新たな家族と古き親友
「あ……すみません、お嬢……さま………」
一矢が亡霊の側頭部を貫通し、その半透明の肉体は容赦なく粒子となって散った。
本来なら、物理干渉の一切を受けつけない亡霊というステータスで、明らかに物理的干渉である弓矢による攻撃。
あまりにも予想外で、突然すぎた出来事にツカサやアリスはその矢がこちらに向かってきていることを感知し、防ぐまでの猶予があまりにも足りなかった。
散った粒子から残された二本の剣、それは片方が魔術殺しの魔剣であり、もう片方は純粋な鋼の剣。
「え……じゅ、ジュナ? ジュナどこ行ったの??」
先程まで抱き合って再会を喜んでいたベルは、突如として消え散った彼女に驚きと困惑がとまらず、天へと昇るように消えていく粒子たちをその小さな両手で掴もうと必死に抗う。
「ま、待って! ジュナ!! ジュナ、待って!! パパもママも帰ってこなくて、ジュナまで行っちゃうなんて嫌だよ!! 待ってよ!! ジュナ!!」
彼女ほどの魂であっても、三度目はなかった。
カランカランとジュナに突き刺さった矢は、彼女が成仏したことでそのまま地面に落ち、派手な金属音をたてて、事態の深刻さを教えた。
「……師匠、もう………もう、やっぱり私は許せません!!」
「家屋を壊して村長を殺めた賊……間違いなく、いまあの亡霊を成仏させた奴ね。」
そして二度目の行射。
鋭利な鏃がツカサの眉間に狙いを定め、静かに狙った獲物を射抜かんと迫る。
しかし、獲物があまりにも大きすぎた場合に限り、その暗殺矢は意味をなさない。
一切の音をたてることもなく、ツカサの目と鼻の先で真っ二つに分断され、後方の地面へと無様に落ちる。
しかし、その矢が過ぎると同時に再び、今度は二本の矢が同時にツカサの眉間と心臓を狙って放たれる。
けれど、その二本の矢もまた彼に当たる直前で木っ端微塵に吹き飛んだ。
「ジーク大団長……俺は正当防衛を主張する。」
騎士団はすぐに村民たちを庇うように展開し、あっという間に囲まれたのは、騎士の格好をし、弓をこちらに向けて構えている青年だった。
「村民の虐殺、家屋の破壊、不正当で悪質な殺人未遂はいずれも重罪だ。」
そこから一歩も動くことをせず、ただ堂々と弓を構え、ツカサを睨むように狙う。
「よし……殺すか。」
カチャリと音を鳴らし、強く握られる柄と鞘。
相手の構えから角度や速度、目線からどの部位を狙っているのかを予測する。
「………退け、そのガキは俺の依頼対象だ。」
弓がギチギチと音を鳴るほどに限界まで引っ張り、いま手を離せば常人なら躱すことが不可能な速度で向かってくる。
「てめぇの依頼からこの子を守るのが、俺に託された約束だ。
奪いたきゃ、俺の脳天ぶち抜いてみろ。」
男はツカサの挑発的な発言に反応し、筈を摘んでいた指を広げ、ツカサに向けて一矢を放った。
「おせぇよ……」
無論、矢の速度などツカサにとってはカタツムリのように遅く感じる。
故に、何発放とうがそのことごとくは捌かれ、決してツカサに命中することはない。
「ジュナぁ! ジュナ、ジュナ!! どこにいるの、ジュナ!! ねぇ、みんなしてまた私を置いていかないでよぉ!!!」
ベルの悲痛の叫びが背景に聞こえてくる。
この男があの時、射抜かなければこの子が泣くことはなかった。
溜まりに溜まった不安と恐怖と怒りと悲しみが溢れ出て、感情がグチャグチャになることなんてなかった。
「今の俺は久々にキレてる……お前相手じゃ一瞬かもしれねぇけど、本気で相手してやる……精々、数秒は持ちこたえてみろ………」
ツカサは太刀を異空間に収納し、切り替えるように他の太刀を取り出した。
「見たことあるか……? 禁忌の剣に登録された、神々が遺したとされる天下五剣の一本。
笛薙政綱……今からあんたは、生きるも死ぬも感じることが許されない世界でただひたすらに無であり続けることになる………なんの罪もない女の子を、なんの罪もない連中を殺して私利私欲を満たし続けたてめぇの末路だ………自分の腕に少し自信があるからってつけあがったな………」
ツカサは笛薙政綱を手にとり、背を向けて走って逃げ去ろうとする男にその柄頭を狙い定め、腰を深く落として構えを取る。
「逃げても振り切れねぇことぐらい分かってんだろ……」
「く、来るなぁ!! 俺に近寄んじゃねぇ!!」
もはや誰も聞き届けてくれない戯言。
そこにいる誰もが、ツカサの一撃を止めようとはしない。
「フェル、あんたより直ぐに怒りっぽいツカサが怒らないわけないでしょ?
