幕間:高尚な趣味と、蒔いた種

高尚な趣味と、蒔いた種


  *


『ああ、こんにちは。どうも、ただいまです、柿峰先生。


 いや今日は四講目が休講になったので、思ったよりも早く帰れましてね。さぼった訳ではないですよ、僕真面目に大学生してますから。まあ、昨日はほら、晴人の葬儀があったでしょう。それで休みましたけれどね。


 そう言えば滝本の洋子ちゃん帰ってますか? まだ? でも今日は高校は五限目までの筈だからもうすぐ帰って来るでしょう。そうしたら先生、また部屋一つ貸して貰えますか? いやいつもの事じゃないですか。大丈夫、汚したりしませんよ。手早く終わらせますし。


 いやだなあ、そんな僕の事を盛りの付いた犬みたいに言わないで下さいよ。別に僕は自分の為にやってるんじゃないんです。シズクの為ですよ。シズクは子供が出来ないから、僕が代わりに作るんです。それで一番出来の良い子をシズクにあげるんです。


 血が濃過ぎるって言われたらまあそうなんですけどね。でもいいんですよ、出来損ないが産まれても利用価値がありますし。いい材料になるんですよ。肥料? そんなんじゃありませんって。確かに要らない部分は肥料にもしますけどね、それよりもっと重要な目的があるんです。


 僕はミズチの開祖であるツユコさんの目標を成し遂げる為にも、こうやってやりたくない女と交わって材料を集めてるんです。曾祖母の日記で全部知ったんです。僕には、偉大な血が流れている。復讐を成す為に動いてるんです。


 幸いにも偉い奴等はみんな、曾祖母や僕の作った作品を求めてミズチにやって来る。邪魔な奴を殺したくて僕らの作品を使って、そうして呪いをばら撒いてる。呪いはどんどん偉い奴等を蝕んで、徐々に拡大して、いずれ日本は全部、呪いに侵されて駄目になっていく。ツユコさんを追放した奴等の子孫が気付いた時にはもう手遅れで、最後には全部、僕らの手に落ちるんだ。


 荒唐無稽? みんなそう言うでしょうね。でもあながちそうとも言い切れないでしょう。あの大物政治家の突然死だって官僚の変死だって大手銀行の頭取の急死だってあの自動車会社の副社長の事故だって、みんな静宮の呪い具が原因だったら……ほら、ね。


 先生も僕らを頼れば良かったのに。おおごとになる前にあの大学病院の局長とか殺せば、先生の問題なんて簡単に握り潰せたかも知れないですよ?


 ああ、でもそうですね。成る程、先生は今の状況の方が満足なんですね。


 確かに今は『子供寮』があって、よりどりみどりですもんね。先生は誰がお気に入りなんです? ああ、真奈美ちゃんですか。可愛いですよね、あの子。今小学校の一年生でしたっけ。


 あんな小さな子相手だと、どんな風な事するんですか? 僕、幼児に欲情なんてしないから分からないんですよ。教えて下さいよ。まさか突っ込む訳じゃないんでしょう? そうですよね、裂けちゃいますもんね。


 はは、今更取り繕ったって無駄ですよ。愛してるとか高尚な趣味とか、どんなに綺麗に言い換えてもただの性犯罪じゃないですか。変態には変わり無いでしょう。


 いや、別に脅すつもりなんてありません。今迄だって黙認してきてるでしょう。先生がミズチに便宜を図ってくれてるからそのお礼なんですよ。別の言い方をするならば取引ですよね。交換条件みたいな。


 それにしてもなかなか難儀な趣味ですよね。ああ、だからこの年になるまで子供がいなかったんですか。後はどうするんです、この病院。先生が高齢になって医者出来なくなったら……、ああ、確かに。そうですね、ミズチの誰かが医者になればいいのか。


 僕はそんなつもりは無いですよ。現に進学したのは医学部じゃないですし。僕は裏でミズチを支えるんですよ。そうですね、最終的には照子と結婚する事になると思います。井戸家はそういう立場ですから、便利なんですよね。


 別に結婚しても今のような事をやめるつもりは無いですよ。祖先やシズクの為にもね。……だからさっきも言ったじゃないですか、好きで女抱いてるんじゃないですって。気持ち良くなる為だけなら、母さんが居れば充分ですから。


 変態? 狂ってる? 先生に言われたくないですね。


 ──ああ、洋子ちゃんが帰って来たみたいです。部屋、借りますね。


 患者さんも別に居ないし、先生もこれから真奈美ちゃんと楽しむんでしょう? ははっ、お互い様じゃないですか』


  *

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る