潜在能力とグリエント王国のお姫様
「それでねそれでね! パパはズババッ!って魔物を倒しちゃったの!!」
「そっかぁ……ツカサお兄ちゃんには出来ないなぁ………」
一階の店のカウンターに座り、時間帯的にも客が少なく暇が生じるのがいつもだが、今日は異例だった。
俺の膝の上に座り、父のことをさぞ楽しそうに語る綺麗なブロンド色の髪をした少女。
とある人の依頼で任された子守だ。
その人は、仕事で遠征を行うことになり、父子家庭の影響で愛娘を一人、家に置いておく訳には行かず、彼が一番信頼しているらしい俺にこの子を預かっててくれと頼まれた。
無論、何でも屋の依頼は何でもだ。
子守りも全然構わない。
「でも、パパがツカサお兄ちゃんはとーっても強い冒険者だって言ってたよ?」
「お兄ちゃんもそれなりに腕はあるよ? でも、メリルちゃんのお父さんほど、俺は強くないんだ。」
父を尊敬し、父を憧憬し、父を愛す、幼い娘の前で酷にも、俺がそのお父さんより強いなんてことは言えない。
ここは嘘でも、この子の"お父さんが一番強い"という夢を守る必要があるのだ。
「ふーん、やっぱりパパが世界でいっちばん強いんだ!!」
「そうだよ〜、メリルちゃんのパパは本気を出せばあのドラゴンさえも倒せるんだからね、とーっても強いよ!」
「ふふふ! 私、パパの子で良かった!! 自慢のパパがいて嬉しい!!」
なんとも幸せに溢れた笑みだこと。
見てるこっちまで幸せになるではないか。
俺も結婚して子供を持ったらこんな可愛い娘とか、元気ハツラツで暴れ回るヤンチャな息子とか……まぁこの容姿だ、あんま高望みはやめよう。
カランカランと入口の鈴が鳴り響き、疲弊しきったユーフェルと汗を拭うアリスが帰ってきた。
「おー! アリスお姉ちゃんとフェルお姉ちゃんだ〜!!」
俺の膝の上からひょんと降りて立ち上がり、二人のもとにメリルちゃんが駆ける。
「ふふ、相変わらずメリルは元気ね。」
「ただいま、メリルちゃん!」
ユーフェルが屈み、飛びつくメリルちゃんを抱き迎えて頬と頬を擦りあわせて笑っている。
何だこれは……アリスがぶっぱなす光属性の魔術よりも眩しい……ッ!!
「さてと……二人が帰ってきたし、そろそろ飯でも準備するか?」
客が来ない以上は店を開いていても仕方がない。
ここで大きな依頼を任されても困るっちゃ困るので、閉めてしまってもいいかもしれない。
「じゃあ、私が店閉めしとくからツカサとフェルは夕飯の準備を頼んでもいいかしら?」
「なっ、お前……また食っていく気かよ?」
「な、何か問題でもある?! 私がいちゃ嫌っていうの?!」
焦りと驚愕に包まれたような表情でおどおどとしながら返してくるアリス。
今の一言は、結構気にしてたのかもしれない……傷つけたのなら申し訳ないな。
「いや、俺たちの飯を食いすぎたら舌が肥えるぞって言いたかったんだ。」
「ふ、ふんっ! いいじゃない、もうあんたの飯食わされて肥えちゃってんのよ!」
「手遅れだったか……さ、メリルちゃんも今日は一緒に夕飯食べてお父さんの帰りを待とうか。」
「うん!!」
一階はアリスに任せて、俺はメリルちゃんとユーフェルと共に二階に上がった。
~~~
「そうよ、魔力消費のコツは属性のパターンを押えてその中の不要な術式を無意識に省くことね。」
「なるほど……やっぱり慣れが一番なんですか?」
「慣れもあると思うけど、あるとき急にコツを掴むのよ。
ふとした瞬間に、まぁ潜在能力ってやつね。
人間誰しもが持つ、普段は使わないんだけどいざとなれば解放する自分の奥底に秘めた才能よ。
第四の壁は人間の誰もが持つ共通の潜在能力とでも思ってくれたらいいわ。」
「てことは、普段はみなさん……無意識に魔力消費は抑えないんですか?