もうあいつは死よ、私たちに目をつけられた時点で自首するべきだったわね。」
だらしなく背を向けて走り去る男に、ツカサは深く息を整え、鍔を親指で少し押すと覗く刀身が陽の光に反射し、視界を遮る反射光に目を閉じた直後。
音も風もなく、皆が目を開けた時には先程の場所にツカサはおらず、逃げる賊を追随する一太刀は容赦なく振り下ろされた。
「やめろぉおお!! ──なんつってな!!」
ツカサの一撃に反応する速度、振り返った賊は下卑た笑みを浮かべ、突進するツカサの眉間めがけて弓矢を構える。
その間、コンマゼロ数秒。
容赦なく放たれた矢はツカサの眉間を貫くことはなく、彼の規格外な身体能力と反射神経で間一髪かわしてみせた。
「ほぉ……背を向けて油断させたところを突くわけか………」
かわしたはものの、頬にかすり傷を負い、たらりと血が流れる。
ツカサにとって予想もしなかった展開。
「ふん、俺の本業は弓じゃねぇ……こいつだ!!」
賊は背中の腰帯から一本の短剣、もはやそれはナイフと呼ぶに相応しいサイズの剣を取り出し、逆手持ちで構える。
「なんなんだ……最近は逆手持ちが主流なのか?」
賊は狂気に満ちた顔のまま前傾姿勢でこちらへと駆け出す。
自身が前傾になって走ると速いのは確かだが、それは自分の身体制御、運動能力が極めて高い者に限る。
賊は鋭いナイフの先端で突き刺す構えをしており、柄頭に片方の手で押さえて、勢いよく飛び上がるとツカサの頭上めがけて勢いよく振り下ろした。
「──終わりだ」
そしてツカサの横を過ぎて、賊は突如として意識を失って地面に前身から倒れた。
「──てめぇが殺した亡霊はこの程度の干渉も足掻いたけどな……だが、あんたはもっと苦しんでもらわなきゃ俺の怒りがおさまらねぇ。」
笛薙政綱の剣先を倒れた賊の背に少し突いて小さな刺傷を生み出す。
作られた傷からはたらたらと少しばかり血が垂れており、笛薙政綱はその血をしっかりと刀身に浴びていた。
「この太刀はな……別名、笛鳴る波の刃、支配と制約の太刀だ。
あんたが頭の中で永遠と情報を切り刻まれ続けるその力は、こいつの主能力じゃない。
主能力はこっから先、対象の血を浴びた時だ。
浴びた血を持つ対象に、拒否を許さない支配と制約を課すことができる。
俺があんたに与える制約は………生涯、意識を保ち続ける……だ。」
情報が入っても切り刻まれ、修復不可能となる脳内ではいかなる情報も認識できない故に意識が奪われ、何も見えない何も聞こえない何も感じない無に何も分かりえない自分がただいるような感覚。
もはや、感覚さえあるのか分からないような状態。
だが、この制約は必然的に意識を奪ってしまう笛薙政綱の情報阻害能力に対して矛盾を生じさせる。
それは、自身の感覚も時空間も光もあらゆる情報がないところで、自分がここに居るという感覚もないまま、情報がない無を認識しようと抗い続けるようなもの。
つまり、彼の脳内は生涯にわたって無を理解しようとする、とてつもなく無駄で残酷な命令しか出せなくなってしまった。
彼の脳内に記憶なんてひとつもない、そこにあるのは脳みそという物質と無を理解しようとする働き。
「じゃあな……外道が。」
たった一つの理解以外は許されない脳と神経により、身体の機能が完全に停止し、彼は死んだことさえ分からないまま魂が成仏する。
しかし、彼が魂となって天国や地獄に行ったところで、彼はもう一切の情報を手に入れられない。
ならば、もう彼は神々の救いでもない限り、魂さえもこの場で留まり、無駄なことを永遠と繰り返す悲しき亡霊となってしまった。
