期待しあうのでした

鉛筆の、コツコツ机を打つそのテストの解答用紙に、ぼくはたくさんの期待を込めています。

畑の畝の脇を埋め尽くす雑草を、丁寧に刈りとる母のように。

パンケーキにシロップで浸すいもうとのように。

母は歌いながら刺繍針を差し込む、そのイニシャルKを、ぼくは柱に寄りかかりながら見つめている、そんな期待のように。

殺風景の庭先に咲く一輪のピンク色のばらほどの健気さで。

鼻先をくすぐるかつてのラベンダーの香りを思い起こして、夏だった、眩しかった、とそこにあった土を踏みしめるように。

時々鳴っていた電話の、りんりん呼ぶのも、夏のうちわも、いもうとのこめかみを伝う汗も、ぼくには体を巡る緊張の波で。

ベルトを緩めたときの革の擦れる音、きしむパイプ椅子、金魚の水槽からあがる水のちょろちょろ流れる静けさ。

ぼくは知っている。それはあたかもプラナリアのように分裂しては、仲間と励ましあうのでした。期待しあうのでした。



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