それとも潜在能力を常時解放できる何かをしてるとか?」
「後者が正解ね。第四の壁は潜在能力の常時解放、と言ってもいいわ。
なぜなら、一時的な無意識の魔力消費の軽減は壁を突破したとは言いづらいでしょ?
そんなの一時的なゾーンのようなものよ。」
夕飯を食べ終え、皿を洗う背後でユーフェルとアリスが魔術の勉強に勤しんでいる。
メリルちゃんはというと、俺の隣で洗い終えた皿を清潔な布で拭うという仕事を担ってくれている。
この子は本当にいい子だ。
「そのお皿を拭き終わったら、クッキー食べていいからね〜」
「ぃやった〜!! クッキー! お菓子〜!!」
おしりをプリプリして喜びの舞をしながらお皿拭きをしてくれるメリルちゃん。
なんだか、自分に娘ができたような感覚で少し家族的な幸せを感じる。
「終わった〜! お菓子食べる〜!!」
拭き終わったお皿をコトンと並べ、椅子から降りてリビングの盛り付けられたお菓子に一直線に駆けていく。
「さてと……さっきから第四の壁とか潜在能力とか、面白そうな話してるな?」
皿洗いを終え、饒舌に語るアリスとそれを真剣に聞き続けるユーフェルの間に割って入る。
「そういえばツカサ、あんたは潜在能力の解放は常時してるの?」
「いいや、俺の潜在能力は単純なフィジカルの上昇とは訳が違うから、解放は限られた時しかしないぞ。」
「そうなんだ……例えば?」
「アリスには一度だけ見せたことあるか………魔神と戦った時に使ったぞ。」
「えーっと……あぁ! え?! あれってあんたの潜在能力なの?! てっきり魔術にも等しい抜刀術のひとつなのかと思ったわ」
「いいや、無我の境地は俺の潜在能力を一部解放してる状態なんだよ。」
「あ、あの……ツカサさんも、アリス師匠も……潜在能力ってそんなに凄いものなんですか?」
潜在能力という未知に困惑し、話に追いつけず困り果てたユーフェルを見て、つい語りすぎたなと自分を責める。
「まぁなんだ……潜在能力はもし解放できるようになれば、どれだけ才能がない奴でも呪われとかそういう体質でなければ、元の自分の十倍以上に強さが跳ね上がるんだ。」
最低でも十倍以上の戦闘能力を発揮させる、生物が生まれ持った秘めたる才能。
世の中には数百倍にも跳ね上がる連中がいると聞くが、天才などの領域を遥かに超えた怪物だ。
それに潜在能力は極めると潜在能力の何パーセントを解放するなどの細かな扱いも可能になり、使いようによっては相手に慢心や油断を生ませることの出来る技術だ。
「せんざいのーりょく? それってパパも使える?」
クッキーのカスが口周りに付着し、両手には指の狭間にクッキーをぎっしりと挟んで持ったメリルちゃんが首を傾げながら尋ねてくる。
この子の父は王国騎士団の団長を務めているので、その辺りの壁は突破していそうだが、どうなのだろうか?