禁忌の剣に登録された、天下五剣の一本。
最悪にして最凶の一太刀、魔王が勇者の聖剣よりも恐れたという、テンプレに反する性能。
本来ならば、人に使うことは大罪であり、所持するだけでも国家から生死を問わない鎮圧を喰らう。
それほどまでに危険で、それほどまでに強力な太刀。
ツカサは異空間に納め、転がる賊の死体を引きずりながら村の方へと踵を返した。
~~~
「ひぐっ……! ジュナも、パパも、ママもみんなみんな……私に意地悪ばっかしないでよぉ!!」
ツカサさんが賊を引きずりながら戻ってきたが、状況が良くなった訳ではなく。
座り込んで泣きじゃくるベルちゃんの悲痛の叫びに、私たちは掛けてあげられる言葉もなかった。
当然だ。
ジュナさんは、この子を守らなければという一心で自身の魂を無理やり現世に留まらせていたが、それも決して楽なことではない。
ましてや、霊体に干渉してくるような攻撃で致命打を喰らえば、いくら彼女でも耐えられるはずがなく。
「まぁその……なんて言えばいいのかしら………」
アリス師匠でさえ、彼女のあまりにも辛い現実に言葉を失っており、それでも彼女を慰めようと必死に言葉を探していた。
「ベルちゃん……」
誰もが、ベルちゃんの泣き姿に硬直していたが、ツカサさんが深いため息を吐いた後で彼女の目の前で屈んで問いかけた。
「俺はお嬢ちゃんのメイドさんに依頼されたんでな……ベルちゃん、君の意思を尊重する。
孤児院に行くか、俺らと一緒に暮らすか………
──君が選ぶといい。」
涙で赤くなった目尻と、伝う頬が実に子供らしく、こんな幼い子を相手に容赦なく襲いかかる連中の正気を疑う。
ツカサさんは服の袖を摘み、ベルちゃんの涙を拭う。
「わたしね……いつもいつも、ジュナが運んでくれるご飯を食べてたんだけどね。
ご飯を運ぶとジュナはすぐに部屋を出ていくの、ジュナは私を守るためだって言ってたけど、でもね、一人で食べるご飯はとてもまずいの。
冷たくて……味がしなくて……誰も私と話してくれないから………
お兄ちゃんたちは、わたしと毎日ご飯を一緒に食べてくれる?
お兄ちゃんたちは、わたしと毎日話してくれる?
お兄ちゃんたちは、わたしと毎日一緒に寝てくれる?」
彼女の質問はもはや訴えである。
彼女がどれだけ寂しく、孤独な毎日を送ってきたのか……その主張で全てが伝わってしまう。
「あぁ、毎日飯は一緒に食おう、毎日みんなで楽しく話そう、毎日みんなで一緒に寝よう。」
「あのね……最後に一つだけ、聞いてもいい?」
「あぁ、聞かせてくれ。」
ベルちゃんは震えた瞳でツカサさんを見ながら、問う。
「お兄ちゃんたちは……絶対に、絶対に……私の前から急にいなくなったりしない?」
彼女の瞳は酷く震えており、答えに期待していないことの表れだった。
だけど、そんな彼女の表情を見てツカサさんは優しく微笑み、彼女の頭に手を添えるように置いた。
「絶対に消えたりしない、俺たちはこの世界で誰よりも強いからな。」
彼女はぷるぷると震え、ツカサさんの頭に添えられた手を小さな両手で握り、踏み止めていた感情が一気に溢れ出た。
「うわぁあああん! 絶対に! 絶対に消えないって言ったよ! お兄ちゃんたちは消えないって言ったからね!」
彼女の目尻からは再び涙が、滝のように溢れ出て、ツカサさんの胸に抱きついて泣き叫び出した。
肩で呼吸をし、ただひたすらにツカサさんに訴え、号泣による嗚咽を繰り返す。
ただひたすらに彼女は「私の前から消えないで欲しい」と訴え続け、その場にいた誰もが一筋の涙を流した。
