領地に戻った俺は、領主である父親と子爵の一人であるローゼン次官を飛行馬車に乗せてシーバ領主を訪ねた。
そこでまた、シーバ領主と副領主を乗せてもう一つのライメイ領主邸へ移動する。
俺とリズも乗っているので6人ギリギリだ。
今後を考えて、先頭は二人掛けで、後部は4人掛け5列の8輪車両を作っている。
これができれば、より大勢を運べるようになる。
「しかし、魔法で空を飛ぶ乗り物が出現するとは思いませんでした。」
「それよりも、射精後も魔力を失わない事実に驚きました。」
「そういえば、リョカ副領主さまは、リーベンス・リョカ中隊長をご存じですか?」
「リーベンスはうちの3男だが知り合いですかな。」
「はい。直属の上司で、色々とお世話になりました。」
そうか、副領主の息子さんならば、仕事があれば帰ってきてもらう事も可能だな。
そんなことを考えているうちにライメイ領に到着した。
ここでも青々とした麦畑が広がっている。
今年は、各領地で豊作が期待できそうだ。
【あとがき】
領地内でどのような組織を作るのかは領主の裁量に任されます。
伯爵級の領主に、子爵・男爵が補佐するといった形が一般的なのでしょう。
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