世の中には潜在能力を解放しなくても龍などの規格外の種族や、国家を滅ぼしかねない災害級の魔物を討伐する連中がいる。
まさしく俺やアリスのような
だが、あの人が本気を出すとよく覇気の重みが変わる。 覇気の重みが変わるということは、潜在能力を解放して一時的に戦闘能力を底上げしているから、と考えるのがもっともだろう。
「あぁ、メリルちゃんのお父さんも潜在能力を使ってるよ〜! あの人は本気になれば一振でこわーい鬼さんもぎゃー!って言って倒れちゃうからね〜!!」
何も間違えたことは言っていない。
正直な話をすると、俺たちのような平凡とはかけ離れた程度の強さを持つとちょっとやそっとな異常種。
この前のような大木よりも大きな鬼程度ならなんら脅威にならないのだ。
国家を守る騎士団の頭ともなれば、その程度はおろか一夜で国家を滅ぼす龍や、下手をすれば人類史に名を刻んだ英雄相手でも引けを取らないと思う。
「すごーい! くっきーおいしー!!」
「そうかそうか! よかったな、クッキー美味しいってよ、ユーフェル。」
「ふふふ、喜んでもらえて何よりです。」
あとは風呂に入って寝るだけだ。
俺は性別の問題もあるので、アリスやユーフェルにメリルちゃんを任せて、全員が出たら俺が最後に入るとしよう。
「じゃ、ユーフェル、メリル、お風呂頂きましょう?」
「そうですね、お先に失礼します。ツカサさん。」
「ん?? いただきます!!」
アリスが小難しい言葉を使うせいでメリルちゃんが困惑し、食す時と同じく手を合わせて俺にいただきますと告げてくる。
「はっはっは! はいよ、行ってらっしゃい!!」
三人、まるで姉妹のように見える。
アリスがクールな長女で、ユーフェルがお淑やかな次女、メリルちゃんが元気ハツラツな末女と言ったところか。
──さて、三人が風呂を上がるまでの間、おそらく小一時間ほど時間があるだろう。
前回の依頼で同行した時に、鬼からの不意打ちを避けきれなかったのは俺が鍛錬を怠ったのが原因だ。
少し森の方まで出て、自主練でもするとしよう。
~~~
「はぁ……はぁ………!! やっぱりお兄様の言う通り、夜は城から出なければよかった!! お父様……お母様……お兄様……ッ!!」
既に満月が空の頂に達する時刻、静けさが不気味となる森の中を躊躇いもなくただひたすらに駆け抜け、その最中に自身の衣服のひらひらとした装飾が邪魔で鬱陶しく思えてくる。
先程から私の背後をひたすらにつけてくる何者かが怖くて逃げているが、一向に撒ける気配などなく、それどころか徐々にその距離は縮まっている感じすらする。
ガサガサと音を立て、腰ほどまでに伸びた雑草たちを掻き分ける。
この森を抜けたら大きな炎魔術かなにかでSOSの合図を送ろう。
誰かが近くにいることを願うしか、今はない。
「もう!もう!! なんなんですか!!」
迫り来る恐怖と焦燥、ここで転びでもすれば終わりだ。
私を追いかけて来ている者が盗賊などの類なら、私は絶対に見逃してもらえないだろう。
ただ最悪なパターンは貴族や他の王国から依頼された暗殺者などのケースだ。
もしそうなら、彼らはたとえ私が齢14の少女だったとして容赦なく殺めてくる。
仕事である以上は、子供だろうと女だろうと構わず殺めるのが殺し屋だ。
今はとにかく、足が折れても壊れても逃げなければならない。 止まってはならない。
──絶対に捕まってなるものか。
「──くふふ、ふっははは!!」
突如として背から聞こえる笑い声。
成人男性ほどの声だろうか? であれば、やはり盗賊の類だろう。
暗殺者は不用意な笑みなどしないし、するにしても対象を殺めたあとか確実に殺せると確信した時だけだ。
今はまだ私が逃げて、確実性がない。
「村を襲おうと思ったら、まさか人間のお姫様に会えるなんてなぁ……しかもこんな真夜中に護衛もなし、これが奇跡ってやつかぁ?!」
おかしい……人間と呼んだ?
もっと最悪なパターンかもしれない。
本当に捕まってはいけない、殺されて終わる最期ではないかもしれない。 地獄という地獄を背から感じ、私はもう考えることを放棄し、息切れする中でされど震える足を決して止めることはなく、ただひたすらに森を駆ける。
やがて見えてきたのはグリエント王国の巨大な壁。
あの壁の内側に入れればこちらの勝ちだ。
あとは大声で騎士団でも呼べば解決だろう。
──あと少しだ、あと少しで……ッ?!