そんな幼い少女の涙の主張に、ツカサさんはただひたすらに頷きながら彼女を胸の中で慰め続けた。
~~~
「いやぁ! 本当に助かりました!! それにしても、まさかあの屋敷の前の住人がいたとは……それなのに売り出されていたのは何故なんでしょうね?」
晴れて依頼は達成であり、その報告のために依頼者である若夫婦を店に招いていた。
「まぁ、権利を有さない悪徳が無断で売っぱらったと考えるのが妥当でしょう……とはいえ、もうなにも問題なく住めるはずなので、これで依頼は達成です。」
「たっせいです!」
ベルちゃんもすっかり元気に戻り、店の看板娘としていつも訪ねてくる客の心を癒している。
「ありがとうございました……これが依頼の報酬です。」
旦那さんが懐から小さな麻袋を取り出し、それを俺に渡してくる。
もちろん、俺のやってる事は慈善活動ではなく仕事なので、依頼には報酬を受け取る。
今回の依頼は、ベクトルの異なる危険な仕事だったが、まぁ規模がそこまで大きくなかったので相場としていえば、銀貨数十枚だろう。
この世界の通貨としていえば、銀貨百枚で金貨一枚に相当するが、銀貨十枚は少しお高いレストランで奮発するようなものだ。
「金貨五枚……多すぎますよ、間違えましたか?」
「いや! それが妥当だと思って、元より報酬の最低値は定られていましたが、上限は定まっていなかったわけです。
だから、これは私たちからの感謝と、あとは選定級冒険者の天下五剣の抜刀斎にわざわざ調査してもらったんですから、その分も弾まないとって……いらぬ配慮でしたかね?」
金貨五枚はあまりにも額が大きすぎる。
それこそ奴隷というひとつの命を簡単に買えてしまうほどの額だ。
命と等価交換することが可能な額と考えたら、その価値の高さは容易に理解できる。
「分かりました……じゃあ、この報酬は今回の一件で頑張ってくれたこの子の欲しい物を買うために使わせていただきます。」
俺は隣でニコニコしながら俺たちの会話を聞き続けるベルちゃんの頭に手を添える。
事実、ベルちゃんは今回の一件においてあの亡霊メイドと等しいほどに頑張った。
誰かにご褒美を貰わないといけない、そして俺が拾った以上はそういった役目も全て責任をもって俺がやるべきだ。
まぁ自分に妹ができたと考えれば丁度いい。
妹を甘やかしたくなるのは兄の性だと、俺の学生時代の知り合いが言っていた。
「ははは! こんなに可愛い子のために使われるなら私達も気持ちの良いものです! それでは、私たちはそろそろ失礼させていただきます。」
依頼は達成し、報酬も受け取ったので若夫婦たちは席を立ち、満面の笑みで感謝の言葉を投げながら、店の入口まで進む。
「はい、此度の一件──何でも屋に任せて頂き、ありがとうございました。また何かあれば、遠慮なく頼ってください。
あらゆる脅威さえも打ち砕くのが、この店の取り柄ですから。」
「ははは! 天下五剣の抜刀斎が言うと頼もしいですね!」
若夫婦は最後まで何度も感謝の言葉を投げながら、去っていった。
「さて……と、そろそろアリスとユーフェルが帰ってくる頃か?」
「アリスお姉ちゃんとフェルお姉ちゃん、もう帰ってくる?!」
「あぁ、もうそろそろ鍛錬を終えてこっちに戻ってくるだろう。」
「やったー! じゃあ、ご飯の用意しないとだね!!」
「そうだな……今日は何が食べたい?」
「うーん……うーーん………」
夕飯の献立に迷う彼女は、額に指を押し当てて首を傾げながら唸る。
随分と大人なポージングだこと……。
博識な人間ほど、そういうポージングをして頭の回転を加速させてるイメージがあるが、何かの絵本で見たのだろうか?
