第2話

朝におぼつかない足取りでやってきた道を、今度は早足で戻る。

ビルの向こうの空はうっすらと茜色に染まり、人の体温とよく似た心地の良い風は完全に夏が終わったことを知らせていた。


夕焼けから逃げるように無機質な道をずんずん進む。

眉間に深く皺が寄っているのが分かり、深いため息が出る。

こんなに弱くて情けない人間なのに、無駄に歳だけとっていく。

ああやって未だに誰かに大声で怒鳴られたり、好奇の目にさらされると、自分自身が一気に子供の頃に戻ってしまうのだ。


さすがに無理やり生ごみを食べさせられたり髪を切られたりすることはもうないのだが、それでも自分を守ろうと身体は勝手に強張ってしまう。

もうそんな風にプログラムされてしまったロボットみたいに。


 駅の改札を通ったところで、突然、視界がガクンと落ちた。

どうしようもない眠気が襲ってきた。

眠気、とも言い難い強制力を持ったなにか。

何もせずとも下へ下へと屈してしまう上半身を無理やり起こして、女は這うようにしてエスカレーターに上った。


どうして今。せめてアパートに着くまでは。

駅のホームに着いたところで、早くも限界はやってきた。

パソコンが強制終了するように、女はかくんと眠りにつく。

自分がどんな格好でホームの汚い床に寝そべり、周りではどんな反応があったかは分からない。


ただ意識が途切れる寸前に、近くのベンチで腰かけていた中年女性が驚いた様子で立ち上がったのが見えた。

アスファルトのカビ臭い匂いが鼻につく。

もうどうして、こうなにもかもがうまくいかないのだろう。


勘違いで責めてきたあの部長が憎い。

へらへら笑っていた二年目の新人も憎い。

職場の人間が皆憎い。

なによりも自分が憎い。

世界などとっとと滅亡してしまえばいい。

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