「──ごふッ?!」
突如として背中からレンガでも投げられたかのような激痛を感じ、私は衝撃と共に前傾姿勢で地面に顔からずりずりと転がる。
「ぐぅ……痛い、そんなあと少しなのに………」
鼻が折れ血がだらだらと垂れてくる。
まつ毛には土が少し絡んでおり、前髪はグシャグシャに乱れ、背には今までに感じたこともない醜悪な殺意を感じ、悪寒が走る。
「くひひ! あぶねぇあぶねぇ、危うく壁の中に逃げられちまうところだったぜ……ったくよぉ! こんな所までよく走って、最後まで諦めなかったんだなぁ………だけど、残念! 俺様みたいな知性ある魔物は身体能力も高いんだ、てめぇら人類のそれとは比べ物にならねぇんだよ!!」
振り向くとそこには紫色の肌が特徴的な人型の魔物。 片手には血肉がこびりついた剣が握られている。
「いや……いやいや、やめて! まだ死にたくないの!! 私、まだ14で……まだいっぱいこれから楽しいことしたくて………」
「あぁあぁ、そりゃ残念だったなぁ……楽しいことしたかったよなぁ………」
彼は血肉がこびりついた剣を地面に突き刺し、私の泥まみれの衣服の裾をつまみあげる。
「はっはー! 14でこんな洒落たもん履いてんのかよ、俺が最近犯した女は20超えたけど白の柄もねぇやつだったぜ? 最近の人間のガキはませてんだねぇ……いいや、俺にはガキを犯す趣味はねぇ、てめぇは魔王様に献上する贄だ。」
魔王……贄……魔王の贄?
「いや……そんなの……いやぁ!!」
恐怖で本能がイメージするは抗いを意味する炎の盾。
それはやがて体内の魔力が術式に変換し、すぐにそれは私と魔物の間を割って入る境界となって現れた。
「っと……へぇ? やっぱお姫様ともなると魔術も嗜んでんだな!」
だが、私の抵抗も虚しくその魔物は片手で私の炎の盾を振り払い、また私の前に詰め寄って屈む。
「さて──っと!」
身体能力が人のそれを超えた魔物の力など、14の少女である私が抗えるはずもなく、嫌だ嫌だと叫んでも容易く私はその魔物の肩に担がれる。
「うるせぇなぁ……どうせてめぇは死ぬ運命なんだからもう諦めてろ。」
そうだ、ここはもう森をぬけた目の前なのだ。
一か八か、炎魔術でSOSを出そう。
「お願い、誰か助けてッ!!」
私は空高くで弾ける花火のような火炎球を放ち、それはやがて大空でたすけてという文字となり、大きな輝きを放った。
「なっ、めんどくせぇことしやがっ──ッ?!」
直後、キーンという耳鳴りのような音が響き、私は魔物の肩から崩れ落ちて落下し、その途中で私が下から横へと軌道を曲げられるほどの衝撃波が襲ってきた。
私がSOSを放ってからたった五秒ほどの間だった。
転がる私はけほっけほっと咳払いし、両足を失って地面に這いつくばる魔物に驚愕した。
「……きた、来たんだ! こんな事が出来るのは選定級冒険者がそれに並ぶ大団長ぐらいしかいない!!」
地面に這いつくばり、何が起こったのか理解が追いつかない魔物は私に怒号のような勢いで尋ねてくる。
「お、おい! な、何が来たって言うんだよ!! 教えやがれ!!」
「選定級冒険者……貴方たちが最強と信じてやまない魔王さえも凌ぐ人類の最高峰、魔王がこの星を滅ぼせるなら、彼らはこの世界を滅ぼすことだって可能です。」
「お、おい! 撤退しろと命じやがれ! でなきゃ、今すぐてめぇも道連れにしてやるぞっ!!」
魔物は這いつくばった状態で剣の先端を私の方に向けていつでも投げられる状況に構える。
「無駄ですよ。
もうあなたは助からない、私も真夜中の壁の外はとても危険なんだと今回の一件で身に染みて分かりました………もう二度と夜の外には出ません。」
「おいっ! おいっ!! いいから早く撤退しろと命じやがれってんだ!! ぶち殺すぞ!!」
「ありがとう………こんな斬撃出せるのはきっとツカサさんですよね、ありがとうございます……お救いくださって。」
堪忍袋の緒が切れた魔物は私に狙いを定め、容赦なくその剣を投げ放った。