「まぁもう帰ってくる、三人で仲良く決めるといいよ。」
「うん! そうする!!」
直後、タイミングよく扉の鈴が鳴り響き、ベルちゃんがカウンターから飛び出すように二人の方へと駆け出した。
「戻りました〜!」「戻ったわ〜」
「おかえり〜! お姉ちゃん達〜!!」
~~~
「王城に俺を呼ぶ冒険者がいるから来い?」
「はい、ツカサさんを訪ねて来たものの何処にいるか分からないから、国王に頼めば連れてきてくれると思ったと仰っていました。」
屋敷の依頼達成からひと月が経ち、アリスとユーフェル、ベルちゃんが三人でちょうど外出している日に、王族の遣いがわざわざ俺の店まで俺を求めて訪ねてきた。
「あぁ……俺を訪ねてきたって、そんな冒険者いるか?
選定級か最上級の冒険者でしたか?」
「本人はその辺の事はプライバシーだと言って一切お話になりませんでしたが……国王様が事前のアポもなく謁見を許すほどのお方なので、相当な熟練者だとは思われます………」
「……あぁ! 分かった!! 分かりました、王城に向かいましょう!!」
その一言で、俺を待っているという人物が誰なのか容易に理解できた。
暫く会っておらず、学院時代に冒険者を始めて以来か………。
「久しい奴と会うなぁ………」
俺は遣いの方の案内に従い、なんの滞りもなく王城へと直行した。
~~~
「国王様! ツカサ殿を連れて参りました……!!」
出発して数十分。
馬車での移動だったので、走るよりも遅く、少しばかり待たせてしまった。
「おぉ、よくぞ参ってくれたな! 」
謁見の間の扉を開けると玉座から立ち上がり、笑みを浮かべて国王が迎えてくれた。
そしてもう一人、レッドカーペットの上に座り込んでいた青年が、音もなくその場から消え、直後に俺に抱きついてきた。
「久しぶりだな〜! ツカサぁ〜!!」
その青年は、輝かしく艶のある白髪に空より淡い蒼色の瞳。
俺とは対となる容姿の男だ。
今となっては俺も実力があるから知名度や人気もそこそこあるが、昔からの知り合いのこいつと比べるとモテた回数で競えば雲泥の差だ。
「元気してたか? アーク」
アーク。
俺の幼なじみであり、俺と共に銃技を鍛えた親友だ。俺が冒険者として活動するまでは毎日のように彼と武術の鍛錬に励んでいたのが懐かしい。
「それで? 何か用でも??」
「いやそれが実はね? この前、異大陸の方で少し依頼に赴いてたんだけど、その時の戦闘でツカサから貰ったパーカーヘイルにヒビが入ったんだよ! これくれたのツカサだろ? 直し方、君ならわかるかな〜って思ってさ。」
アークは背に抱えていた長銃を俺に見せると、確かに銃身に大きく罅がはいっており、大きな衝撃が加われば次は間違いなく折れて修復不可能になるだろう。
「けど、そもそもこいつって俺とお前がたしかまだ十二歳とかの時にあげたやつじゃないか? 俺たち、今もう十八だぞ? もう六年も経つんだ、年季もあるんじゃないか?」
「だけど、これは君が僕にくれた大切な長銃なんだ。
ミスリル製だから、壊れることなんてないだろうと思ってたんだけど……まさか魔物の攻撃を防ぐときに衝撃で罅がはいるなんて思わなかったよ。」
「まぁミスリルを砕く魔物なんて世の中に腐るほどいるからなぁ……それこそ、古龍なんて相手にすりゃミスリルもその硬さが役に立たねぇだろ?」
「僕が相手にしたのは十二いる魔王の配下の一人だよ。」
魔王の配下。そも魔王は魔物たちの王であり、魔物たちの中で最も強い存在。
その魔王が認めた十二の魔物たち、まぁ俺たちのような選定級からすればそこら辺のゴブリンと変わらないが、世間的には魔王もその配下も十分厄災だ。
そのパワーは俺たちのフィジカルには届かなくてもミスリルの硬度は軽く砕くだろう。
「まぁそれは仕方ねぇな……」
「それで直せるかな……?」
「はぁ……ったく、一年ぶりに再会した親友の頼みだからな! 直してやるのはいいけど、ミスリル製なんだ……当たり前だけど、ミスリルを取りに行く必要があるぞ? もちろん、着いてくるよな?」
「当たり前さ! 久々だね、ツカサとの冒険は……君が冒険者を始める前以来かな?」