それはソニックブームを引き起こすほどの速さで、到底這いつくばった状態から放たれる一撃とは思えない芸当。
しかし、次の瞬間にはその飛んできていた剣はカキンッ!!と音をたて、エネルギーのベクトルが私から空へと変わり、宙を回転しながらやがて地面に突き刺さって止まった。
「こんな真夜中にグリエント王国の第二王女様がどうして? 護衛もなしなんて危なすぎませんか?」
「いや……好奇心でちょっと出たくなったんです………昔からお城の中で過ごしてたから、外の世界ってのが興味ありまして………」
「これで外の世界が如何に危険なのか、よく分かりましたか?」
ツカサさんは相手が知性のある魔物だというのに余裕綽々で私に説教をする。
それほどまでに彼にとって、目の前の魔物は脅威にならず、障害でもないということだ。
「お、おのれぇ! ふん! いいさ、いま俺を殺れば体内で構築した術式が制御できなくなった俺の魔力と絡みついて死後の置き土産として魔術が発動する! てめぇがとっとと俺を一撃で始末しなかったのが誤算だったなぁ!!」
知性があるということはそれだけ厄介であるということ。
だが、彼は何も驚くことなく首を傾げて返した。
「なんの魔術か知らないが、それを口にしたら対策されるとお前は考えないのか?」
「対策だと? てめぇが魔術を斬ったところで意味がねぇんだよ、絶対に結果を引き起こせる魔術なんだ、それを明かして相手に脅しをかけた方が置き土産としての効果はデケェだろ?」
「なるほど、俺が斬っても無駄な魔術か………じゃあここでお前を始末して即刻離れるだけだな。」
「ふん、そうじゃねぇ! この地を魔物が活動しやすい黒く淀んだ土地へと蝕む呪いの魔術だ!! これが発動すりゃ、時間の問題でこの地も魔物の領土となる! そうすりゃ、選定級だろうがなんだろうが、数の暴力だ! 魔物の大群がてめぇらの国を滅ぼして後悔することになるだろうさ!!」
「………よく喋ってくれるな、ならお前をここに縫って二度とそこから動けないようにしてやるよ。」
「──は?」
【
──
ツカサさんは滑らかに太刀を動かし、這いつくばる魔物を蹴り上げ、宙に浮かせたところでその太刀を彼の四肢を切り裂く要領で振るった。
「──朧月。」
──
「グッ! あがぁぁぁあ?!! いてぇ! いてぇええ!! なんだよこれぇええ!!!」
魔物は宙で磔のように固定にされ、四肢には紅く半透明な斬撃の痕が残っている。
まるでそれが彼の四肢を空間に固定している釘のように。
彼は痛みに悶え苦しみ、叫びで訴え続ける。
「お前が死ぬまでその痛みは続く、だがその痛みはお前が自害に追いやるほどの精神的苦痛であり、その痛みそのものがお前を殺すことはない。
自分を殺すために残りの魔力を使って、体内の構築した術式を棄てるか、自分が死に果てるまで耐えるか……それはお前次第だ。」
カチンと鞘に太刀を納め、月夜が彼の背を飾る。
「あがぁ! てめぇえ!! 覚えてやがれ!! ツカサだな、てめぇのような腐れ外道な抜刀術使いは必ず後悔させてやるッ!! 絶望して絶望して、最期は悔いしかない激痛の死に追いやってやるっ!!!」
「叶うといいな、その願い。」
ツカサさんはスっと私に手を差し伸べ、汚れた私の顔を優しくハンカチで拭う。
「鼻が折れてるじゃないですか……これは急いで宮廷の治癒魔術師に頼まないといけませんね! 抱えてあげるので、俺の背に乗ってください。」
「あ……えっと、ありがとうございます………」
屈んで私に背を差し出す彼は大きく、その背中は今までの誰よりも頼りがいのある安心感で包み込んでくれた。
「──呪い殺してやる! てめぇら人間をなぁ!!」
「おう、じゃあな。」
私の一夜の大冒険は九死に一生を得て幕を閉じた。
これからはもう絶対に一人で外には出ないようにしよう。
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