「だな、俺が冒険者始めてからはアリス達とすぐにパーティー組んだからなぁ……」
「ほっほっほ……ここが謁見の間であることを忘れとらんか?」
玉座で顎髭を整えながらこちらを微笑ましい顔で見つめてくる国王様に、俺とアークは笑いながら軽く頭を下げた。
「申し訳ない。」「すみません!」
「良い良い……それよりも、まさかアーク殿がツカサ殿と旧友だったとはなぁ………空のアーク、地上のツカサ、万物のアリス………完璧じゃな。」
「ダメです。アークも俺も、パーティーは特別な理由がなきゃ組むことはないんですよ。」
「ほう? 何故じゃ??」
俺とアークは顔を見合わせて互いの腕を組み合う。
「俺が弱っちまうからです。」
「僕が弱くなってしまうからです。」
「というと?」
「俺とアークは幼なじみで共に鍛錬してきた仲です、連携なんてアリス達とは比べ物にならない。
だから、俺が何を考えてるかなんてこいつにはお見通しだし、逆も然りだ。
そんな状況で、ただでさえ俺たちにとってぬるま湯なこの世界を更に温くしたら、飽きちゃいますよ。」
「なんじゃそのバトルジャンキーみたいな理由は………」
「つまり、僕たちはお互いが強くあり続けるためにまず組むことはないんだ。」
「ほほぉ……まぁ強くあり続けようとする姿勢は我々人類の生存を確固たるものにするので、嬉しい限りじゃ………あぁ、そういえばミスリルの鉱山は知ってるおるのか?」
「いや実は、もう何年も前だから……道なんて忘れてるし、そこはたまたまあったからまた生えてるなんて確証ないんですよね。」
「そうじゃろう、君たちの助けは我ら国の利益にもなる……ミスリル鉱山の場所までの道を記した地図の一つや二つ、すぐに手配しよう。
最近じゃと、オリハルコンの鉱山も見つかったが……そうじゃな、ミスリル鉱山の地図をやるのでオリハルコン鉱山の方にも赴いてくれんか?」
「ほう? というと、オリハルコンの鉱山じゃ何か厄介な悩みでもあるんですか??」
「そうじゃ、まぁツカサ殿とアーク殿にかかれば屁でもないんじゃろうが……実はオリハルコン鉱物ともなれば知恵ある魔物たちも目をかけておってな、それこそ先ほど話に出た、魔王の配下の一人がそこを巣窟にしておるらしいんじゃ。
じゃから、見つけたはいいものの鉱山の占有も採取も出来のんじゃよ………」
「なるほど……地図を貰えますか?」
国王様が遣いの方にハンドサインを送ると、俺たちの背の方からそっとメイドさんが二枚の巻かれた地図を差し出してくる。
「ありがとうございます。」
俺とアークはそれぞれ一枚ずつ受け取り、お互いにそれを開いてみると、アークの方はミスリル鉱山の地図で、俺の方はオリハルコン鉱山の地図だった。
「配下が巣窟にするのも納得ですね、この位置はそう遠くない所に魔物に汚染された土地が広がってますから。
彼らにとってその境目に、最高の資源があるとなればとっととそこまで汚染領域を広げたいでしょう……広げられたら終わりですからね、先にこっちを済ませましょうか。」
「本当か?! 助かる、本当に助かる!!」
「いいよな、アーク?」
「全然構わないよ! それなら、別の銃を借りたいね。
長銃じゃなくても問題ないけど、何か無いかな?」
「それなら、俺の店にトーラスとライヒスがある。」
トーラス&ライヒス。
大口径の回転式拳銃、普段は街中などの抜刀できない状況下で応じて使用する銃器だが、別に魔物討伐で扱えないほどじゃない。
むしろ、アークが使えば壁一枚を吹き飛ばせるだけの威力は出せる。
それだけあれば十分だろう。
「あー! あの二丁拳銃ね!! ちょうどいい、最近実はそういった拳銃の扱いも練習しておきたかったんだ、貸してもらうとするよ。」
「おう……それじゃあ、国王様! この件は俺たちに任せてもらって、この距離なんでな……一日跨げば帰ってくる、それまで悪いけど待っててくださいね。」
「うむ! 頼んだぞ、ツカサ殿!アーク殿!」
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